第14話 理由
さて、ここら辺で改めて大会概要を確認しよう。
年に一度行われる、ブレイヴロワイヤル最高峰の大会、
予選を突破したチームは全部で50チーム。合計100人だ。
それぞれのチームがAからEまでの5つのブロックに分かれていて、各ブロックの上位2チームが本戦の
最後に10チームで戦い、そこで勝ち残ったチームが優勝だ。
何か月もの時間をかけて行われてきた、とても規模の大きな大会だ。規定はしっかりとしている。
長ったらしい大会規定をじっくり読み込んでいると、それらしき文章が見つかった。
やはり別人が操作していることが発覚したら、即座に失格となるらしい。当然言えば当然だ。
だが、入れ替わりはそう見つかるものではなさそうだ。
ここ数日、『ドリームウォーカー』を使った大会について、ネット上で詳しく調べていた。
全てオンライン上で行われるBCSでは、誰かに僕が偽物だと疑いを持たれ、運営に報告されて詳しく調査されでもしない限りは、ばれることは少ないらしい。
そもそもそんな事をする理由があまりない、というのが主な原因だろうが。
ほんの少しだけ安心できたが、油断はできない。
僕のせいで失格なんてことになったら、勇陽はともかく、カナホに申し訳が立たない。
「あれれ、難しい顔してどうましたぁ? 大丈夫ですって! ユウヒ様なら、絶対勝てますからぁ! 気楽にいきましょうよ!」
本人はこの調子で、いたって平和そうだが。
事情を知らないとはいえ、その能天気さを少しでいいから分けて欲しい。
「そういえば知ってますぅ? ユウヒ様が大会で勝ってから、ビルドを真似したプレイヤーがメチャクチャ増えたってハナシ」
「え、そうなのか……そりゃ気の毒に」
使ってみてわかったが、こんなの常人に扱える代物じゃない。
まともに動かせるのは勇陽のようなごく一部の変態だけだろう。
僕はあいつを間近で見ていたからなんとか真似できているが、他人にオススメしようなんて微塵も思わない。
「大会上位者のビルドはネットで公開されて注目されますからね~。みんな真似したがるもんですよぅ。まぁ、無茶苦茶で本人以外は使えないクソビルドなんて言われてましたけど」
「ということは、対策もされてるってことか……」
大トロたちのような極端な
そう考えると、途端に不安になる。
「大丈夫ですぅ! ユウヒ様と私のコンビは今まで相性の悪い相手にも当たってきましたけど、勝ってきたじゃないですかぁ!」
だが、カナホがいつものように能天気な声で励ましてくれた。
「君といると、大会なんてなんてことないように思ってしまうよ……まぁ、なるようになるか」
「ですですぅ!」
一緒に勝ってきたユウヒは僕じゃない。それが少し申し訳なく思うが。
そこへ。
「いよう、お2人さん。大会に向けての準備はばっちりみたいだな」
「順調そうだなしかし」
話しかけてきた2人組がいた。大トロとトラサブローだ。
前に対戦して以降、時々話すようになった。
「装備は決まったのか? 必要なものがあったらなんでも貸すぞ」
「無料だぞしかし」
「オリジナルスキルも、おすすめのレシピを教えてやろうか?」
「もちろんタダだぞしかし」
「なんだ? やけに親切だな? また何か企んでるんじゃないだろうな?」
「いやいや、俺たちは純粋に応援するつもりだって!!」
「もうお前たちを貶めるつもりなんてないし!」
「わかってるよ」
軽い冗談だ。こちらも彼らが悪い人間ではないことぐらいとっくに理解している。
だが本気で慌てる2人がなんだか面白くて、カナホと一緒にクスクス笑っていた。
「ブランクで鈍った勘は取り戻せたみたいだな」
「モニターであんたらのリプレイを見てたんだし」
「ええ、バッチリバチバチですよぉ! 今のユウヒ様と私なら、誰にも負けません!!」
今までの勇陽の戦いを見てきた彼らがそう言ってくれるのは素直に喜ばしい。
