第3話
二人の警察官に訪問の理由を説明されると、信じられないといった表情の一同。
一部は嗚咽のようなものが聞こえる。
先程のニュースが頭を過ったのだろうか。
それでもはっきりと確認しなければいけないため、傷心しながらも警察署へと向かう。
学生である妹も、何故か元恋人も連れて。
安置所に寝かされていたのは、顔が崩れ身体の捻じ曲がった、それぞれにとっての息子・弟・兄・元恋人である、本来皆が待ち焦がれてた彼の姿だった。
警察官から、これがビルの屋上に遺されてましたと受け取ったノート。
そこには……
今まで色々と迷惑をかけてごめん。
いや、どうやら存在そのものが迷惑をかけていたようでごめん。
これを遺すために、ノート・鉛筆・ライターを盗んだコンビニ、ごめんなさい。
同じように、最期の我儘のために、ケーキと蝋燭を盗んだケーキ屋、ごめんなさい。
〇〇(妹の名前)、後を追わないようにな。
この世に生まれた日、生まれた時間に、黄泉の国で生まれ直すために逝くよ。
そしてもう一つ手渡された、真新しい
一度だけ連絡を入れた自宅の番号と日付・時間と。
ハンバーガーチェーン店の0円営業用スマイルよりもぎこちない笑みを浮かべた姿と、逃走中にぐちゃぐちゃになったケーと灯した年齢分の蝋燭、これから逝く黄泉の国の入り口とでも言わんばかりの屋上から撮影した地面の3枚の写真だけが遺されていた。
警察関係者以外の全員が泣き崩れた。
もう遅い。
出所の時の姉の態度や言動。
自宅に電話をかけた時の母親の言葉。
いくら悪さをして少年院に入っていたとしても、こういった仕打をされては心は折れる。
もう自分は要らない人間だと判断しても、おかしくはない。
それがまだ未熟な子供であれば、猶更の事である。
だが、もう遅い。
何もかもが、遅過ぎたのである。
サプライズパーティーなんだよと、本当の事を話す事も、聞いてくれる事も、赦してもらう事も出来なくなってしまったのだ。
警察が身元不明の少年を特定するのは早かった。
屋上にあったノートと携帯電話の中の写真、それからケーキの箱。
妹の名前があったのだから、当人の姿を知っていれば彼の妹である事も直ぐに突き止められる。
所謂裏付けとしては充分な程に。
それに幸か不幸か、自宅に訪問した警察官は、何度か彼を補導したり注意をしてきた事があるため、猶更特定は早かった。
一番泣いていたのは、ノートに唯一名前を書かれていた妹だった。
うまくいっていない家族関係の中で、唯一普通に、いや好意的に接していたのが妹だった。
お兄ちゃんっ子で、妹が真に心を開いて赦せていたのが兄だったのである。
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