第17話 Cブロックの戦い
いよいよ、Cブロックの試合が始まる。
光に包まれ、戦いの場に転送される。
ランダムに選ばれたステージは森。
何度か戦ったことのある場所だが、木々が辺りを覆っていて薄暗く、視界が悪い。
「このステージ、どこに敵が隠れているかわかりにくいんだよな……気を付けていこう」
「了解ですぅ!」
敵が木や草の影に潜んでいることも多い。慎重に、だが素早く森を進む。
このステージは中央に湖があり、その付近に小屋が建てられていて、そこを拠点にするのがセオリーだ。
できるだけ早くそこを目指そうとしていたのだが、当然同じ事を考えるチームは多い。
「……カナホ!」
「はいですぅ!」
相方に小声で合図する。
さっそく敵だ。目の前の道を小走りに進んでいて、数秒後には射程内に入るだろう。
こっちは草陰に隠れているから、おそらくまだ気付かれていない。
「はあっ!!!」
隙をつくなら、ここしかないだろう。
視界外から飛びかかり、そのまま斬りつけた。
「なっ!!」
まずは不意打ち成功。しかし、浅い。
相手の体の中心に攻撃を当てなければ、大きなダメージは与えられない。
敵のHPは2割ほどしか削れなかった。
さすがは予選を勝ち抜いた強者。
不意を突いたというのに咄嗟に体をそらし、被害を最小限に抑えたのだ。
「あんたか、ユウヒ! ここで戦うのを楽しみにしてたゼェ!」
そう言って拳を打ちつけ、ファイティングポーズを取った男の名は『カザマ』。
確か、去年のBCSで
いかにも武闘家といった格好していて、当然武器はナックル。
剣よりもリーチは遥かに短いが、その分俊敏性は高い。
火力の低さを手数で補う戦い方をする。
「でやぁぁぁぁあ!! 『ガトリングブロウ』!!」
「危ない! ユウヒ様!」
「ぐっ!!」
さっそく内側に入られ、弾丸のようなパンチの雨を腹にもらってしまった。
現実なら息が止まるかもしれない衝撃だったろうが、カナホのバリアーのおかげで無傷だ。
慌てて後ろに下がって距離を取った。
得物を握っていない相手と戦うのは、間合いを測りかねて未だに苦労する。
基本的にはリーチが長いこっちの方が有利なのだが、懐に入られてしまったらまずい。
「きゃあ!!」
「!? カナホ!」
その時、物陰から蛇のような長い物体が飛んできたかと思うと、カナホを打ちつけた。
───はめられたか……!
心の中で舌打ちをする。
1人は囮としてわざと姿を見せ、もう1人は潜んでいたわけだ。
「まさかここであんたと当たるなんてね、ユウヒ!! 覚悟しな!!」
いかにも女王様、という風貌の女性だ。
持っている武器は、鞭。
扱いが難しいため使い手の少ない、かなり珍しい武器だ。
威力は低めだが、攻撃範囲が広く剣よりも長い射程を持っている。
やっかいこの上ない。
「カナホ、無事か?」
「だ、大丈夫ですぅ!」
カナホは耐久が高いので、大したダメージにはなっていない。
不意を突かれたとはいえ、まだ大丈夫だ。
「自己紹介させてもらうよ。『水晶の華』! リスタルとは私のことサ!!」
ランキング18位。拳闘士、疾空のカザマ。
ランキング20位。鞭使い、水晶の華リスタル。
「どちらもトッププレイヤーですぅ! いきなりこんな強豪に当たるなんて!」
「強敵じゃないプレイヤーがこの場にいるわけないさ」
落ち着いて思考を切り替える。
「カナホ、あの鞭はかなり後ろまで届く。呪文を使っている時に狙われないよう、距離に気をつけて」
「はいですぅ!」
「おしゃべりしてる暇はねぇゼ!! でやぁぁ!!」
刹那。カザマが距離を詰めてくる。
ボクシングのようなポーズで体勢を低くし、爆弾が爆発したかのような破壊力を持つ拳を振り上げる。
「『ダイナマイトぉぉぉ……アッパー』!!」
「ぐあああ!!」
すんでのところで相手の拳を刀身で防いだが、その勢いを殺し切ることはできなかった。
体ごと吹っ飛ばされ、地面にたたきつけられる。
「ユウヒ様無事ですか!? すみません、バリアーが間に合わなくて……きゃあ!?」
心配して飛んできたカナホに、後ろからリスタルの鞭が飛んでくる。
「ホラホラッ!! ボサッとしてる暇あるのかい!? 『スネークウィップ』!!」
鞭が蛇のようにしなり、まるで意思を持っているかのように襲い掛かかってきた。
「ユウヒ様! 危ない!!」
「なっ!?」
カナホが僕の上に覆いかぶさり、ダメージを肩代わりする。
向こうの火力は大したことがないようなのが唯一の救いだ。
カナホのHPはまだ6割以上残っている。
「すまない、カナホ。大丈夫か?」
「いててて……なんとか無事ですぅ」
痛みなど感じないはずなのに、まるで本当に痛そうにしているのが少し面白かった。
「……このまま戦うのは不利だな」
相手はスピードの速いカザマがこちらを翻弄し、遠くからリスタルがじわじわとダメージを重ねる戦法だ。
しかしこちらは遠距離から攻撃する術がない。
それにカザマのようなリーチが短い相手には、ずっと装備している大剣では取り回しが悪く、どうしても防御に不安が残る。
長期戦は不利だ。
「どうしますぅ? 逃げますか?」
「いや……」
確かに逃げるのも一つの手だ。
生き残れば勝ちのバトルロワイヤルでは、相性の悪い相手と無理に戦う必要はない。
でもこんな時。勇陽なら、絶対に逃げない。
どれだけ不利な状況でも、真正面からぶつかっていく。
引くこと知らない暴走機関車。それがあいつの戦い方だ。
「ここで逃げても、どうせ最後の2組になるまで戦わないとけないんだ。だったら……やるさ!」
カザマは機動力を重視しているからか、装備も軽装で軽めの鎧を着ているだけ。
だとしたら防御力はそこまで高くないはずだ。
必殺技が当たりさえすれば、きっと倒せる。
カナホに目配せをし、そのまま前へ出る。
地面を大きく蹴り、一気に飛び込んで、決着をつける!!
「『サンセット……ブレイカーァァァ』!!」
「どりゃああああ!! 『ダイナマイトアッパー』!!」
振り下ろす剣に対して、カザマは真っ向から拳を振り上げた。
現実なら相手は大怪我をするところだろうが、これはゲームだ。
───ガアン!!!
「くそっ!!」
「へへっ! みたか!!」
お互いの必殺技がかち合い、2人とも弾かれた。
───ビュン!!
「っ!!」
「バリアー!!」
技の終わり際に地面に着地した瞬間、リスタルの蛇のような鞭が大きくしなりながら飛んできた。
さすがはトップランカー。ほんのわずかな隙も逃したりはしないようだ。
カナホのバリアーが間に合ったおかげでダメージを受けなかったが、こうして僕とカザマが打ち合いをしている隙を狙ってリスタルがじわじわと削ってくる。
だが
このままじゃ、らちがあかない。
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