第12話 勇陽の代わり
「そういえば、あの手紙、何が書いてあったんですか?」
昼休み終了のチャイムが鳴り、屋上から教室へと戻る途中。
歩きながらそんな事を尋ねられた。
机の中に手紙が入っていたこと自体は彼女も知っているが、内容については何も伝えていない。
中身について一人でじっくり考えたかったからだ。
「なんでもないよ。ただのラブレターだった……ぐはっ」
「……えっと、どうしました?」
「り、理想と現実のギャップに、自分で言って自分で落ち込んだだけさ……」
「よ、よければ、話してもらえませんか? 私でよければ、力になれるかもしれません」
1人で勝手にダメージを受けている僕に、優しく手を差し伸べてくれる。
こういうところがモテる理由だろう。
確かに、1人で考えてもわからないことばかりで、誰かに相談したいと思っていた。
そして僕が頼れる人なんて委員長しかいない。
それに彼女は勇陽の友達だ。あいつのこと、心配しているに決まっている。
少し悩んだが、結局僕は全てを打ち明けた。
昨日、勇陽から荷物が届いたこと。
ブレイブロワイヤルのこと。
そして今朝の手紙の内容について。
しばらく黙って聞いていた委員長だったが、突然真剣な顔になった。
「いいですか、心野君。あなたが勇陽さんの代わりに大会に出ているということ、絶対他の人に言ってはいけませんよ」
「え? なんで?」
そもそもこんな話、誰も信じないだろう。
だから吹聴して回るつもりはなかったのだが。
「私、ゲームの大会の配信を見たことあるのですが……大会中に中のプレイヤーが入れ替わったなんて知られたら、失格になってしまうのでは?」
「あっ」
確かに、そうかもしれない。
「そっか、替え玉受験みたいなものだもんな」
大会規定を読んだことはないが、そういうのはバレたら間違いなくアウトだろう。
「そんなことで失格になってしまうのは、勇陽さんも相方の人も本望ではないでしょうから」
そうなると、ゲーム内で情報収集をするのはリスクが高い。
ユウヒの姿で、勇陽がゲーム内でやったことを他のプレイヤーに聞いて回るなんて、怪しい事この上ない。
中身が入れ替わっていると宣伝して回るようなものだ。
相方のカナホはちょっと抜けてるようだから大丈夫かもしれないが。
「ありがとう、委員長。気を付ける。……というか委員長もゲームの配信とか見るんだ。ちょっと意外だった」
委員長は真面目で成績もトップクラス。
だからゲームなんかせず家でもずっと勉強しているのかと思っていた。
「からかわないでください。私だって、普通の高校生ですよ?」
委員長が普通かどうかはさておくとして。
「それに、勇陽になりすまして大会に出るなんて、怒られるかと思った」
彼女は真面目で、曲がったことが嫌いなはずだ。
「もちろん、よくないことなんでしょうけど……勇陽さんのたった一つの手がかりなんですから」
「手紙の差し出し人についても、その目的についても、何もわかりませんが……心野君が大会を勝ち進んでいくと、何かわかるのかもしれません」
「大会、ねぇ。……僕にあいつの代わりが務まると思えないんだけどな」
「大丈夫ですよ。心野君なら、きっと勝てるはずです。勇陽さんのこと、一番わかってるんですから」
「そうかな……そうだといいんだけど」
「頑張ってってください。私も、配信を見て応援しますから」
「……ああ」
誰にも勇陽に代わりなんか、誰にも務まらない。だが、あいつのために精一杯やらないといけない。
あのバカに会えたら、散々文句言ってやらないとな。
そう胸に誓い、勇陽の代わりに戦いに臨むのだった。
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