第20話 お前は誰だ
試合開始から30分が経過しようとしていた。
活動可能なエリアは残りわずか。この試合もそろそろ終わりが近づいている。
「あのルーナって人、カナホの知り合い? ずいぶん嫌われてたみたいだけど」
「全然! 話したこともないですぅ! なのにあんな事言うなんて、意味わかんないですよぉ!! というかユウヒ様こそ、あの人と知り合いっぽい雰囲気でしたけどぉ?」
「うーん……そうなのかなぁ」
あの速さ。あの流水のような剣さばき。
もし過去にブレイブロワイヤルで戦ったことがあるのなら忘れるはずがない。
勇陽なら知っているのだろうが。
いや、待てよ。彼女は『ここでははじめまして』と言っていった。
となると、あいつが会ったことあるのはブレイブロワイヤルの中ではなくて……。
「ユウヒ様、あれ!」
その言葉に、ハッとして意識を試合に戻す。
フィールドの中心にある大きな湖のほとり、あの男はいた。
目をつむり、正座して座っている。
その姿はまるで、剣道で試合を待つ選手かのようだ。
僕たちが黙って近づいていくと、不意に立ち上がり、鞘から剣を抜いた。
ただ剣を持って立っているだけ。
たったそれだけなのに、やつは恐ろしいプレッシャーを放っていた。
それ以上近づいたら、斬る。
何も喋っていないのに、気迫だけでそう言われた気がする。
心が折れそうになるところを、ギリギリのところで踏みとどまる。
……勇陽。力を貸してくれ!!
「……カナホ、行くよ!!」
「はいですぅ!!」
先手必勝。何も考えず真っ先に攻撃する。
それがあいつの戦い方だ。
自慢のスピードを活かし、体を低くしながら下から斬りかかる。
「はぁ!!」
「……」
だが、剣は空を切った。
相手はほんのわずかだけ体を後ろにずらし、最小限の動きで回避したのだ。
さすがはトップクラスのプレイヤーといったところか。
でも、その程度は問題ない。
振り上げた剣を両手に持ちかえ、そのまま地面を蹴って飛び上がる。
「『サンセットブレイカァァァァ』!!」
スキルの勢いに任せ、大きく振り下ろす。
当たればただではすまないはずだ。
「……『破断』」
「なっ!!」
だが、ザトーが剣を横に構えただけで、簡単に受け止められてしまった。
「なんだ、今のは……? ぐあっ!!」
相手はそのまま体をひねり、剣を大きく振り回し、僕の体を弾き飛ばす。
なんて力だ。ダメージはないが、地面に叩きつけられてしまった。
「ユウヒ様! 今のは相殺系のスキルですぅ!! 攻撃してきた相手の攻撃スキルを打ち消すんですぅ!!」
「……なるほど、な!!」
さすがはランキング上位プレイヤー。厄介なスキルを持っている。
今のように攻撃スキルのタイミングに合わせられたら、ダメージは与えられずに技の後の硬直でこっちが隙だらけになってしまうというわけだ。
だが、相手はなぜかその隙を狙って攻撃してくるわけではなかった。
こちらの出方をうかがっているのか、ただじっと睨みつけるように見ているだけ。
はっきり言って不気味だ。
「あいつ、一体何を考えているんだ……?」
ただでさえ対面しているだけで圧が半端ではないのに、考えがまったく読めない。
───どう戦えばいい?
───どうすればこいつを倒せる?
