第6話  僕の誕生日が記念日に


1月1日。今日は僕の18歳の誕生日だ。ついにこの日がやってきた。


お正月を前にして、何故か僕への包囲網がなくなり帰宅することが出来た。


「お誕生日おめでとう、お兄ちゃん!」


「おめでとう」


「ありがとう!」


着物姿で挨拶をしてくれる女性陣。

正直目が幸せすぎます。

口元が閉まりが無くなってしまいました。


盆と正月ならぬ、正月と誕生日。いつも僕の誕生日は大忙しだった。


今日は長谷川さんも我が家に来ている。

お正月の挨拶と例の報告のためだ。


「緊張してる?」

「当たり前でしょ」そう言ってニヤニヤしている僕の肩を拳で殴る。


「あらあら。元気そうなお嬢さんでママも安心したわ」


はっとなって、慌てて正座し直す長谷川さん。

何故か周りでは元カノと後輩がニヤニヤしながら僕たちの事を見ていた。

君たち何故ここに居るの。おかしいよね。普通


ちなみに彼女の両親への挨拶はとっくに済んでいた。

ふたりとも海外出張中の合間に帰国して、報告を受けてくれた。


「まあまあ、ちかちゃんがこんなに可愛くなって」あらあらと微笑む彼女によく似たお母様だった。


「うちのちかが選んだので文句は言わないよ、今はね」


お父さんは細身にも関わらず、どすが効いて少し怖いひとでした。 

だ、大丈夫負けないから!


「お嬢さんを必ず幸せにします」


「はい、よろしくお願いします」とお母様


「もし泣かせたら・・・分かるよね?」はい、魚の餌にはなりません。




回想終了 そしてデジャヴュ


「わた、わたしが彼を幸せにします!だから結婚させて下さい!」


「いいわよー駄目息子だけど。なにかあったらちかちゃんの味方だからね!」


「こんな美少女が俺の娘に・・・」お父さん泣かないで


「お姉様、今後とも宜しくお願いします」


「要らなくなったらいつでも言ってよ。すぐ無料回収するからね♪」いやその言い方!誰です元カノ呼んだのは!


「そうだよ、こんな腹黒女じゃなくてあたしはいつだって先輩だけの後輩なんだから」


ありがとうございます、でもその発言はNGです。


「みなさん、ありがどうごじゃいます」 

鼻水と涙でグシャグシャになった顔を見て、僕は不覚にも泣き出しそうになった。

素の彼女はこんなにも純朴だったんだ。


そんな顔を見ながら僕は例の物を取り出した。 

この場で出せた勇気を褒めてほしいよ。


「わあ、すっごい!」


「これって世界に一枚しか無いよね」


僕がテーブルの上にそっと出したもの。

僕のイラストを散りばめた婚姻届だった。


「う、うれじい」嬉しいのね、了解です。


既に両親たちの記入も済ませてある。残るは僕らだけ


「・・はなみずがたれそう」


彼女の震える手を支えていた僕は、残る手で彼女の鼻をかんであげる。はいちーん!


「ありがとう・・・書けたよ」ところどころ色んなもので滲んだそれに、僕も名前を書いた。


斎藤さいとう しずく


まるで初めて見たように、彼女は僕の名前を愛おしそうに呟いた。


「雫くんて言うんだ」  あれ、知ってたよね僕の名前 言ってなかったけ?


「・・・お兄ちゃん?」


「先輩?」


「これって酷くない」


女性陣が注目する中、僕は彼女から借りたノートパソコンを開いた。話題を変えなくちゃ。

背中に鋭い視線が集まるなか、目的のページに辿り着いた。


「これを式に流したいんだ」


そう言って彼女の方を見る。目が大きく見開かれてる。大成功だ


「それってあたしの曲だ。君が描いた絵も完成してたんだ」


「うわーかっこいい」みんなが口々にそういう中、僕は彼女と二人そっと立ち上がった。


「色々ご心配、ご迷惑掛けたけど、僕たちはこれから幸せになります」


彼女の軽快な歌をBGMに見つめ合う二人。


「ちょっと嘘でしょ。あたしの前でするっていうの?こんなの耐えられないよ」はい、頑張って耐えて下さい。


「ち、今回は譲ってあげるけど、10年後はあたしもまだピチピチなんだからね」


後輩ちゃんって一個しか年違わないよね


「うーん、参考になりそうです」参考になる?


「あたしたちも興奮するね」弟か妹ができるのですか


「美少女のキスがあ」お父さんはギルティです。有罪です。


僕は彼女の頬を両手で包みみんなから隠すようにして顔を近づける。


「わーわー」


「長谷川さんが一番興奮してますよ」


「だって!」


少しは落ち着きましょうね


そう言って僕はゆっくりと彼女の口を塞いだ。


今回は焼き魚の味はしなかったけど、僕が望めばキスの前にわざわざと焼き魚を食べそうな気がする。


「なに笑ってるの」


「長谷川さんが作った焼き魚が美味しかったなーって思い出して」


彼女は小首をかしげ「じゃあ、毎日作ってあげるわよ」

と言って微笑んでくれた。


しばらくは彼女のキスは焼き魚味に決まってしまった。

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