第三章 「回顧(退職)」 最終話

マシューも自動ドアを通り過ぎたのか、凄まじい歓声に迎えられる。

黒、白、黒、白、白、フラッシュが夜の渋谷に勝り、人工の白夜に晒される。

少しでも気を抜くとその眩しさに目を閉じてしまうほどだ。


しかし、突如として別の色が邪魔をする。

「マシュー!死ぬ前にハグさせて~!!」


(イブ ジョリー L45)

警備線を飛び越えた、全身赤ずくめの女が走って来る。

気色悪い。髪も眉毛も赤色だ。


左前方を警戒していたGが盾になり、両手で軽々と女を静止する。

「いやぁああ、離してぇー!」と抵抗するがビクともしない。

エリコ、タカコは持っていない。ただの熱狂的なファンだろうか…


一人の先鋒を失うと、更なる奇行者が現れる。

出迎えをするなと忠告した永瀬が運転席から出てくる。

(戻れ)のハンドサインを送るが止まらず近寄って来る。その姿は番犬のように勇ましくはないが、怯えた表情で吠えた。


「う、うわぁあああ!」


怪しいとは思っていたが何故だ?

安全運転をして、今日の日当を稼ぐと言っていた。

ある意味、味方であるはずの男が、死に物狂いの形相で飛び掛かって来る。

胸ぐらを掴もうとするが、手を振り払い背負い投げで地面に叩きつける。


大丈夫だ。イーグルはSに守られている。

「このリムは危険です。サロインで出発しましょう!」


嫌な予感が現実になる。

茶番で終わってくれ。

おふざけが度を超えた女モデル、熱狂し過ぎたファン、それに気違いの臨時ドライバー。それ等が偶然に同じイベントで重なっただけの茶番で…


すると開くはずのないリムの扉が内側から開く。

慌てて扉の前に立つと、その向こう側が照らされる。

フラッシュの光に晒されて、その正体が少しだけ明らかになる。


そうか。これまでの茶番は、この瞬間のための前座だったのか。


こちらを向いた、小さく、狭い、銃口。

その銃を構えた何者かが、座席に横座りしている。

マスクを被った二つの眼光が、こちらを睨みつけている。

誰かも、性別も、雇われた殺し屋かも分からない。


ただ、殺意は明らかだ。

標的は笹垣マシュー健二朗。


死を覚悟する。

両腕を大の字に広げて、立ち塞がって「盾」になる。

撃て。撃たれても構わない。

弾丸が肉体を破って、体に入ろうと、貫通はさせない。

そんな軟な体はしていない。

イーグルには掠り傷一つ付けさせない。

そのための自分だ。


究極の見せ場だ。

心臓に力が入る。高鳴る鼓動と闘う。

きっと、この瞬間のために警護員になったんだ。


―生きてきて、良かった―


誰かのために生きて来て

誰かのために死ねる。


「退避だ!」

大きな一声のあとに、「悪かった」の小声が続いた。

背後にいたはずのSがそう叫び、自分の前で腕を広げた。


「生きろ!」

何故だ。

壁になると覚悟したのに、Sの指示通りに体が動く。

本能がそうさせる。Sの愛が乗った言葉がそうさせる。


―逃げないと。章兄の言う通りに逃げないと。―


固まったマシューの体を掴んで、後方につけたサロインに向かう。


―パァーン、パァーン―

二発の銃声が渋谷に響き渡る。

これが本物の銃声だ。

人の人生を奪う轟音だ。


Gとマシューを引き摺りながら、後方を見る。

身体は屈折しながらも、Sは両手で車体を掴み、壁を作っている。

防弾チョッキを着ているはずだ。

