第13話  出産と懐かしい来客



僕たちが彼女の実家に報告した後。

およそ半年たった予定日より少し早く、僕たちの赤ちゃんが生まれた。


ちょうど卒業した翌日だった。


「大変だったね。おづかれざま。ありがどう」


僕は必死に堪えている彼女を見て、涙が止まらなかった。


「鼻水すごいよ」


「うん知ってる」


「彼女に抱かれてすやすや眠っているようにみえた」

さっきまでうるさいくらいだったのに


「今はお父さんが泣いているし」


「ずびばぜん」


「ほらあなたのパパは泣き虫ですよ」


「いやそんな紹介止めてよ」

まだ目も開かないけれど、たしかに伝わったような気がした。





「出産は大事業だから、ちかさん大切にするんだよ」


「はい、肝に銘じてます。 マイ・マザー」


「ほら、あの目元あなたにそっくりですよ」


お義母さんがそう言ったら、彼女の怖いお父さんはにっこり笑った 


「なに驚いているの」


いえべつに


「しばらくして彼女は病室に戻っていった。今は保育機の中で僕たちの子供は寝ている。

同じ部屋には他にも哺育機があり、4人ほどが眠ったり泣いたりしていた。


『これから子育てが大変だという時、僕は学校に通っていても良いのだろうか』


その答えは中々でなくて、1週間後の退院の時、ようやくその決心がついた。


「休学」


僕が出したのはそれだった。

ほんとは退学して働きたかった。

でも僕のために入学金や授業料を出してくれた親にそれは言えなかった。

何よりも僕は学びたかった。

だから一年間。働きたい。そのお金で家族を養いたい。 

まあ、実家にいる時点で甘々なんだけどね。


流石にそこだけは譲歩してほしい、もう少し稼げるようになるまでは





「へー可愛いですね!」


「ほんとだ、よく眠ってる」


翌日、学校の帰りに元カノと後輩ちゃんが病院まで来てくれた。


「これお見舞いです」


「ありがとう!」・・・栄養ドリンク?誰が飲むんだろう


「ちかさんの様態はどうですか」


「うん疲れて今は眠ってる」


「ですよね、女性にとって出産て命がけですから」


なにか思うことがあるのか、今までの対抗心とは違うなにかを感じた。


「沢山労ってあげてくださいね」


「そうですよ、先輩はポンコツだってこと自覚してくださいよ」


「了解した」ポンコツ返上できるように頑張るよ


そう言ったら、何故か彼女たちは僕の事をじっと見つめた。


「先輩変わりましたね」


「うん、なんだろう。決意みたいなのを感じた」


「ありがとう」


僕なりに一生懸命やってきたことが、少しは実を結んだのだとしたら嬉しい。


「さあ、そろそろ起きると思うから病室に行くよ」


「はい」


「そっとよ」


そう言って、かつてのライバルのもとに行くとは思えない位、彼女たちの表情は明るかった。



「お邪魔します」


「そーっとね、寝てるかもしれないよ」


彼女たちの後から僕は病室に入ると6人部屋の左奥に案内した。

カーテンが開いてるから起きているのかもしれない。


「ありがとう。来てくれたんだ!」


「あ、起きないでいいから」


僕は隣のベットの人に軽く会釈をすると、カーテンを閉め彼女たちにパイプ椅子を用意した。 


「はいどうぞ」


「先輩気が利くじゃん!」


それはそうだ、ここで来客をもてなすのは僕の役割だ。


なにかなかったかなーと冷蔵庫を見る。 あった


「はい、どうぞ」


元カノにはお茶。後輩ちゃんにはオレンジジュース。

そしてちかには、

「まだ水のほうが良かった?」それとも麦茶か


3人はびっくりしたような顔で僕を見た。


「何が先輩にあったのでしょう」


「ほんとよね」


「ふふふ。私の旦那様だものね」


そう言って3人は見つめ合ってくすっと笑う。 

ここは病室だから大きな声は出さないように。と


「赤ちゃん見たよ、そっくりだったね」


「そうだよ、将来はきっと美人になるね」


「えーハンサムだよあれは」


どちらにしても僕に似なくてよかった。嬉しいやら悲しいのか


「いや、先輩に似てるんですよ」


僕がひとり落ち込んでたら、後輩ちゃんがそう言ってポンポンて肩をたたいた。

「そうなんだ?」


「ええそうよ。知らなかったの?」


「赤ちゃんの顔はみんな同じに見えるので。


「なにそれ酷い!」


「ホントそうだね」


「次会いに行くときはしっかり見てくださいよ!」


「はい、分かりました」


「大変よろしい」


なんだろ

ここだけ学生に戻った感じがした。

そうして彼女たちは、ブランクを埋めるように話し続けた。


僕はそんな様子を見て不思議な感覚を覚える。


変わらない関係性なんて無い 

人は変わるものだ

楽しそうに話す彼女たちを見て 僕は少しだけ肩の荷が下りた気がした。



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