「変わらないで」の祈りの中で変わるあなたを愛せるように

@mamegoma1600

「変わらないで」の祈りの中で変わるあなたを愛せるように

 ファションになんて無頓着だったくせに、髪色なんて興味なかったくせに、ピアスなんて柄じゃないって言ったくせに、半年ぶりに会った彼は、知らない人になってしまっていた。

「元の方が良かったな」

 髪が明るくなったからって嫌いになったわけじゃない。むしろ、とても似合ってると思った。だからこそ、自分が彼の変わる理由になれなかったのが悔しくって彼を責めるような言葉がこぼれた。

 無理に作ろうとした笑顔はひきつっていたと思う。

「えー、でも大学では好評なんだぜ、この前も同じ学部の○○って子がさ…」

 そこから先の話はまるで入ってこなかった。高校の頃の彼は人付き合いが苦手で、ほとんどの時間を二人で過ごしていたから、彼の口から大学の交友関係の話が出てくるのが嬉しい反面、寂しくもあった。

「その人とどんな関係なの?」なんて口にしてしまえば、動揺も焦りも露呈してしまいそうでとても聞けなかった。

 卒業式の日に交わした「変わらないでいようね」の約束は私たち2人の関係性のことだったのか、私たち自身のことだったのか、もうわからない。

「私を置いていかないで」って言いたかった。

 ふと見上げた空はどこまでも澄んでいて、街路樹がつける若葉は青青としていた。

 お洒落をして、乗り継ぎを何度も確認して、初デートの時ぐらい緊張しながら会いに来たのに、彼が住む知らない町の中で私の存在だけが悪目立ちしているような気がした。


こんなことならずっと高校生のままでいたかった。


 時間は止まらないし、季節は巡る。

 そんな当たり前のことを告げるように木々を撫でる風からは夏の匂いがした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「変わらないで」の祈りの中で変わるあなたを愛せるように @mamegoma1600

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