霧咲神社

謎の少女

第1話

霧咲神社の境内は、朝の霧が立ち込める中で静寂に包まれていた。木々のざわめきや小鳥のさえずりさえも、この神聖な場所では一層控えめに感じられる。霧咲 紫は、境内の掃除を終え、石段に座り込み、静かに息をついた。薄紫色の袴が風になびき、彼女の瞳は遠くを見据えている。


紫がこの神社を継いだのは、わずか半年前のことだった。前任の巫女であり、彼女の師でもあった霧咲 陽菜が急逝し、紫は若くしてその重責を担うことになったのだ。陽菜の教えを忠実に守り、神社を守り続けることが彼女の使命であり、誇りでもあった。


しかし、参拝客は日に日に減少し、今や紫一人がこの広大な神社を切り盛りするのが日常となっていた。昔は祭りや行事で賑わっていた境内も、今では静寂に包まれていることの方が多い。


「今日も誰も来ないかもしれないな…」


紫はそうつぶやき、立ち上がった。彼女の足音が石畳に響く。その音は、まるで神社全体が息を潜めて彼女を見守っているかのようだった。紫は一つ一つの動作に心を込め、境内を清め、祭事の準備を進めていく。神様への敬意と、訪れる人々への感謝の気持ちを込めて。


紫の心には、かつて陽菜が言った言葉が深く刻まれていた。


「たとえ一人でも、神社を守ることが私たちの役目。参拝客が少なくても、その一人一人が大切なのよ。」


その言葉に励まされ、紫は今日もまた、一人で神社を守り続ける決意を新たにした。霧が晴れ、陽光が差し込む時、きっと誰かが訪れるはずだと信じて。


神社の鳥居を越えて、新しい一日が始まる。霧咲紫は、静かに参拝客を待ち続ける。一人の巫女として。

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