愛と憎の行方
琉水 魅希
第1話
元々家族仲は良くなかった。
周りに反抗するかのようにヤンチャになって、家族や周囲に迷惑をかけてしまった自覚はあるし反省はしている。
流石に少年院に入ってしまえば、反省や振り返りをしないわけにもいかない。
今思えば子供だったと思うし、我儘が過ぎたのだろう。
でも、全てが自分が悪いわけではない。
隣人の、幼馴染の彼女……もうとっくに元がつくが。
裏切って別の男に抱かれていただけでなく、ちょめちょめしてる現場に出くわして、怒りのままに相手の男を原型が分からなくなるくらいまでボコボコにして、アバラを折ったり、潰れてはないけど玉を蹴っ飛ばしたりした。
それが普段の行いもあり、自分の言い分は何も聞いてはくれず。
間男の、彼女と普通に過ごしていたらいきなり殴られたり蹴られたりしたという証言。
彼女であったはずの幼馴染もそれに同意。
あの段階ではまだ俺と付き合っていたはずなのに、と。
教師はおろか、家族の誰もが言い分を聞かず。
いや、一人だけ。妹だけは兄の言い分を聞いてくれ、一人だけ寄り添ってくれていた。
少年院の出所の際、家族による身元引受が通例である。
普通であれば両親かどちらかの親が来るものであるが、じゃんけんででも決めたのか、むすっとした表情の姉が迎えに来ていた。
その姉も、「世間体とかあるから、先に帰る。」と言い、少年院の見送りの職員達の姿が見えなくなった場所に差し掛かったところで、一人で帰っていった。
真新しい携帯電話を一つ渡しただけで。
勿論その携帯電話には何の登録もなく、昨日契約してきましたと言わんばかりの、ストラップもカバーもない寂しさを表すただの機械。
何もない、何もいらないという事かと呟いた。
何故そうしたのかはわからないが、数少ない覚えていた電話番号、自宅の番号を打つと通話ボタンを押した。
自宅の電話に出たのは母親だった。
もしもしという申します申しますコールをした後、「俺だけど……」と続けた。
そして、「これまで色々とごめん。」と一言続けると、「今までみたいに口だけじゃなきゃ良いけどね。」と母親は冷たく言った。
これまでの行いがあるのだから、多少は覚悟をしていたが、思いの外ダメージは強く、自分の居場所のなさを実感してしまう。
それでも勇気を振り絞ってもう一言だけ続けた。
「今日、何の日か知ってる?」と恐る恐る訊ねた。
「そんなの、知らないわよ。」と、はっきりと強い一言が返って来る。
さらに、「今日はこれからみんなで外食なの。準備が忙しいからもう切るよ。」と、言って電話を切られてしまう。
家族の誰もが出所日を知らない日を知らないはずがない。
いや、それは勿論当然だが知っている。
知らなければ姉が迎えになど来るはずもないのだから。
尤も、世間体を気にして一緒に家までは帰らなかったが。
真新しい携帯電話一つを渡してさっさと……
もっと言えば、これから帰るはずの家の鍵は渡さずに。
では、態々電話で聞いた今日は何の日か……
(そうか。誕生日を忘れるくらい嫌いで、どうでも良い存在なのか。そこまで俺は要らない存在なのか……)
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