第3話  帰宅 そして修羅場再び

スマホに表示された名前を見て、初めて彼女の名前を知った。

長谷川ちか

現在市内の私立の女子校に通う高校に通う高校三年生。

そして歌手でもある。

僕が知っている情報はそれで全て。


「あと、うさぎが好きかも知れない」

彼女が使っているアイコンはうさぎのキャラクターだった。

そんな事を考えながら、彼女と次会う約束をして家路を急いだ。

何だか心も軽かった


*

自宅に近づくに従って、軽かった気分は一瞬で消え去った


「いつまでまたせるの!」


玄関の前には元カノが寒そうにして立っていた。えっと、この場合


「ただいま?」


「おかえりなさい」


「それじゃあ帰ろうか」


「中に入れてくれないの?」


「うん、だって僕たち他人だよ」


「あんなに愛し合った仲じゃない!冷たいよ!」


「誤解する言い方しないで。 僕たちって手しか繋いだことなかったよね」


「えーそうだっけ?」  そう。それ以上はダメだって言われたし


高1から付き合って2年以上になるけど、僕らは清い関係だ。


「なにやっているんですか!」


玄関口の騒ぎを聞きつけ、ドアが開くと妹が出てきた。


「あ、うるさくしてごめんね」


「痴話喧嘩なら部屋の中でやって下さい」そう言ってドアを開けて中へと入っていった。

余計なことを


彼女は「おじゃましまーす」っと、ご機嫌で中へと入っていった。

はあ。これどうやって追い返せば良いんだろう。


「妹ちゃん感謝ね!」さ入って入って


僕の家だよここは





結局彼女が帰ったのは2時間後だった。

言葉が通じない相手を説得するのって、ほんと精神が消耗する


「友達としてなら」


最終的にはそこまで後退した。


まだあの女と付き合わないと駄目なのか・・

明日は週末だけど、なにかが起こりそうでもう逃げ出したくなった。


あっ、こんな時こそ連絡だ。仲間に頼ってしまおう。

まだ起きていると良いな

現金なもので、彼女に連絡できると思うと、何だかワクワクが止まらなくなった。


「まるで彼女に恋しているみたいだ」


いやそんな事無いよね。向こうは有名人。僕はありふれた高校生。


「ひとまず、一緒に何処かに行きたいな」


まるでデートのようだと、自分でも不思議だった。





「やっぱり君は可愛いな」


学校の帰りに長谷川さんに強襲を受け僕は市内から離れた公園に来ていた。


「まだその子と切れていないんだ」すみません。


彼女は小さな電車型の遊戯に座ると、「一緒に乗ろう」と僕を中へと誘ってきた。


「ほらここなら温かいでしょ?」


うーん


「気のせいかも」 中も外と同じで寒かった。


「ぶっぶーです!零点だよ。はい再試験ね」


「・・・やっと二人っきりだね?」そう言いながら彼女に向かって微笑んでみせ

た。

採点はどうだったと聞いても、


「その笑顔は反則だよ」そう言って答えてくれなかった。なかなか厳しいです。


気がついたら公園には僕ら二人っきりでした。

流石に小さな子供が遊ぶ気温じゃなかった。


そうだ、


「これ聞いてみたよ」


昨日投稿された新譜。別れと再生の歌。素晴らしい曲だったけど画像はシンプルな風景だった。


「あっ、ありがとう。早速聞いてくれたんだね」


小さな電車の中、僕たちは身を寄せ合って小さな画面を見てた。

アップテンポからバラード調まで、緩急をつけ飽きさせない展開だった。


「特にここが聞いてて切なくなって」


「ああ、そこね」明るい主人公が見せた寂しさに胸が締め付けられそうになって苦しくなった。

「そして最後までのラッシュ」


魂の救済。まるで僕の心境にぴったりだった。

でも誰かに似てるかも

「ふふふ。そこお気に入りなんだ。絶望の中で出会った二人がいつの間にか恋をして、絶望すら楽しんじゃうの!」


・・・ああ、どうりで、どこかで見た気がしてたのか。

これは僕たちの歌だったんだ。

小さな空間で身動きもせず曲を聞き続けた。

今動けば彼女との魔法が切れてしまいそうで。


「ふう。緊張した」


「なんで?」


「だって、視聴者の前で聞くことなかったから」


そう言って照れる姿は年相応で幼く見えた。

僕の中ではピンチから救ってくれた優しいお姉さんなんだ。

「それでね」


「うん?」


「この前の話だけど、この曲に合う絵を描いてほしいの!」


描くのは良いんだけど、僕みたいな素人で大丈夫なんだろうか


「君が良いの!」


どうして彼女が僕を求めているかわからない。

でも決めるのは彼女だ。

僕が勝手に先回りして、彼女の決断の邪魔をしてはいけない。


「わかった。頑張ってみるよ」


「あ、ありがとう」


そう言うと力が抜けたように僕の方に寄りかかった。


「安心したー」


今日始めて素の彼女を見た気がした。


「何だか新鮮だ」


「ピチピチの女子高生なんだから、鮮度抜群だよ」


「なんか急におっさん臭くなったよ」


そう言ったけど、「えーそれはやだな」ってつぶやきながら不意に空を見上げたた。


「雨が降ったら出られなくなるね」


「傘持ってきてないんだけど」


外に顔を出して見上げたら曇天。いつ降ってもおかしくない。


「そんときはここで雨宿りだね」


「それもいいな。君と一緒ならどこだって楽しいから」


そう言って振り返る直前、頬に柔らかい感触がした。  キスされた?


「ふふふっ、残念?後少しだったね」


僕は頬に手を当てて彼女の唇を見た。


「不意打ちは良くない」


「そう?」じゃあ今度はわかりやすく


次のキスはとてもわかり易く、僕らはいつまでも離れられなかった。

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