自分の動きが、あいつの動きに近づいているということだからだ。
そうだ。この二人と言えば。
「なぁ、二人はどうしてこのゲームをやっているんだ?」
おもむろにそう尋ねると、デコボココンビは顔を見合わせた。
そして、同時に答えた。
「「面白いから」」
「……いや、そりゃそうなんだろうけどさ」
1ミリも悩む様子なくそう言い放てるのは大したものだとは思うが。
「……実は、普段ゲームなんかしない友達が、このゲームにはまってたみたいで。ワケが知りたいんだ」
カナホがゲームをする理由はなんとなくわかった。
だが、この2人はどうなんだろう。
彼らは僕の数少ない人脈の中で、もっともこのゲームにはまっている連中だ。
こいつらからなら、勇陽がこのゲームをプレイしていた理由についてのヒントを得られないかと思ったのだ。
「変なこと聞くな?」
「おめーだってはまってるんだし、わかるんじゃないし?」
「初めて日が浅いオレよりも、2人の方がこのゲームの魅力についてよく知ってるだろ?」
突拍子もない質問だったが、彼らは真剣に考えてくれた。
「うーん、まるで本当にこの世界で戦ってるみたいなすげえリアリティがあるよな」
「チームで戦えるし。バトロワだし」
「でもそれは、他のゲームでも大差ないんじゃないですかぁ? ドリームウォーカーのゲームはどれもまるで現実みたいだし、チームバトロワなんていっぱいありますよねぇ?」
カナホが冷静にツッコミを入れ、2人はますます考え込む。
「そういわれるとなぁ……お前の友達ってどんなやつだ?」
「小学生男子みたいなやつだよ。趣味は竹刀を振り回すことと、強いヤツを倒すこと。あと人助け」
「なんだそいつは? バトル漫画の主人公か?」
呆れたような口調で言われて、苦笑するしかない。
「似たようなもんだな」
「なんだか、ユウヒ様みたいですぅ」
鋭いことを言うカナホに少しヒヤッとさせられた。
「難しく考えすぎかもしれんぜ。単に誰かに誘われて始めただけかもしれん」
そんなありきたりな理由だろうか。どこか違和感がある。
「そりゃこのゲームの魅力はいっぱいあるぜ?自分のやりたい方法で戦えるところとか、強いヤツと戦えるところとか。でも、ゲームにはまるきっかけなんて、案外そんなもんだぜ」
「そうなのかなぁ……」
「事故で半身不随になって競技に出れなくなったスポーツ選手が、友達に誘われてこのゲームを始めてランカーになった、っていうのをネットで見たことあるしな」
「そんな人がプレイできるのか?」
「そこが『ドリームウォーカー』のいいところだぜ。頭で考えるだけで操作できるからな。現実世界で骨が折れていようが、ゲームの世界では関係なく走り回ったり剣を振り回したりできるってもんだぜ」
「ああ、そっか」
技術の進歩で助けられている人がいるのはいいことだ。
きっとそういう人にとって、『ドリームウォーカー』は大事な心の支えになりうるものだろう。
まぁ、勇陽のことにはあまり関係なさそうだが。
「わかった。ありがとう」
正直参考になったかは怪しいところだが。
「しかしこうして接してみると、普通に男だよな」
「だし」
「ん、あ?」
急に何を言い出すんだ、こいつらは?
「あ、いや、結構前に話した時、なんか女が男っぽい喋り方をしてるのかな、と思ったんだが]
「動き方とかも、男っぽい女って感じだったしな」
あまりの衝撃で絶句してしてしまった。
カナホがケラケラと笑いだす。
「ええ? ユウヒ様が!? まっさかぁ!!」
「なんでそう思った?」
「ただの勘だぜ。これでも何百人ものVRMMOプレイヤーに会ってきたからな」
「ネカマプレイヤーに何度騙されたことかわからんし」
やれやれ、見る目の無い連中だ。
まさかあの勇陽から女性らしさを感じるやつがいようとはな。
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