第8話 結婚式と書いて大混乱と読む
やばい!
僕は参列者の中に、真っ白いウエディングドレスを着た知り合いを見つけた。
変だな体が震えてきたよ。風邪だな。うん、きっとそうだ。
僕の視線の先には、元カノと後輩ちゃんが満面の笑顔で式場のベンチに座っていた。
「ねえ、あの人達ってひょっとして・・」
母が僕の肩を叩き知らせてくれる。
「お願いもう何も聞かないで」
「これは想像以上に斜め上に行ってますね」
僕の側から、妹が暗い顔で呟いた。
「やっぱりこれ持ってきて正解でした」そう言って右手の紙袋を見る。
そのためのものだったのね。強行犯対策
*
時間が近づき、厳かな音楽が場内に鳴り響く。あ、動いた
ウエディングドレスの2人は、曲が始まると同時にすっと立ち上がった。そのまま前方へと歩き出そうとした瞬間、
「はいそこまでよ!」そう叫んだ妹が素早く二人を拘束。
観客があっけにとられている中、縛られそのまま会場の外へと引きずられて行った。
たしか会場の外は船着き場だったことを思い出し、可哀想なので魚の餌はやめてと一瞬思った。
何と言っても、かつて好きになった人たちだ。
信じて 騙され 裏切られたけどね・・あ、僕のほうが可愛そうかも
遠くからは嘘つきーとか聞こえたけど、嘘はいってないです。
曲解したひとが悪いのですよ。
*
「・・・お騒がせしました。はじめましょう」
ようやく式が始まる。
その時は誰もがそう思ったよ。僕も
「ちょっと待った!」
さあこれから始まる。そんなタイミングで一人の男が飛び込んだ。
「もう無視しましょう」
「ええっ!」
戸惑う司会者を急かして。僕は式を始めることにした。
「待ってよちか!やっぱり俺には君しか居ないんだ!」
「今度はそっちですか?」
「ごめん、そうみたい」
やって来たのは、誰が見てもイケメンでした。
何日も寝ていないのか、目の下にクマがいる残念イケメンです。
彼は僕たちの方へ向かいながら叫びます。
「真実の愛を見つけたんだ」
彼女の眉がビクッと動きました。
「そうなの?」
隣を見ると彼女は俯いてました。何でしょう拳を強く握りしめ、プルプルしています。
「さあ、今すぐ僕と逃避行だ!」
次の瞬間、強烈な右上アッパーが彼のあごに炸裂した。ひええ
「ど、どうして・・」
綺麗に放物線を描いて飛んでいった彼は、そのままピクリとも動きません。KOです。
しょうがないですね。
僕は彼の足を持って場外へ引きずっていきます。
ドアを開けてポイ捨てしたところを、謎の美女がキャッチしてくれました。
キャッチアンドリリースです!
「ごめんね!逃げ出しちゃって」捕まっていたんだ。
この笑顔を見せてる女性が今の彼女さんかな。ちょっと怖そうだけど。
そのまま黒光りがする乗用車に乗せられ、どこかに行ってしまった。
「コホン、続けましょう」
*
牧師さんの前で誓いの言葉を宣言していると、再び表が騒がしくなってきました。
牧師さんからの『早くなんとかしろ』と言う無言の視線を受け、僕は大きくため息をついた。
「あら、視線だけで会話しちゃうなんて妬けるわね」
ちかちゃんがカラカラ笑いながらそう言った。
「べ、別に私はそんなんじゃないし!」
若い牧師さんは、ツンデレ属性持ちでした。
「次の方どうぞー!」僕は投げやりにそう言うと、
「お邪魔しま~す」と言って、高校生くらいの女の子が入ってきた。
うわー物凄い美少女だよ。
ちかちゃんとは別ベクトルだけど、色がとても白くて髪はショートカット。
全体的にどこか少年ぽいのにも関わらず、どこか可愛らしかった。
その子はゆっくりと僕たちの方へと近づき、そのままちかちゃんの前で止まった。
隣を見ると明らかに動揺していた。
「今度はやばいかも」どうやらこっちは本命みたいです。
*
「ちかおめでとう。それが言いたくてきたんだ」
「・・・今更あなたがそんな事言わないで・・・なら私の事幸せにしてよ!ねぇ・・・お願いよ・・・」
えーと、何だか始まりました。
二人とも美少女なので見ている僕もドキドキしてきました。 百合は尊いです。
「やっぱりあたしとじゃ、ダメなんだよね」
彼女はちかちゃんにそう言われると、なんにも答えられなくなりました。
でも繋がれた手と手はしっかり恋人繋ぎです!
