スイートキッス

 あのね。

 物語のパターンは友情・努力・勝利しかないのよ。

 お年頃になると、これに異性が加わるわ。

 愛情・求愛・結婚よ。

 物語のパターンってこれだけなの。


 +


 恋愛ね。

 これね。

 皆、ラブコメしか知らないのよ。

 ガチで恋愛した奴が、恋愛小説家やってるわけねーわ。

 ラブコメがラブコメを産む。

 つまり妄想に妄想を重ねるのよ。

 読んでも仕方ないと思うんだけど。ラブコメなんて。


 +


 ラブコメ作家になりたい?

 そう。

 では、男は貧乏にしなさい。

 王子様溢れ過ぎ問題よ。

 貴族同士の恋愛は腐るほどあるから、平民同士の恋愛を書きなさい。

 いい?

 金以外で魅力のある男を表現するのよ。

 つまり能力バトルよ。


 +


 そんなに貴族の世界に憧れるかしら。

 毒殺とか日常なんだけど。

 あと貴族が美形なんて、ほぼないわ。

 ないのよ。

 世間と言うか歴史を知らないわ。

 家格が吊り合うのって親族ばっかり。

 叔父・姪婚とかも普通にあるのよ。貴族の世界。

 大体ね。

 貴族が恋愛結婚出来るわけないでしょう。

 全て金のためよ。


 +


 貴族に憧れるってことは、農奴が欲しいってことなのよ。

 ないのよ。農奴。

 アメリカ南北戦争で決着はついたの。

 あれ何年だっけ。

 世界最大の国家が奴隷制はしないと言っているのよ。

 何て幸せな時代に産まれたのかしらね。私たちは。

 奴隷には給料払わなくていいけど、鞭で打つ人には給料が要るの。

 奴隷の監視役クビにして、奴隷を月給制にした方がマシなのよ。


 +


 要するに貴族=経営者と思ってるのよ。

 わなびどもは。

 で、経営者経験のある奴なんかいないの。

 はあ。

 領地経営SLGなんて、エロゲに一杯あるんだけど。

 やったことないのかしら。

 柵1つ買うのにもコストがかかるのよ。

 スローライフ? あっという間にゴブリンに殺されるわ。


 +


 そうね。

 現代の貴族?

 政治家や官僚でしょう?

 アイツらの人生に、ラブロマンスがあると思う?

 仕事仕事ばっかだと思うわ。

 貴族も同じよ。

 と言うかさ。

 素直に言いな。

 遊んで暮らしたいって。

 あー。

 遊びのレベルが高いならアリなのよ。

 俳句とか。

 芸術を趣味にすれば喰って行けるの。

 買い手がつけばね。

 それにしてもねー。

 学年1の美少女か。

 駄目。

 1~100まででハーレム作りなさい。

 ヒロイン100人いないと、これからのラブコメは失格なのよ。


 +


 学生恋愛には限界があるのよね。

 学生でしょう。勉強しろよ。

 スポーツの出来る男より、成績のいい男を狙わないのは何でや。

 いやー、まあ、何と言うか。

 1番の狙い目は男子校出身なのよね。

 女慣れしてないから。

 なのよ。

 所詮、3流たちの恋愛なのよ。学園ラブコメって。

 プロの女は、パパ活でがっぽり稼いで5つくらい上を狙うわ。


 +


「姉ちゃん。ゲームしようぜ」

 何これ。カードがあるわ。

 裏が赤のカードが3枚。

 ざるそば。豆腐。おでんと書いてある。

 絵もね。

 そして裏が緑のカードが3枚。

 わさび。しょうが。からしと書いてある。

 絵もね。

「薬味三銃士【TRIPLE HERB】だ」

 ねぎがないわよ。

 何これ。

「俺が先攻だ」

 ボイロックは赤のカードを1枚出した。

 なるほど。

 当ててみせろということね。

 私はからしのカードを出す。

 オープン!

 ボイロックのカードは――

 おでんだった。

「姉ちゃんに1点!」

 いい流れだわ。

 次は私が赤のカードを出すのね。

 伏せて出す。1枚。

 ボイロックの選択は――

 わさび。

 オープン!

 私のカードは――

 おでん、よ。

「ちっ!」

 1対0。

 あら。

 待って。

 わさびがもうないということは、次か次の次のターンでそばを出せば必勝じゃない。

 このゲーム、じゃんけんに近いわ。

「俺の手番だ」

 ふむ。

 ざるそばか豆腐の2択なわけね。

 3戦目は自動だから実質2回勝負なのか。

 私の選択は――

 わさび。

 オープン!

 ボイロックのカードは――

 ざるそば。

「ぐわあああああああああああああああああ!」

 これで私の3勝が確定したわ。

 面白い。

 薬味三銃士【TRIPLE HERB】。

 奥の深い心理戦だった。


 +


「良く考えたら1戦目で勝負は決まってるっぽいな」

 そうね。1勝でもしたら勝ちだったわ。

 あの2戦目やる必要なかったのか。

「サッカーのPKに近い」

 言える。

 で。

 何でこんなくだらない話を?

「盛り上がるゲームってない?」

 じゃんけんが1番面白いのよ。

 必勝法がないのが、いいゲーム。

 まあ、運ゲーだから創作には向かないのよ。

「まあね」

 逆に言えば必勝法があるゲーム。

 これは「推理小説」になるのよ。

「まあね」

 うーん。

 薬味三銃士【TRIPLE HERB】か。

 敗北したら、実際にその薬味をかけて料理を食べてもらうとかどうかしら。

「俺、胃袋そこまで大きくない」

 まあね。

 あんまし面白くなさそう。

 あー。

 食事シーンを上手に描ける漫画家って貴重よね。


 +


 どうしようかな。

 グルメ小説とか流行るかしら。

 グルメレポート小説。

 でも、これ特定されるのよね。住み家が。

 はーん。

 グルメレポートか。

 書いてみるか。


 +


 トンカツ2切れ。小ぶりのクリームコロッケ。

 無論、蟹クリームコロッケだ。

 そしてエビフライ。

 このちっちゃなソースでは足りないが、どばどばかけるのも下品という気がする。

 この揚げ物の3重奏をスーパーで500円で買える。

 今の時代はどうなっているのだ。

 我々こそが貴族だ。

 まずエビフライから行こう。

 甘い。

 何と言う甘い火の通った海老だ。

 これが原価数十円?

 馬鹿な。

 何かの間違いではないか。

 ガソリン代だけでも、赤字のような気がするのだが。

 我々は先進国に住んでいる。

 思い知った。

 搾取か。

 すまない。

 エビフライは好物なんだ。さくさくさく。

 ぬぅ。

 ご飯に合う。

 日本人が貪欲なのは、米喰い民族だからではないか。

 ご飯のお供を求めて、よーそろー。

 あー。

 ヨーロッパから来たのだったな。コロッケは。

 エビフライも。

 全てご飯のおかずだ。

 豚カツか。悩ましい。

 コロッケから行こう。

 ぬぅ。

 このとろとろ感。

 クリーム。

 お菓子に使うクリームではない。

 料理用語でクリームと言うと、生クリームとクリームコロッケの2種類があるのだな。

 今気付いた。

 どうでもいい発見だが。

 学界で発表したら、センセーションが起きるな。

 いやいや、冗談だよ。

 クリームコロッケを堪能する。

 ふぅ。

 豚カツに行こう。

 豚カツに甘味はない。

 ソースの味が決め手だ。

 だが、この衣のさくさくは、何物にも代えがたい。

 うん。

 豚カツか。

 私は豚カツに出会うために産まれて来たのかも知れない。

 豚カツとカツ丼。

 どちらかが一生喰えないと言われたら、君ならどうする?

 私は――神を倒すしかないと思う。


 +


 ふぅ。

 あー。

 こうして見ると、私って中身オッサンなのかしら。

 良かった。あのガキ帰ってくれた。

 なのよ。

 女の子って中身オッサンなのよ。

 顔さえ良ければ、産まれた時から人生和了りなのよ。


 +


 スクールカーストか。

 いやー。

 学生時代を思い出すなんて、ないなあ。

 いやー。

 あのさあ。

 私、VTUVERさんのファンなのよ。

 歌しか聴かないけど。

 若い子と簡単に触れ合えるのよ。

 スパチャはしないけど。

 ノスタルジィ?

 死語じゃない?


 +


 学生時代をやり直したいなんてないわね。

 私、成績優秀だったから。

 県で1番の進学校で学年8位獲ったこともあるわよ。

 たまに平均点低い時なんか、物理の偏差値が80超えた時もあった。

 なのよ。

 過去回帰願望って、非リア充ですって宣言なのよね。

 私?