焦って思考を巡らせていると、カナホが側に寄ってきた。
「ユウヒ様。どうしました? 大丈夫ですかぁ?」
「あ、ああ。ただ……あいつに勝てるかどうか、ちょっと不安なだけ」
しまった。つい、本音が漏れてしまった。
本物のユウヒなら、絶対に弱音なんか吐かない。
勇陽らしくしないといけないのに。それが僕の役割だというのに。
失望されたかと思ったが、彼女は優しく微笑んでくれた。
「大丈夫です。迷う必要はないはずです。あなたが思うようにやってください。私は何があっても、あなたをサポートしますから」
その言葉が、僕に勇気をくれる。
ゲームの中だというのに、思わず涙が出そうになる。
「……ああ。そうだな」
すべてが終わったら、この子にはちゃんと謝ろう。
騙していて悪かったと。
土下座して謝って、そして必ずお礼を言おう。
僕を支えてくれて、ありがとうと。
「カナホ、ここまで来て出し惜しみはなしだ。一気に行くよ!」
「はいですぅ!! 『ビッグウェポン』!!」
カナホのスキルにより、たちまち剣が巨大化する。
『ビッグウェポン』は攻撃スキルではなくバフスキルだから、さっきの技で無効化されることもない。
「でやああああああああああああ!!!!」
そのまま剣を横に向け、水平に振り回す。
10mを超える大きさになった巨大な剣の、超長射程の攻撃。
まともに食らったら、上半身と下半身が真っ二つになるだろう。
さすがにこれを受けきるのも、わずかな動きで回避することも不可能だ。
ザトーは大きく後ろに下がって回避せざるを得ない。
「……?」
こちらの意図が読み取れないのか、少し戸惑っているようだった。
こんな大振りな攻撃で当たるような相手ではないことはわかっている。
簡単に避けられることは、想定済みだ。
「まだまだああああああ!!」
2回、3回。何度でも振り回す。
ザトーはそのたびに大きく避けて後ろに下がる。
だが。
「……!?」
急に足を止め、それ以上は下がろうとはしなかった。
いや、下がることができなかったのだ。
なぜならば。
「あっ!」
カナホがこちらの意図を理解して、声を上げる。
広範囲の攻撃で追い込んだ先。
そこは、湖だ。
「……チッ!!」
水深が浅いところは歩行が可能だが、移動速度が大幅に下がる。
俊敏に動くことなどできない。
相手はここにきて初めて、焦った顔を見せた。
だが、こちらもそろそろビッグウェポンの効果がきれる。
練習で何度も使ったので、タイミングはばっちり把握しているのだ。
剣が急激に小さくなった瞬間、地面を蹴って距離を詰める。
「もらったぁ!!!」
無効化されないよう、無暗にスキルは使わない。
一気に近づくと、敵の頭を狙って剣を大きく上に構え、そのまま振り下ろした。
───ガンッ!!!
だが。
その刃は、届かなかった。
確実に首を狙ったはずなのに、そこにあったのは相手の剣の刃だった。
あれだけお膳立てしたというのに、ギリギリのところで防いだのだ。
逃げ道もなく、さきほどの遅い大振りから一転して超高速の攻撃。
普通の相手なら間違いなく仕留められたはず。
「クソッ! あと少しだったのに!」
こちらは1回こっきりの『ビッグウェポン』まで使って、なんとか追い詰めたというのに。
結局まともにダメージを与えることはできなかった。
相当苦しくなったと言える。
相手はさぞ余裕な顔をしているのかと思ったら、攻撃を防いだ方のザトーの方が、逆に驚いた顔をしていた。
「……なんだ、今の攻撃は」
「え?」
さっきまで一言も喋っていなかったのに、愕然としたように口を開いた。
そして、とんでもない事を聞いてきた。
「貴様は、一体誰だ……?」
その言葉に受けた衝撃を隠すことなど、できなかった。
「は、はぁ? 誰って、オレは……オレは、ユウヒだ!!」
焦って少しどもってしまう。
そう、今の僕はユウヒだ。
勇陽のように強く、絶対に負けない。どんな状況でも諦めない。
そんなスーパーヒーローのような存在。
だというのに。
「……貴様はユウヒじゃない。貴様のような奴が、ユウヒであるはずがない」
「なっ……!」
忌々しそうに、舌打ちまじりに吐かれた言葉に絶句する。
こちらに剣を向け、その怒りに満ちた形相に思わず後ずさりしてしまう。
「お前は何者だ? なぜユウヒの名を騙る?」
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