第24話 合同練習

 なんだかんだあったが、ようやく旗本高校との合同練習が始まった。


 いつもの剣道場も30人も入ると少し狭く感じる。

 うちの部員たちも若干緊張気味だ。


 顧問の先生の指示で、部員たちは今基本的な練習を行っている。

 さすが県内最強と言われている旗本高校。

 部員たちは皆レベルが高い。

 素振りや足さばきを見るだけでも、竹刀を振る姿勢や足運びがどれも非常に美しい。それに気迫も十分。


「さすがだ」


「そちらも。正直予想していたよりずっとレベルが高いわ」


 お世辞だとしても、部員たちが褒められて悪い気はしない。

 僕たちは部長同士改めて挨拶を交わしていた。


「旗本高校剣道部、主将の神川夜月です。本日はよろしくお願いします」


「中高校主将の心野です。こっちは副主将の隅野。こちらこそよろしくお願いします」


 彼女はふふ、とおかしそうに笑っていた。


「こんな形で友ちゃんに会えるなんて思ってもみなかった。驚いたわ」


「いや、びっくりしたのはこっちだよ。まさか2人が旗本高校にいたとは」


 神川さんのお父さんは転勤族で、昔から色んな地方を転々としていた。

 だから彼女がどこの学校にいるのか把握していなかったのだ。


「去年ぐらいからあの高校にいるわ。卒業まではちゃんといられる予定らしいけど」


「そうだ。龍神杯で優勝したんだよね。おめでとう」


 彼女は中学、高校時代から女子の部で常に上位に食い込んでいるスター選手だ。

 5ヶ月前の大会ではついに悲願の優勝を果たした。

 まぁその頃はちょうど勇陽がいなくなった時期であり、とても大会どころではなかったこともあったので、自分で調べたわけではなく彼女の祖父である『師匠せんせい』から聞いたのだが。


「絶対王者不在の大会で優勝してもあんまり嬉しくないわ」


「いや、そんなこと……」


 だが本人はいたってドライな反応だ。

 まぁそれも致し方無いことだろう。

 その大会では、常に優勝をかっさらていた人物が参加していなかったのだから。


「それにしても、友ちゃんが主将だって聞いて、びっくりしちゃった」


「似合わないのはわかってるよ。本当は僕なんかより、勇陽の方が相応しいんだけどね」


「そう? あの人、部長ってガラじゃないでしょ。実力は憎らしいほどにあるけど、昔から人に教えるのはだったじゃない。後輩への指導とか、まともにできるとは思えないけど」


「それは、まぁ」


 否定しづらいところだ。

 あいつは天才だから『できない苦しみ』なんてわからない。

 おまけに超がつくほどの感覚派だから、言語化して説明することも苦手。

 要するに、人に何かを教えことが恐ろしく下手くそな奴なのだ。


「オイ。赤道はどこにいる」


 そこに、1人の男が割って入ってきた。


 体の大きい、鋭い目つきの男。

 神川夜月の双子の弟、神川刀斬。

 男子の部で出た大会全ての優勝をかっさらう、まさに最強の剣士。


 こいつは昔から僕など眼中に無い。

 興味があるのは勇陽だけだ。


「ちょっと刀斬! 友ちゃんに失礼でしょ!」


「夜月は引っ込んでろ。おい、聞いているのか雑草。赤道はどこだ?」


「勇陽は……来ていないよ」


「なに?」


 そう言うと、彼は途端に興味を失ったように、くるっと反対を向いて道場の入り口の方に歩いて行った。


「ちょっと刀斬どこに行くの!?」


「赤道がいないなら、俺は出ない」


「はぁ!?」


「雑魚といくら打ち合ったところで時間の無駄だ」


 確かに高校最強の男と比べたら大したことはないかもしれないが、その言い方にカチン、とくる。


「ごめんね友ちゃん。でも、私も残念だわ。……あの人がいると思ったから練習試合を受けたところがあったのよ」


 この部で全国クラスの実力を持っているのはあいつだけ。

 そう言われてしまっても仕方ないのないことだった。


「それは……ごめん」


「いったいどうしたの? 前の大会に出てなかった理由を問い詰めてやるつもりだったんだけど。体調でも崩した……なんてことはありえないか。勇陽さんだし」


「いや……えっと……」

 

 ぐっ、と言葉に詰まる。

 勇陽のこと、どうやら師匠せんせいから聞いていなかったらしい。


「まぁいいわ。私たちもそろそろ混ざりましょうか」


 そう言って、竹刀を取って部員たちの方に走っていった。

 幼馴染とはいえ、あいつが行方不明になった、なんて言いふらしたくなかったので少しだけほっとした。


 思うところは色々あるが、今は部長としての立場がある。しっかりしないと。

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