第06話 賭け

 ゲームが始まって15分ほどが経過した。

 最初は広大だったフィールドもどんどん狭くなり、今では学校の体育館ほどの大きさまで縮小していた。


 残りの人数は、いつの間にか4人になっていた。

 僕とカナホ、そして……。


「よう、運だけのユウヒ!!」


「ここで会ったが100年目ってやつだな、しかし」


 荒野の中心で会ったのは、勝負を吹っかけてきた二人組。


「中トロと、トラジロー!」


「大トロとトラサブローだ!! 1個小さいんだよ!! 名前見えてるだろ、わざと間違えやがって!!」


 うん、まぁ相手の頭上に名前は見えてる。


「さすがにここまでは残ってやがったな」


「残ってなかったらどうしようかと思ったぞ、しかし」


「それはお互い様だよ。……あんた達を直接ぶっ倒さないと、この試合をした意味が無いからね」


 僕もカナホも武器を構え、臨戦態勢に入る。


「ユウヒが……『オレ』がラッキーで勝ったなんて、二度と言わせないからな。負けたら土下座して謝ってもらうよ」


「え、そこまでするんですぅ……? 容赦無いユウヒ様、ステキ!」


 一瞬ドン引きしたかと思ったらすぐに目をキラキラさせる。

 この子の中で、勇陽は王子様かなにかなのだろうか。


「ああいいぜ。土下座でもなんでもしてやらぁ。その代わり、俺たちが勝ったら……あんた達はBCS決勝を辞退しろ」


「は、はぁ!? なんでそんなことしないといけないんですぅ!?」


 カナホが怒るのも当然だ。彼女は勇陽と共に予選を勝ち抜いて決勝に上がったんだ。


 だが僕は、自身が予選を勝ち抜いたわけじゃない分、彼女よりも冷静に思考できる。


 なぜこいつらはそんな条件を出してきた?


「……一体何が目的だっていうんだ?」


「俺たちはお前みたいなのが決勝に行くなんて、絶対認めねぇ」


「認めねぇよな、しかし」


「僕……オレたちが、その話に乗るメリットが無い」


「あるぜ。もしあんたが賭けに乗るんなら……俺たちは、負けたら引退する」


「引退したいなら勝手にすればいいよ。オレたちには関係ない」


「そしたら、俺たちがこれまで入手したコインや武器、スキンなんかも全部渡す。それでどうだ?」


 ステータスウィンドウを表示し、こちらに見せてきた。


「ほほう、どれどれ……ええ!? こ、こんなに!!」


「貴重なものなの?」


「地道にこれだけ集めるのにどれだけ時間がかかるか……売ったとしたら300万円ぐらいになりすよぅ!」


 覗き込んだカナホが、悲鳴のような声をあげていた。


「そんなの、別にいらな……」


 反射的に断ろうとしたのだが、同時に気になることがあった。


 なぜそこまでして、ユウヒの大会参加を止めようとするのか。

 どうしてユウヒのことを認めようとしないのか。

 ヤツが一体この人達に何をしたんだ?


 それを聞き出したいと思ったのだ。


「……いいか? カナホ」


 実際に予選を勝ち抜いたのは勇陽とカナホなんだ。

 代理である僕の一存では決められない。


「……私は、ユウヒ様のおかげで予選を勝ち抜けられたんですぅ。ユウヒ様に従いますぅ」


「……ありがとう」


───勇陽、もし負けたらごめんな。


 心の中でそう謝りながら、2人に向かって言い放つ。


「わかった。その勝負、受けよう」


「よし……勝負だ!」


 お互いに大切な物を賭けた戦いが、幕を開けた。

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