第2話

その日も、紫は神社の掃除を終えると、神楽殿の前に立ち、一礼して祈りを捧げた。薄紫色の巫女装束が風に揺れ、彼女の姿はまるで神秘的な存在のように見えた。神社の鳥居から参道にかけて、古びた石灯籠が並び、紫はその一つ一つを丁寧に点検していった。


「神様、今日もお守りください…」


静かな祈りの声が、境内の静寂に溶け込むように広がった。紫は心の中で神様に語りかけながら、石段を一歩一歩踏みしめていった。彼女が一人でこの神社を守り続けることには、大きな意味があると信じていた。


参道を歩いていると、不意に風の音が変わった。紫は立ち止まり、耳を澄ました。遠くから足音が聞こえてくる。紫は胸が高鳴るのを感じながら、その方向に目を向けた。


参道の先から、ゆっくりと一人の老人が歩いてくるのが見えた。白髪の老人は杖を突きながら、慎重に一歩一歩進んでいた。紫は微笑みを浮かべ、足早にその老人の元へ向かった。


「おはようございます。お参りに来てくださって、ありがとうございます。」


老人は紫に微笑み返し、軽く頭を下げた。


「おはよう、紫さん。今日は天気も良いし、久しぶりにここに来たくなってね。」


老人の言葉に、紫は心からの感謝の気持ちを込めて頷いた。彼の訪問は、紫にとって何よりも嬉しい出来事だった。


「どうぞ、こちらへ。お参りの準備をいたしますね。」


紫は老人を案内しながら、心の中で神様に感謝した。一人でも参拝客が来てくれることが、彼女にとっては大きな励みになるのだ。老人を本殿まで案内し、紫は祈りの準備を手伝った。


その後も、紫は境内の手入れや神事の準備を続けながら、次々と訪れる参拝客に対応した。彼女の心には、陽菜の言葉が響き続けていた。


「たとえ一人でも、神社を守ることが私たちの役目。参拝客が少なくても、その一人一人が大切なのよ。」


夕暮れ時になり、紫は今日一日の出来事を振り返りながら、神社の境内を歩いた。薄暮の中で、石灯籠に灯された明かりがほのかに揺れていた。


「今日も無事に過ごせました。ありがとうございます。」


紫は静かに呟き、一日の終わりを迎えた。霧咲神社の巫女として、彼女は明日もまた、変わらずにこの神社を守り続けるだろう。たった一人でも、彼女の心には強い信念が宿っていた。参拝客を待ち続ける一人の巫女として、紫はこれからもその使命を果たし続けるのだった。

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