第2話
姉と強制的に別れ、道を思い出すようにコンビニに入ると、レジから遠い場所にあるライターを一つ取り、それをそのままポケットに入れる。
次に文房具コーナーへ行くと、背中にノートを詰め込み、鉛筆を袖の中に隠し、買い物をする振りをしてそのまま出ていく。
歩いている時に、偶然見つけたベンチに腰を下ろすと、先程頂戴したノートにいくつかの言葉を遺した。
次に向かったのは、ケーキ屋。
ショウウィンドゥに見えるケーキの中でも一番小さく、自分の好きな木の葉模様のチョコレートチップがふんだんに使われたチョコレートケーキと、年齢分の蝋燭を注文する。
ケーキを受け取ると、お金を払わずにそのまま回れ右をして、ダッシュを試みた。
当然店員は後を追いかける。
追われれば当然走って逃げる。
走って逃げれば、箱の中のケーキはぐちゃぐちゃになる。
でもそれで良かった。それが自分にはお似合いだと思っていた。
そして、家の方向へ向かって走っていたが、とあるビルが目に入ると、そこに吸い込まれるように入っていった。
そこは何の変哲もない昔ながらの、セキュリティもなく、誰でも入れてしまう。
なんなら屋上までノンストップで行けてしまうビルだった。
一方、自宅では……
家族と幼馴染で元恋人がリビングに揃っていた。
元恋人は、家族の中では少年院に入った事により男女の関係が自然消滅したと思われている。
しかし妹だけは全てを知っている。兄と幼馴染が破綻した理由を。
ヤンチャで周囲に迷惑はかけていたものの、極悪人ではない。
兄が少年院に入る理由となった経緯もその原因も、当事者以外で妹だけが知っていた。
そしてリビングには、よりとりどりの料理が並んでいた。
勿論誕生日ケーキも。
そんな中、垂れ流しで付けていたテレビからニュースが流れてくる。
この近所のビルから飛び降り自殺があったというニュースである。
テレビ画面には「生放送」と書かれており、今現在の内容をニュースキャスターが報道していた。
その内容は、顔がケーキに塗れており、また墜落の衝撃で顔の判別が付かない事、身体があちこち曲がってしまっている事、そのため身元が分からない若い遺体だという事が報道されていた。
「この近所じゃない、やーねー。」と家族の誰かが言った。
「それで、さっきからサイレンの音がしてたのか。」と、誰かが続けた。
いつになっても帰ってこない。
「ねぇ、あんた迎えに行ったんでしょ?なんで一緒に帰ってこなかったのさ。」と、母親が姉に訊ねる。
「だって、これ買いに行かないといけなかったから。」と、誕生日プレゼントと思われる包みを見せる。
外は暗くなり、夜になっても帰ってこない事に一同の中で不安だけが募る。
その不安はどの方向なのか。
出所後いたたまれなくて帰ってき辛いのか、それとも出所したその足でまた悪さをしているのか。
それとも……
出所祝い兼誕生日パーティのために用意された料理は、全てが冷めてしまっていた。
そんな折、ピンポーン♪と甲高い呼び鈴が鳴った。
思い返してみれば、家の鍵を渡してなかった事に今更のように気付く一同。
たまらず飛び出していった妹が玄関の扉を開ける。
「もう、遅いよ。おにい……」
妹は言い切る前に言葉を途切れさせる。
そこには警察手帳を見せる二人の私服警官が立っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます