第5話  帰還命令と彼女たち


「・・・まずい」


朝チュンを聞きながら,僕は重大な事を思い出した。


「僕の誕生日は1月だよ」今は12月 


「それがどうしたの?」そう言って僕の首をつかまえに来る。


こら毛布で隠しなさい。見えてるから


「僕はまだ17歳なんだ。だから」


「正式には結婚できないわね。でも後一月もないでしょ。誤差よ誤差」


「それじゃあ、もう少し家で大人しくしないとね」


「・・・なに心配してるの?」


心配というか、卒業と同時に彼女たちとの縁も切れるはず。

そう考えていたんだけど、


僕は事態がそんなに甘く無いことを知った。

昨日妹から連絡があった。



「先輩が最近色気づいてるんだけど、そう思いませんか?」


「やっぱりそうだよね。なにか女の影が見えるのよ」


「でも尻尾がつかめないんだよね」


「仕方ありません、ここは共闘しましょう」


「ええ、将を射んと欲すれば先ず馬を射よね」


「それ違うと思います」


「「妹ちゃんいたんだ」」


「・・・最近どこかに通っているようなんです。お兄ちゃん」


「あんたは彼氏の所にいたよね」


「嘘言わないで。もうちゃんと別れたわよ、アンタこそどうなの」


「こっちだって振ってやったわよ」


「なるほど。既に独り身と。御二方の本気確かに見せてもらいました。ではこれを見せてもいいでしょう」


「なにこれ」


「結婚式の招待状じゃない!」


「ぜひ兄をつかまえて下さい。 でないとあたしが寂しいんです」


「わかった。必ずあたし達がつかまえてみせるからね!」





「だから捕縛される前に、さっさと帰りなさいって連絡が来たんだ」


「ホントしつこいわね。まだ諦めていなかったんだ」


しかも身辺整理までして。


「ほんとすごい執念」

どうせなら、その情熱を勉強に向けてよ。

テスト前つきあわされて、ホント大変だったんだから。


「良いわ私が乗り込みましょう」


「いいの?」


「ええ。正妻の本気見せようじゃないの!」





数時間後

「・・・ねえ、帰ってもいいかな」


どうやら彼女は内弁慶らしかった。


僕の家が近付くにつれ、目が泳ぎだし、呼吸が荒くなってきた。


「あのー長谷川さん?」


「・・・お家帰る」


駄目だ、幼児退行起こしてる


「分かりました。今日は帰りましょう」


「いいの?」


「僕だって彼女たちが節度を持ってくれたら、それで十分なんだから」


僕は彼女の肩を抱えるようにして、もと来た道を戻っていった。


捕縛直前彼女の機転?で難を逃れた。


去ってゆく彼を部屋から見つめる二人は・・


「あー逃げていった!ねえ敵前逃亡って死罪だっけ?」


「うーん、どうなんだろう。そもそもあたし達って敵なの?」


「私は彼の味方よ。いつだって」


「・・・うん。あたしもそうだった筈よ」


二人してお互いの顔を見つめ大きくため息を付いた。


「あたし達なにやってるんだろう」


「これ以上嫌われたくないよ」


そんな二人の後ろから「ふふふ。大成功なのです」


そんなこの家に住む小悪魔の声が、聞こえたとか聞こえなかったとか。

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