第05話 仲間

 だが喜んだのも束の間。


「ユウヒ様! 後ろ! ……『バリアー』!!」


 光の球体ようなものが周りに発生したと思ったら、そこに何かがぶつかった。

 固いものが飛んできていたが、カナホのバリアーに弾かれたらしい。

 そのまま後方の地面に突き刺さる。


───弓矢なんて武器もあるのか!


 落ちていたものは、弓道部の練習場で見た矢とそっくりだった。

 遠距離からの攻撃は想定してなかった。

 普段から剣道の間合いでしか戦っていないのというのも大きいか。


「カナホ! このバリアー、どれくらい持つ?」


「5秒経つかダメージをある程度受けると消えますぅ! クールタイムは12秒ですぅ!」


「わかった! タイミングは任せる!」


「了解ですぅ!」


 矢が飛んできた方向に向かって、一直線に駆ける。

 危険なのはわかっている。

 一度引いて、隠れてやり過ごすという作戦もあるだろう。


 だが、あいつならきっとこうするはずだ。

 あいつは猪突猛進、後退を知らないバカ。

 そして、誰よりも真っ直ぐなヤツだからだ。


───ビュンッ!! ビュンッ!!


 2本、3本と次々と矢が飛んでくるが、手にした剣で払い退ける。

 これではむしろ居場所を教えてくれているようなものだ。


「見つけた!」


「ひぃ!」


 岩の上に伏せて矢を放っていた敵プレイヤーが、悲鳴を上げて逃げようとする。

 狙撃手がここまで懐に入られてしまってはなすすべが無いだろう。

 剣を思いっきり振り下ろし、一撃で仕留めて見せた。

 

 ……だが、もう1人はどこだ?


 「ッ!!」


 視覚外から、何か横に突き刺すような衝撃を受ける。

 慌てて避けようとしたが、間に合わなかった。


「ユウヒ様!」


 僕のあとを追って走ってきたカナホが悲鳴を上げる。

 彼女が咄嗟に張ってくれたバリアーのおかげでダメージは最小限に抑えられたようだが、それでも一撃を食らってしまった。

 

 あまり多くないHPが7割近くまで減ってしまった。

 バリア―の無い状態で食らっていたら致命傷になっていたかもしれない。


 注意するべきは目の前にいる相手だけじゃなかった。

 このゲームでは、どこから敵が襲ってくるかわからないんだ。


 気を引き締め直し、改めて敵に向き直る。


 攻撃してきた男が持っていたのは、槍だ。

 僕の持つ長剣よりも、向こうの方がリーチが長い。

 近接戦では射程が長いだけで有利になる。


 それでも、今の僕なら問題なく倒せはする。

 だが、ある程度のダメ―ジは覚悟しないといけないだろう。

 このアバターの耐久力でどれほどのHPが持っていかれるかはわからないが、ここで生き残るには仕方ない。

 覚悟を決めて突っ込もうと思った瞬間。


「ユウヒ様!」


 敵の後ろから、カナホがこちらに駆け寄ってきた。

 こっちのスピードが速すぎて、置いてけぼりしてしまっていたのだ。


 そうだ。何も一人で戦う必要は無いんだ。

 相手の一人を倒したなら、2対1。

 数の利を得ているということだ。


「カナホ! 頼む! ぶちかましてくれ!」


「え? は、はいですぅ! ……とおりゃぁ!!」


「ぐえ!!」


 カナホの杖のフルスイングで、相手の脳天を揺さぶる。

 サポート専門というだけあって大したダメージにはなっていないが、それでも敵の注意を引くには充分だ。


「今だ! だああああああ!!!」


 体勢を崩した所に、思い切り振り上げた渾身の一撃をお見舞いしてやった。


『ICCHANを撃破!!』


 これで4人連続撃破だ。


「お、やった。回復薬を落としてくれた」


 今の相手が拾ったものだったんだろう。

 さっき食らったダメージをいくらか元に戻すことができる。


「カナホ。ありがとう。助かった」


「いえいえ。……でへへへへ」


「……どうしたの。変な笑い方して」


「……実はちょっと嬉しいですぅ。ユウヒ様、私を頼ってくれること、あんまりなかったですからぁ」


「……だろうなぁ」


 だがそれは別にカナホが悪いわけじゃない。

 僕と一緒の時だって、僕を頼ることなんてほとんどない。

 あいつが何でも一人でやってしまうのが悪いんだ。


 だが僕はあいつほど強くない。

 だからこそ、この試合に勝つために、仲間であるカナホを頼らないといけないんだ。


「今のうちに確認しておきたいんだけど……カナホ、君はバリアーの他に何ができる?」


 尋ねられた方は、驚いて目をパチパチしていた


「ええっと……さっきみたいに杖でぶん殴ることですぅ!」


「それ以外で」


「ええっと、それ以外はですねぇ……」


 カナホの持つ、もう一つのスキルの効果に、さすがに驚く。


「なんだそれ? 一体どう使うんだ?」


「今まで1回も使ったことないですぅ」


「……HP回復とか、そういう普通のやつは無いの?」


「だってユウヒ様、近距離だとダメージを受けないですし、遠距離攻撃を防げるバリアーさえあればいいって言ってたじゃないですかぁ」


 いかにも脳筋の勇陽らしい。


「それよりユウヒ様、今日は通常攻撃ばっかりでスキルを全然使ってないですよねぇ」


「え、僕もスキルなんて使えるの?」


 そういうのは魔法使いの特権かと思っていたのだが、誰でもスキルは2つセットできるらしい。


 このアバターユウヒの場合は、いわゆる剣技というやつを覚えているそうだが。


「必殺技だって言って、ここぞって時に使ってたじゃないですかぁ」


「必殺技、ねぇ」


 教えられるままにメニューからセットされているスキルを確認したのだが、


「……まったく、あいつらしいよ」


 スキル欄にあった技に苦笑せざるを得なかった。

 そんな僕を見てカナホは不思議そうにしていたのだった。

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