第28話 赤道勇陽の衝撃
赤道勇陽は、徹頭徹尾、無茶苦茶なヤツである。
常に驚きを届けてくれる見ていて飽きないヤツなのだが、長い付き合いの中で最大の衝撃を受けたのは、やはり中学の入学式の時だろう。
勇陽とは毎日のように遊んでいて、放課後も土日も山や川に連れ出され、道場では共に剣の修行(主にこっちはボコられるだけだった)をしていた。
だが、小学校は別だった。
だから、気づかなかったのかもしれない。
「よお友夏! やっと一緒の学校に通えるな! 剣道部入るよな剣道部! 毎日遅くまで部活して帰りはどっか寄り道してこーぜ!」
中学校の入学式が終わり、教室でヤツと会った時、僕は信じられないものを見た。
あまりの衝撃に完全に凍ってしまって動けなくなってしまった。
「お、おま……ゆ、勇陽……?」
「おう、どうした? 見慣れた親友の顔だろ?」
確かに、顔は一緒だ。でもそこじゃない。
問題は首から下の方だ。
ぷるぷる震えながら指さす。
「ゆ、勇陽……お前、その格好は……?」
「あん? 制服だろ制服。お前も着てるじゃん」
当たり前だが、勇陽の着ている服は学校指定の制服だ。
似合ってるし、違和感はない。
だけど、それがより自体の重大性を高めている。
勇陽の着ている制服は僕のものとは違った。
いや、ブレザーだから上は大差無い。問題なのは下だ。
なんと勇陽は、スカートを履いていたのだ。
「……勇陽、それ誰から奪った制服だ? 早く元の子に返してあげなよ」
「は? 何言ってんだ? 友夏こそどっかで頭打ったか? この制服は間違いなくオレんだぞ」
「……ああ、そうか! 間違えて女子用の制服を買っちゃったんだな!」
「いや間違えてねーよ」
「えーっと、じゃあ……そうか実は女装趣味があったんだな? 僕は別にそういうのに理解あるからいいと思うぞ! 似合ってる似合ってる」
「いや、趣味ってわけじゃねーって」
ずっと呆れたような顔をしていたのだが、急にはっとしたような表情になった。
「……もしかして、気づいてなかったのか?オレが女だって」
「……女の子? 誰が?」
「だからオレだって」
騒ぎを見ていた、他の生徒たちの方を振り返る。
「え? ナニコレ、ドッキリ? 誰かカメラ回してる?」
みんな無言で首を横に振っている。
何人か、気の毒そうな目でこちらを見ていた。
「……マジで言ってる?」
「マジマジ。超大マジ」
どうやら、冗談ではないらしい。
そのことが理解できるまで、しばらく顔を上げて天井を見つめていた。
やがて、息をゆっくり吸い。
絶叫した。
「はああああああああああああああああああああああああああ!?!?」
そりゃ、勇陽は綺麗な顔をした美少年だと思っていたけれど。
まさか女の子だったなんて、思いもしていなかった。
「バカだなーお前。何年一緒にいるんだよ。普通気づくだろ」
勇陽はただ笑って呆れてただけだったが、どっちかと言えば、自分の鈍さに絶望していた。
ただ、幸いにも勇陽が実は女の子だと発覚したからといって、僕たちの関係は何も変わらなかった。
勇陽は変わらず接してくれていたし、しばらくして女子の制服にも見慣れた。
高校生になってもあいつの外見は大して変わらず、ずっと男子小学生みたいな見た目だったというのも大きいかもしれない。
だから、僕たちの関係はずっと変わらないと思っていた。
あいつがいなくなるまでは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます