第3話

翌朝、霧咲神社は再び静寂の中で目を覚ました。紫はいつも通り早起きをし、境内を掃除し始めた。朝の冷たい空気が彼女の肌を引き締め、心を清らかにする。陽菜の教えを胸に、彼女は今日も一日を大切に過ごす決意を新たにした。


掃除を終えた紫は、神社の御簾を開けて新鮮な空気を取り入れた。陽の光が差し込み、境内を明るく照らした。彼女は手を合わせて一礼し、今日の参拝客のために祈りを捧げた。


その時、神社の鳥居の方から声が聞こえた。紫は耳を澄ませ、声の方向に目を向けた。若い母親が小さな子供の手を引いて、参道を歩いてくるのが見えた。子供は嬉しそうに神社の石段を駆け上がっていた。


「おはようございます。ようこそ霧咲神社へ。」


紫は微笑みながら二人に挨拶した。母親は軽く頭を下げ、子供は元気よくお辞儀をした。


「おはようございます。今日は息子が神社に来たいと言ったので、連れてきました。」


母親の言葉に、紫は心からの感謝の気持ちを感じた。


「ありがとうございます。どうぞ、お参りください。」


紫は二人を本殿へ案内し、参拝の準備を手伝った。子供は興味津々に神社のあちこちを見渡し、母親の手を引いて歩いていた。


参拝を終えた後、母親と子供は境内で少しの間遊んでいった。紫はその様子を見守りながら、心が温かくなるのを感じた。


「神社がこんなに賑やかになるのは久しぶりですね。」


紫がそう言うと、母親は微笑んで答えた。


「はい、ここに来ると心が落ち着きます。息子もこの場所が大好きなんです。」


その言葉に、紫は胸が熱くなった。霧咲神社が人々の心の拠り所であり続けることが、彼女の願いだった。


その後も、紫は一日を通じて次々と訪れる参拝客に対応した。彼女の心には、陽菜の教えがますます深く刻まれていた。


夕方になり、再び静寂が訪れた境内で、紫は一日の終わりを迎える準備をしていた。その時、ふと鳥居の方からかすかな気配を感じた。


紫は立ち上がり、鳥居の方へ向かって歩いた。そこには、一人の若い男性が立っていた。彼は紫に気づき、微笑んで軽く頭を下げた。


「こんばんは、巫女さん。ここに来るのは初めてですが、とても静かで落ち着いた場所ですね。」


紫は微笑み返し、彼を迎え入れた。


「こんばんは。ようこそ霧咲神社へ。どうぞお参りください。」


紫は彼を本殿へ案内し、祈りの準備を手伝った。彼は静かに手を合わせ、心からの願いを込めて祈っていた。


参拝を終えた後、彼は紫に礼を言って神社を後にした。紫はその背中を見送りながら、心の中で神様に感謝した。


「今日もまた、無事に一日を終えることができました。ありがとうございます。」


霧咲神社の巫女として、紫は今日もまた、心に誓った。たった一人でも、参拝客が訪れる限り、彼女はこの神社を守り続けるだろう。一人の巫女として、その使命を全うするために。

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