第4話

その夜、紫は神社の奥にある自室で休息を取っていた。窓の外では月明かりが静かに差し込み、周囲の木々が風に揺れていた。紫は布団に横たわり、今日の出来事を思い返していた。


参拝客が少しずつ増え始めたことに、彼女は希望を感じていた。人々が再び霧咲神社を訪れ、この場所に心を寄せるようになる日が来るかもしれない。紫はそう願いながら、深い眠りについた。


翌朝、紫はいつも通り早起きをし、神社の掃除を始めた。霧が立ち込める中、彼女は境内を一つ一つ丁寧に清めていった。神社が清潔で美しく保たれていることは、神様に対する礼儀であり、参拝客へのもてなしでもあった。


掃除を終えた紫は、神楽殿の前に立ち、一礼して祈りを捧げた。今日はどんな一日になるのだろうか。彼女は心を落ち着け、神様に感謝の気持ちを伝えた。


その時、境内に足音が響いた。紫は驚いて顔を上げると、一人の若い女性が参道を歩いてくるのが見えた。彼女は背中に大きなリュックを背負い、少し疲れた様子だったが、目には確かな意志が感じられた。


「おはようございます。ようこそ霧咲神社へ。」


紫は微笑みながら女性に挨拶した。女性は少し驚いた様子で紫を見つめ、やがて微笑み返した。


「おはようございます。ここに来るのは初めてなんです。ずっと前から来てみたいと思っていて。」


紫は頷き、彼女を本殿へ案内した。


「ありがとうございます。どうぞ、お参りください。」


女性は静かに手を合わせ、心からの祈りを捧げた。その姿を見守りながら、紫はふと気づいた。この女性はどこか懐かしい感じがした。まるで、かつてこの神社に訪れた誰かと似ているような気がしたのだ。


参拝を終えた女性は、紫に感謝の言葉を述べ、少しの間境内を散策していた。紫はその様子を見守りながら、彼女のことをもっと知りたいと思った。


「もしよろしければ、少しお話を伺ってもいいですか?」


紫がそう声をかけると、女性は驚いたように振り返り、やがて微笑んで頷いた。


「もちろんです。私もあなたとお話ししたいと思っていました。」


二人は境内のベンチに腰を下ろし、話を始めた。女性の名前は佐藤 美咲と言い、彼女は都会での生活に疲れ、心の安らぎを求めてこの神社を訪れたのだという。


「霧咲神社のことは、祖母から聞いていました。ここには特別な力があるって。」


美咲の言葉に、紫は心を打たれた。祖母から受け継がれたこの神社の存在が、今もなお人々の心に生き続けていることを感じたのだ。


「そうなんですね。この神社が少しでもあなたの心の安らぎになれば嬉しいです。」


紫の言葉に、美咲は感謝の気持ちを込めて微笑んだ。


「ありがとうございます。ここに来て、本当に良かったです。」


二人の話は尽きることなく続き、紫は美咲と共に過ごす時間がとても心地よいものだと感じた。彼女がこの神社を訪れたことが、何か特別な意味を持つような気がした。


その日以来、美咲は度々霧咲神社を訪れるようになった。彼女は紫の友人となり、神社の手伝いをすることもあった。紫にとって、美咲の存在は大きな支えとなり、神社の未来に対する希望をさらに強く感じるようになった。


霧咲神社は、再び人々の心の拠り所としての役割を果たし始めていた。紫は一人の巫女として、その使命を全うし続けるだろう。そして、美咲のような新しい友人と共に、神社を守り続けることができることに、深い感謝の気持ちを抱いていた。

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