僕に寝取られ属性はないはずなのに、胸が苦しいのにドキドキしてます。
・・・美少女の百合てえてえ・・・
2人は見つめ合いながらも、結局それ以上は何も話しませんでした。
「あたし幸せになるから」
ちかちゃんにはそう言って、寂しそうに微笑みました。
その顔を僕は生涯忘れないでしょう。
そんな悲喜劇が済んだ頃、着替えを済ませた元カノと後輩ちゃんがしれっと席に座ってた。
ふたりとも静かに涙を流していました。きっと自分たちに重ねているのでしょう。しらんけど。
それからはトラブルも無く、あっという間に式は終了した。途中あれ以上のドラマを出そうと頑張ったけど、「お願い辞めて」と懇願されたので大人しくしてた。
「ああ疲れた・・」
そう言った牧師さんに2人して頭を下げて謝った。
次からは身辺整理は早めにお願いしますと、言われたしまった。
いや次無いから!
*
後日その人と3人で会う機会があって、真相を知らされた。
最後に現れたのが最後まで付き合っていた恋人だったらしい。訳あってその人とは別れたと。
彼氏がご令嬢と浮気したので別れたのではなかった。
実は恋人がご令嬢だった。
世間体やら跡継ぎやらさんざん悩んだ末に2人は別れた。
ちかちゃんはそれも辛くて生きる望みもなくなり、あの場所に来てしまった。
僕達が出会ったあの場東尋坊に。
「ちかちゃんの事、助けてくれてありがとうございますと」
彼女はその話を知ってだいぶ落ち込んでいた。
「こちらこそ、託してくれてありがとうございます」
大切な彼女を。今でも好きなのに。
「なんだか君は他人て気がしないね」
「でしょう、私も最初にそう思ったんだ」
「だから好きになったのかもね」
二人して見つめ合って微笑む。 なんて尊い
「いま帰ってきてほしいって言ったらどうする」
元恋人にそう言われたけど、ちかちゃんは即答してくれた。
「今は彼の事が1番。もし彼に愛想つかれたら、そのときお願いするかも」
「それじゃあ、それまで独身で頑張るかな」
「綺麗な百合空間に騙されてたけど、いま僕ってピンチじゃない?」
そう言ったら
「君はおかしな人だね」って笑われた。
「そうなの。雫って変よね」
ナニコレいじめ?
2人の美少女に笑われてしまった。
でもね、いつだって女性の笑顔が僕の幸せなんだよ。
いつだってレディーファーストだ
「なんなら今度3人でしてみる?」 なんだと!
お願いしますと言いそうだったけど、その前にちかちゃんに睨まれた。
「残念だけど遠慮します。百合は愛でる物。混ざるのは無粋なのです」
「惜しいな合法的にちかとやれたのに」・・・この人はしれっと恐ろしい事を。
「雫が望む限り、私はキミだけよ」
そう言って僕を抱きしめてくれた。
僕は少しだけ泣いた。
「なんで泣いてるの?」
「な、泣いてないです。目にゴミが入って」
「ほんとかなー?」
「・・・ごめん。ちょっと感動して」
「もう、キミは本当に可愛いね」
彼女は優しく僕を抱きしめた。
「ほらもっと泣いても良いんだよ」
「ありがとう」そう言って彼女にしがみついた。
彼女はどこまでも優しく僕を包みこむから、僕はこの手を離したくなくなる。
「あまえん坊さんには特別に、ご褒美もあげなくちゃね」
そう言って
そっと僕に口づけをします。
頬に 口に 首筋に。
それこそ顔中あちらこちらに
「みんなが見ていますよ」元恋人の前で大丈夫なんでしょうか。
多分これは彼女なりの決別なんだ。
顔中ベタベタにされた僕を、彼女は涙でぐしゃぐしゃになりながら見つめます。
「私のとびきりの愛を、大好きなあなたへ 」
「はい、確かに受け取りました」
僕は小さく呟いて
彼女の愛を確かに感じた。
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