まだSは生きている。呼吸をしている。


「章兄、逃げて下さい!」

そう言っても逃げない人だとは分かっている。

周囲を逃げ惑う人々に被害が及ばないよう、壁を作っている。


「あとは頼んだぞ。光史!!」


―パァーン―

三発目の銃声と、何かが潰れたような音。

続いて群衆の至る処から悲鳴があがる。

頭部を撃ち抜かれたSが、後方に敷かれていた深紅のカーペット上に倒れている。

遠ざかってもはっきり見える。

同じ赤でもくすんだ鮮血が、勢いよく滲んで黒に近い赤に染まっていく。

遠ざかる意識の中で右手の指が何本か蠢いている。

神経に送られた信号が、まだ誰かを護ろうとしている。


ドアを開けていた警護車両にマシューを押し込み、上に覆い被さる。

「先輩、鍵!」

胸ポケットに入っていたキーをGに投げる。

四発目がフロントガラスに命中し、不気味な斑模様を作る。

銃撃音に耳が麻痺し、発言が交錯する。


「早く出せ!」

「分かってますよ!」

「慌てるな、落ち着け!」

「こんなんで落ち着けるかよ!」


ようやくキーを回してエンジンをかけてGが全体重をかけてアクセルを踏む。

リムジンを降りて、黒いマスクがこちらへ近付いていた。

走り出した車輌に複数の弾丸を容赦なく打ち込んでくる。


本来感じるはずのない強烈な梅雨風が車内に吹き込み、埃や塵だけでなく、座席に置いた書類や空き缶が飛び散る。


「嗚呼、ママ、ママ!」

マシューが声と体を震わせて、車のシートに向かって祈りを捧げている。

「G、大丈夫か?怪我はないか?」

「大丈夫じゃないっすよ!!」

「その交差点を左折。三つ目の信号の左手に警察署がある。」

Sを置き去りにして、暴風の中を突っ走った。


               ※


 警察署には「安堵」が充満していた。

 奇跡でも、章兄の「生」を祈る。

 普段は口数の少ないガチムチが、興奮気味に警察官へ事件の説明をする。

 指にいつも以上の力を入れて、会社へ連絡する。

 電話先では罵声のような同僚の声々が交錯し、慌ただしい。


「ブアイ、無事だったのね!良かった。ガチムチも無事なの?」

「ああ。無事だイーグルと警察へ退避している。」

「今も現場はとんでもないことになっているわ。」

「何か状況は分かるか?」

「銃撃の後、例のリムジンは直ぐに現場を離れて逃走。現状では、章兄の他に被害者はいないそうよ。」

「犯人は東條さんなのか?」

「未だ分からない。会社から東條に連絡は入れているけれど、まだ応答はない。」

「章兄の容態は?」

「現場近くの渋谷緑風会病院に搬送されたわ。朱音さんとご家族が病院に駆けつけている。社長と部長も。」

「本当は自分が撃たれるはずだったんだ。それにあのリムジンは要警戒だと分かっていた。イーグルの意向を押し切ってでも、控室に戻るべきだった。」

「そうかもしれない。でも、章兄がそう判断したのだから。そしてあなた達はイーグルの命を護った。今は章兄の無事を願いましょう。あ、ごめん。事務所の電話が鳴りっぱなしなの。切るわね。またかける。」


 廊下にあった長椅子に座る。警察官から聴取を受け、既に一時間近くが経っていた。スローモーションで流れた映像が、頭の中でフラッシュバックする。先着警護員の自分が対象者前方を警戒して「盾」になる役割だった。同行警護員の章兄がマシューを退避するべきだった。


「先輩、お疲れ様です。」

 聴取を終えたガチムチが力なくベンチに腰掛けた。

「まさか、こんなことになるなんて。」

「そのまさかを想定して、未然に防ぐのが身辺警護員だろ。」

「章兄がメインから出る判断をして、その中でやれることはやれたはずです。」

「だから、その判断を下さないようにしていたら、章兄は助かったはずだろ!」

 自分の直感を貫けなかった苛立ちが、体内に充満していた。


 飛散したガラスで顔中に切り傷があるガチムチに今更気付く。

「傷は大丈夫か?」

「はい。こんなものは痛くも痒くもないです。」


「君達はもう帰っていいぞ。下に迎えが来ている。また明日にでも現場検証に立ち会ってもらうことになるが。」

 取り調べをした刑事がやってきた。

「笹垣さんの様子は?」ガチムチが聞く。

「ああ。深く怯えていて、とても受け答え出来る状況ではない。事務所の人達が来ているけど、外へは出たくないの一点張りだ。」

 刑事に案内され地下の駐車場へ下りた。


「酷い有様だ。」

 迎えに来たマッチが、銃撃された警護車両を興味深そうに覗いていた。

「大変だったな。だが、章兄とお前達は命懸けで対象者の命を護ったんだ。」

 マッチは二人の背中をそっと叩き、ハンドルを握った。

「向かうぞ。病院に。」


 ワイパーが動いている。ガラスに次々と水滴がくっついては消されていく。

 雨が降っている。

 そっぽを向いていた雨が、今更になって予報通りに言うことを聞いている。


 しばらく無言が続いたが、マッチが口を開いた。

「警察は東條さんが実行犯と考えているが、首謀者は別にいると見ている。俺も気になって調べているが、東條さんは数年前から、DEATHTINY(デスティニー)というグループと繋がっていたらしい。そこに通称デスパレスというトップがいる。そいつが黒い噂の絶えない男でな。金に物を言わせて、半ば罰ゲームの様に人間を脅して、気に入らない人間をゲーム感覚で殺す奴らしい。東條さんはそのグループが運営している裏賭博に入り浸っていたらしく、そこで大きな負債を背負った。牛耳られた東條さんはマシューを殺すように指示されていたと。」 


「そんな人間がウチの警護課課長だったなんて。リムのドライバーや、熱狂的なファンの若い女も、そいつの手先だった可能性も?」

 アシストグリップを掴むガチムチが窮屈そうに聞く。

「それはまだ分からない。話を聞いている限りだと、永瀬というドライバーは無職の多重債務者。デスティニーは裏賭博だけでなく、麻薬の売買や金貸し、何でもやる。事情も知らされずに、金に釣られて犯行に関わったとだけだと思うが。」

 

「立花ライカもそのグループの一員の可能性があります。イベントが終わる間際に鳴らしたパーティークラッカーはただのおふざけじゃない。マシューがこれから殺されることを知っていて、それを祝った。華やかな世界で、大勢の人間に囲まれて生きてきたマシューが目障りだったからこそ、ファンに囲まれた中で殺したかった。」


 許せない。どんな事情があろうと、殺害に関与するような奴らは許せない。

 章兄が撃たれた。章兄はマシューを救った。

 そんな大好きな章兄を襲った相手は許せない。

 でも、章兄に壁をさせた自分が、もっと許せない。

  

「そうかもしれないな。ただ、それ以上の事は警察に委ねるしかない。今は章兄の無事を祈ろう。」


「マッチさんは本当に無事だと思っているんですか?」

「ブアイ、まさか章兄が死んでいるとでも言いたいのか?」

「見たんです。頭を打ちぬかれた章兄を。」

「だから何だ!章兄は生きようと闘っているんだぞ!俺達の憧れる章…」

「おかしいと思ったんだ。雨が今更になって降ってきて、来る奴、会う奴、どいつも怪しくて。何かあると思ったんだ。もっと言っておけば良かった。今日は必ず何かが起きるって。章兄を説得出来なかった。今日はそういう日なんだ。だから章兄はもう…」


「おい、貴様はここで降りろ!生きる希望を持たない糞野郎をホタルへ連れていけない。見損なったぞ、ブアイ!」

 

 黙って車を降りる。

 

 携帯の着信音が鳴る。

 空の涙が画面を濡らす。

 章兄の妻、朱音さんからメッセージ。


(澤君 どうしよう 継章が死んじゃったよ)


 それでも生きていて欲しいと願っていた。

 自分が一番可愛がられていた後輩だと自覚だってある。

 弟のように思ってくれて、色んな所に遊びに連れて行ってくれた。

 缶コーヒーの差し入れは百本どころではない。

 肉まんだって百個ではきかない。


 代われるのなら今すぐ変わりたい。

 巻き戻せるなら今すぐやり直させて欲しい。

 章兄は殴ってでも、会社を首になっても、

 絶対に死なせない。

 そう覚悟出来ているのに

 何故、こんな所に立って、雨と一緒に泣いている?

 

 何度生き直せばいい?

 自分だって生身の人間だ。

 感情豊かでない分、不愛想で多少のことでは全く動じないけれど、何度も耐えられる訳ではない。器用な昆虫のように脱皮は出来ないんだ。


「どうして、どうしてこうなるんだ!」

 ようやく正直になった雨雲に向かって叫ぶ。

「章兄!章兄!!章兄!!!」

 一番に大切で、最も愛していた人を失った。


                 ※


 襲撃事件から六日後の六月十二日。


 心情を察してなのか、連日の無断欠勤にも会社や同僚からは一度も連絡が無かったが、今日は朝から何度も携帯が鳴り続けている。

 章兄が火葬される前日。


 同僚に殺されてしまったのにも関わらず、妻の朱音さんが会社の人間への面会を許した唯一の日で、多くの仲間が章兄の自宅で最後のお別れをする予定だ。

 昼頃、闇金がお金の回収に来たかのようにドアが強く叩かれた。尋ねずとも、誰が来たのかは明白だった。

 

「ブアイ、ドアを開けなさい。朱音さんからの伝言よ。章兄にあなたの顔を見せてあげて欲しいって。」

「おい、聞こえているなら返事しろ!男がいつまでもウジウジするな!!」

「悲しいのはお前だけじゃねえんだよ!開けやがれ、蛆虫!!!」


 同じ高姐の声だが、無視する度に口調は激しくなる。

 そしてその甲高さに耐えきれず、ドアを開けた。

「何て顔してんのよ。ほら、チェーンを外しなさい。」


 外さずにしばらくすると、大きな右足が振りかぶりって、一瞬にしてチェーンが粉砕した。かかと落としが得意技の巨漢が目の前に現れる。

「先輩。お久しぶりです。」


「どれどれ。ここがズル休み王、澤君のご自宅ですか。」

 ずけずけとガチムチの体をすり抜けたマッチが先陣を切って部屋に入ってきた。

「黙って聞け。出社しろとは言わん。お前が一番章兄に可愛がってもらったろ。だからどんな顔でもいい。今日は必ず章兄に面見せろ。」 

「死んでしまった人間に、どんな顔を見せれば良いのですか?」

「屁理屈は言わないの!」

 高姐はテーブル上に散乱していた煙草の吸殻を、コンビニのビニール袋に捨てる。


「それにしても、お前の部屋は何も無いな。本やゲームも無いし。何だこれ?万華鏡か。懐かしいな。」マッチの詮索癖は何処に行っても収まらない。

「触らないで下さい。それに、何ではそんな平気でいられるんですか?」


「馬鹿!平気な訳ないでしょ。私だって章兄がいなくなったなんて信じられない。でも、あんたみたいに塞ぎ込んでいても何も変わらないじゃない。章兄は生き返らない。それに、私達には護る人々がいるじゃない!」 


 現実を受け止められず、フワフワしていた事実が時間の経過と共に実感を増して地面に付着する。日に日に増すのだから時間が解決してくれるとは思えず、それならどうすればいいのかを考える前に立ち止まってしまう。

 

 玄関先で立ち止まっていたガチムチが言う。

「外は良い天気ですよ。取り敢えず外に出て、日光を浴びませんか?」

 そして巨漢に関節技をきめられ、女に根性焼き寸前まで火を炙られ、もう一人の男に拷問染みた口撃を受けると、反撃も及ばず撃退されてしまった。


 襲撃事件の翌日、リムジンのドライバーの永瀬秀和は神奈川県の山中で服毒により車中で自死した。その日の夜、品川区内の自宅マンションで東條さんの遺体が発見された。遺書が残されていて、右手には銃が握られていた。その銃の弾丸を鑑定した結果、章兄を打ったものと一致し、殺人の容疑者は東條渚と断定された。


 事件はその日の晩から連日メディアに取り上げられたが、マシューに特化した内容がほとんどで、章兄は数日間(勇敢だったボディーガード)として紹介されただけだった。そして、肝心の笹垣マシュー建二朗は表舞台から姿を消した。


 ホストを辞めたマシューはある組織から裏賭博の経営を任されていた。どうやら当時から金遣いが荒く、金策に走っていたらしい。多くのファンや知人から不正に利益を吸い上げ、多くの借金苦を生み出していた。その弱者達を玩具のように弄び、組織は首謀者になることなく犯罪を起こし続けている。


 マシューは利益の一部を横領し会社を立ち上げた。それが組織にばれたマシューはしばらく金銭の返済をしていたが、スターに上り詰めた今は組織と遠ざかっていた。

 だから、面白く思わない組織は東條渚を使ってマシューを殺そうと企んだ。


 東條さんは警察時代にデスティニーと繋がり、犯罪をもみ消すための裏金を受取っていたらしい。その味を占めて賭博に走り、多額の借金を抱えて形成逆転。組織に権力を握られ、妻とも離婚。築いた全てが崩壊し、血迷っていた。


 共に警護の礎を築いた章兄さえも撃ち殺せてしまう弱者に落ちた男。


 あくまでメディアの憶測と週刊誌の記事で真相は分からない。


「囲まないで下さい。」

 警護体制を取るかのように、スーツ姿の三人に包囲される。

「章兄に会う時には必ずネクタイを締めるのよ。」


 約一週間ぶりの日光が容赦なく照らし、その眩しさに苦を催す。

 スーツが緩く感じる。

 何も食べなければ痩せるし筋肉量は落ちる。

 そんな当たり前に気付かない類人猿が、刑務官に付き添われる囚人のように、都内の歩道を力なく歩く。

 信頼する仲間に護られて、本来なら誇らしく、堂々と進めるはずの先々の景色が、水墨画のようにぼんやりとしている。


「あんたは囚人ではない。イーグルでもない。でもね、私達の大切な仲間よ。」

「お前が異変を察知していなければ、被害は拡大していたはずだ。」

「先輩とバディーで良かったです。今までもこれからも、そう思っています。」


 前後から温かい声が聞こえる。

 でも、どんな顔をして、章兄に会えばいい?

 どんな決心をして、お別れをすればいい?


 それが怖くて、輪からはみ出そうとする。

 早歩きをして前を行こうとすれば、高姐とガチムチに手で進路を塞がれる。

 ゆっくり後ろにずれようとすると、マッチが背中を押してくる。


 でも、章兄の死を認められなかった。一言も声をかけられなかった。

 そして、その日から四人が揃って歩くことも、会うことも無くなった。

 その日を境に、あったものが全て無くなった。

 

 高姐とマッチは今も警護員として働き続けている。

 ガチムチはその年の十一月に長年付き合っていた彼女の妊娠が発覚。翌年には結婚し、パン屋の跡継ぎになるために退職した。


 事件後、会社は最大限の配慮をしてくれた。

 評判の良い精神科医の先生を紹介してくれて、復帰できるまでずっと待つと言ってくれた。直ぐの現場復帰が難しければ、教育者として新人教育を任せたいとまで言ってくれた。

 その思いに応えたいとも考えたが、体は動かなかった。


 そして会社を退職した。

 もう二度と警護はしないと、逃げの人生を選択した。



― 第三章 「回顧(退職)」 最終話 完

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