 積み重ねて来たし。

 リセットは嫌。

 なのよ。

 リセットしたがる奴って負け組なのよ。

 転生もリセットよ。当たり前だけど。

 堂々と「私は負け組です」って言ってる奴らばっかりなのよ。

 恥ずかしい。


 +


 うーん。

 幸せって何。

 私は不幸なんだけど。

 別に幸福になる方法は「リセット」でないのは確かなのよ。

 だって、私プライド高いし。

 どうしようかしら。

「姉ちゃん。ゲームしよう。菖蒲あやめ杜若かきつばた【ITEM CHEAP】だ」

 はあ。

「俺はこのUSBメモリーを出す。姉ちゃん。何か私物を1つ出せ」

 はあ。

 じゃあ、この飲みかけのペットボトル。500ミリリットルの炭酸。

「俺の方が高い」

 はあ。

 ぽーん。

 あ。

 ボイロックに1点入った。

 そりゃUSBの方が高いに決まってるわ。

「で、俺はUSBを引っ込めて消しゴムを召喚だ」

 へえ。

 あー。

 私のこのジュース138円で買ったのよね。

 この消しゴム160円くらいすると思う。

 私の方が安い。

 ぽーん。

 あ。1点入った。

 1対1か。

 ふーん。

 で、ペットボトルを引っ込めて。

 何を召喚しようかしら。

 相手は消しゴムなのよね。

 値段が近い物でないと騙せないのよ。

 160円近辺の物。

 あー。

 このウェットティッシュとかどうかしら。

「100均だな」

 どうかしら。

「でも、200円するんだよな。ウェットティッシュって」

 う。

 知ってたのか。

「俺の方が安い」

 ぽーん。

 ボイロックに1点入った。

 2対1。

 だけど。

 ここからが難所よ。

 200円近辺の私物。お前、何を持ってるかしら。

 熱戦は続くのだった。


 +


 幸せか。

 この弟がいることは幸せかしら。

 分かんないのよね。

 幸せって失ってみてようやく、幸せ「だった」と分かるの。

 現在進行形では幸せに気付かないわ。

 なのよ。

 貴族になりたい。

 王様になりたい。

 私に言わせれば噴飯物なんだけど。

 目標があるって幸せだわ。

 だけどなー。

 努力と競争は違うのよね。

 うん。

 詳しくは言わないわ。

 うん。違うのよ。

 別に。

 相手が弱ければ、それは努力とは言わないのよ。


 +


 ボイロック。

 何かゲームある?

「ネタ切れ」

 そう。

 はー。

 どうしようかしら。

 うーん。

 ゲームか。

 くだらないゲームね。

 あー。

 うーん。

 はー。

 どうしよう。

 暇だわ。

「結婚でもすれば?」

 嫌。

 生理的に嫌なのよ。人と同じことをするのが。

「はあん」

 難儀だと思う?

「いやー、俺も同感。まぢ勘弁」

 なのよね。

 私たちは優秀だという自負があるの。

 愛とか恋とか、それ猿の娯楽でしょう?

 何で上流階級の私たちが。

「本当それ」

 困るのよね。

 お父様は大好きだけど。

「まったく面倒臭え」

 恋愛か。

 誰でも出来るわ。

「実るとは言ってないぞ」

 別に。


 +


 剣道で人を殺せると思う?

「刀を持ってる奴相手なら、仲間を集めるのが容易だ」

 はあ。

「銃は逆に危ない。皆、尻込みする」

 お前の発想どうなってるのかしらね。

 はーあ。

 どうしよう。

 やることないのよ。

 書くことないのよ。

 人類はファイナルステージなのよ。

 皆、凡人のままで、さようならなのよ。

「原始時代よりはレベルアップしただろう」

 ああ、そうね。

 それでいいのか。

「読み書き算盤を学んだら、後はどこに就職出来るかの運ゲーだ」

 本当それ。

 通勤に2時間使ってる奴って負け組なのよ。


 +


 面白い本ない?

「このかったるい情景描写だけで吐き気する」

 ほーん。

 画像検索の時代かあ。

「昔の本、もう読めねえ。知識として一応頭に入れておくが」

 ふーん。

 インターネットね。

 ネットに触れて育った子は、どんな風に育つのかしら。

「さあね」

 うん。

「人間は平等という建前を真に受けるかもな」

 あー。

 敬語とか使えなさそうね。

「まあね。ネットは陰キャがウェイウェイする場所だから」

 この子は辛辣だ。

 あれ、もう1回やりたい。

 薬味三銃士【TRIPLE HERB】。

 私からよ。

 豆腐を伏せて出す。

 さあ、来い。ボイロック。

 しょうがを出さなければお前の負けよ。

 からしか。

 ふふふ。

 ボイロックのターン。

 赤カードを伏せて出す。

 何かしら。

 私はわさびを出した。

 オープン!

 おでんだった。

 引き分けね。

 第2ターン。

 私の手札には、ざるそばとおでんがある。

 おでんは読まれそうなのよね。

 相手がからしを出したから。

 あえてざるそばを。

 ボイロックの選択は――

 しょうが。

 !

 危ない。

 ボイロック0勝。

 さて。

 私のターンだ。

 私はわさびを出した。

 手札にあるのは、しょうがとからし。

 ボイロックはざるそばか、豆腐か。

 相手がざるそばなら、からし。

 豆腐ならしょうがを出さなければ負け。

 もう何分経過しただろう。

 心理戦。

 読み合い。

 私の選択は――

 からし。

 ボイロックは無言だった。

 オープン!

 ざるそば。

 !

 と言うことは。

 豆腐としょうがで3戦目は私の勝ちよ。

 熱戦だったわ。

 さあ、校歌を歌いましょう。


 +


 優勝劣敗 世界の真理

 負け犬たちが涙する

 俺らの人生踏み台だった

 この世に勝者は ただ1人

 ああ、負け犬たちよ 今日も泣く

 わんわんわんわん 今日も泣く

 おお 異能力高校 我らが母校


 +


 暇だわ。

 ねえ、ボイロック。面白いゲームない?


 +


「必勝法があるゲームか」

 何を考えてるの。

「水無月硯の創作論ノートは面白かったな」

 あれね。

 人狼ゲームのアレンジが一杯載ってて面白かったわ。

 そうなのよね。

 初見ゲームでないと必勝法ってないのよ。

 で、そんな大がかりな組織?

「人身売買組織が、ゲームなんかやらせないよ」

 そうよね。

 誘拐して全員売るわ。

「億の賞金? 無理だよ」

 本当それ。

 役員の誰かがストップかけるわ。

 裏社会の仕組み分からないけど。

「心理学の実験なの見え見え」

 そうなるのよね。


 +


「究極のゲームは、じゃんけんだ」

 そこに行き着くのか。

「道具が要らない」

 どうでもいい意見だわ。

「大切なんだよ。イカサマを仕込む余地がないってことだ」

 はあ。

 あー。

「道具を使うギャンブルは、イカサマの可能性がある」

 はあ。

 その視点はないわね。

 面白いわ。

 道具か。

 いやー。トランプと花札ね。今時コンビニで買える。

 ウノか。あれは面白いわよね。

「最後の和了りの確率が1/4」

 ちょうどいいわよね。

 特殊札では和了れない。

 ダブルや+4を温存しておくのがセオリーよね。

「リバースが1番微妙だ」

 まあね。

 アレ全然強くない。


 +


 ゲームと言えば麻雀は外せないと思うんだけど。

「喰いタンか役牌かの2択ゲー」

 そうなるんか。

「相手に大物手を和了らせるな。速攻で流せ」

 はー。

「清一色はバカホンで妥協しろ」

 いやー。

 ツキが落ちそうなのよね。

「ふん」

 あー。

 警戒度って言ったら分かる?

「あー」

 なのよ。

 タンピン三色の手を、タンヤオのみで和了った?

 こいつ、しばらくツキはない。

 じっくり手作りしよう。

「はー」

 お前の意見、あくまで速攻派の意見ね。

「相手が8000点の時の1000点は9000点の価値があるんだぜ。姉ちゃん」

 ふーん。

 打撃戦か。スピード戦か。

 スピードの速い手が、鳴けるかどうかも運なのね。

「そうなんだよな。上家が堅い奴だと、やりづらい」

 ふーん。

 速攻派は席順次第ってことにならない?

「なるのかなあ。いやー。メンゼン仕上げなんて滅多にないよ」

 ふーん。

「リーチは妥協」

 ふーん。

「鳴ける牌が出なかったから、仕方なくメンゼンにしちゃった」

 はあ。

「リャンメンから喰う奴はいない。つまり鳴いた手は待ちがいい」

 はあ。

 あー。道理だわ。

 リャンメンの確率が高いのね。鳴いた手は。

「まあね」

 最終的には、多面待ちの可能性が高いわけだ。

「それなんだ」

 鳴き派とメンゼン派か。

 でも、やっぱり3倍満とか和了ってみたいのよ。

「コンピュータゲームやれよ。対人戦では3900和了るために命を賭けろ」

 はーん。

 あー。

 今時フリー雀荘なんてないと思うけど。

 ネト麻か。

 賭けたいわよね。

「ダブリの女の子キャラを賭ける」

 はー。

「上手くすれば微課金で女の子コンプリートも可能ですぜ。お客さん」

 お前のアイディア、非常によろしくない。

 没です。没。エロ過ぎるのよ。

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断頭台 アレクラルク=ネレイア=CMC @alecralk_n_cmc

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