第13話 変わらない親友
しばらくの間、カナホと共にランク戦をする日々が続いた。
僕が初めてログインしてから本戦が始まるまでの期間はわずか1週間。
ともかく足りないものがある。それは経験だ。
「カナホ! そっち行ったよ!」
「わかりましたぁ! 逃がしませんよぉ!!」
「クソッ!! ここまでか!!」
「終わりだ! サンセットブレイカー!!」
そこへ背後から大きく飛び込み、必殺技を浴びせる。
───ザシュッ!!!
派手な斬撃エフェクトが出て、相手のHPが溶け、光の粒子に変わる。そして。
『YOU ARE CHAMPION!!』
僕たちの勝ちだ。
だが今回はそれだけではない。
『RANK UP!! LEGEND RANK!!』
大げさなファンファーレが鳴り響き、ランクアップの表示がされる。
「いやー久しぶりにレジェンドランクまで上げれましたねぇ」
「大会に間に合ってよかったよ」
数日間みっちり練習がてらランクを上げ、一番上のランクまで上がってきたのだ。
ここまで来るのに概ね勝ちを重ねることができたが、常勝というわけにはいかなかった。
というのも、僕がユウヒというアバターの性能に振り回されることが多かったからだ。
高い攻撃力と俊敏性を活かすのは、現実での勇陽の戦い方そのものだ。
あいつはそれで両方の世界で常に勝ち続けていた。
つまり負けるのは僕の責任。あいつの動きを100%真似できていないということだ。
防御力が低いから剣で防いでもガードを崩されてしまうことがある。
できるだけ勇陽のように常に動き回って回避するよう心がけないといけない。
他にも、遠距離から魔法や弓で狙い撃ちされたりといった、ユウヒの防御力の低さを突くことができる相手には気を付けないといけない。
カナホのバリアーだって常に張れるわけじゃないからだ。
「どうしますぅ? まだ対戦しますかぁ?」
「いや、カナホ。実はスキルについて確認したいんだけど……」
カナホの
回復したりバフをかけたりするのが得意なのだが、彼女のビルドはユウヒをサポートすることに特化している。
これまでは僕の経験不足もあって、彼女のビルドは彼女自身に任せていた。
だが戦いにも慣れてきたし、少しでも勝つ可能性を上げるために、どんな選択肢があるのかは知っておいた方がいいだろう。
「試合に使えるのはあらかじめセットしたスキル2つだけですぅ。今は『バリアー』と『ビッグウェポン』ですねぇ」
「他のスキルをセットすることもできるんだ?」
「ええ。ゲーム内通貨で買ったスキルだけですけど。一定時間ATK《攻撃力》を上げる『パワーブースター』とか、AGI《敏捷性》を上げる『クイックネス』とか……」
これ以上得意な能力を上げてどうするんだ。
確かに大トロとトラサブローのような、特化ビルドの相手になら通用するかもしれないが。
大トロの盾を貫くほどの攻撃力、トラサブローの速さをしのぐ俊敏性を手に入れられたらあの戦いは楽だったかもしれない。
だが、やはりあんな極端な能力の相手はそうそういない。
何度もランク戦をしてわかったが、チーム2人の役割はしっかりと分けられてはいるものの、比較的バランス良くビルドをするのが主流らしい。
「以前試しましたけど、微妙でしたもんねぇ」
「あー……そうだっけ」
「あとはHP回復する『ヒール』とか、敵の動きを止める『バインド』とか……」
「いや、大丈夫だ。今のままでいこう」
以前勇陽が実際に試してみて微妙だったのなら、僕がやってみるまでもないだろう。
あいつを信用することにしよう。
「了解ですぅ! ユウヒ様の言う通りにしますぅ!」
敬礼のポーズをとってるのが、なんだかおかしかった。
「カナホは……ずいぶん信頼しているんだな。ユウ……いや、オレのことを」
ユウヒの、と言いかけたせいで変な言い回しになってしまった。
「そりゃそうですよぉ!! ユウヒ様は、私の憧れなんですから! 強くて、かっこよくて、私を助けてくれて!」
「憧れ、か」
僕と一緒だな。
子供の時、同級生にいじめられていた僕を助けてくれたのがあいつだ。
それ以降、僕はずっとあいつと一緒にいた。
強くて、かっこよくて、僕を助けてくれて。
僕はあいつみたいになりたかった。
それは憧れ以外の何物でもない。
「私、ずっと友達がいなかったんです」
突然、そんな事を言い出した。
「私、地味だし暗いので。一人で勉強するかゲームするかしかなくて。色んなゲームを1人で遊んでました。いろんなキャラにロールプレイして、いろんな世界に行きました。空を飛んだり、海を泳いだり、荒野を駆け抜けたり」
「……そういうのも、悪くないと思うけど」
僕だって、勇陽と出会ってなければ同じだったんじゃないだろうか。
陰キャだとかオタクだとか言われるだろうけど、自分の時間をどう過ごすかなんてその人次第だ。
「私みたいなサポート専門って、野良だと連携しづらいから組みたがる人いないんですよね。迷惑だ、来ないでくれって直接言われることもありました」
この前、大トロたちと戦った時、周りの奴らから地雷プレイヤーだとか言われていた。
あれはそういう意味だったのか。
「そんな時、ユウヒ様が私を誘ってくれて、一緒に戦えて、私を勝たせてくれて。感謝してもしきれないと思ってます」
カナホは僕と一緒だ。勇陽に会って救われた。
「私一人だと、きっと何もできませんでした。ユウヒ様に、一人じゃないって、とても心強くて、嬉しいことなんだって、教えてもらいました。ありがとうございます」
あいかわらずモテるなぁ、お前は。
それに女の子を救っている。
現実でも、ゲーム内でも。
あいつはどこにいても変わらない。
「……何もできない、なんてことはないんじゃないか」
カナホは僕と勇陽を繋いでくれている。
それに僕を励ましてくれた。力を貸してくれた。
「カナホのサポートがなければ、オレは戦えていない。こっちも感謝しているよ」
きっと、勇陽も。
「えへへ。ありがとうございます」
「でも、なんで突然そんな話を?」
「大会前ですから、ちょっぴりセンチメンタルな気分になっちゃいましたぁ。気にしないでくださいねっ」
彼女は、無邪気に笑っていた。
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