チンギスの確信

「やはり戦力が増えているな。」


新狼帝国で向かわせた兵の惨状の全てを、蒼狼から見ていたチンギスはぽつりと呟いた。


蚩尤しゆうという神を喰い、もはや神々と同じ程の力を持つチンギスは念の為、捨て駒として項羽と呂布に攻めさせた。


「だが、増えたのはあの龍より弱い者だけだな。」


神の如き力を持つあの龍ぐらいの化け物が増えているのを警戒していたが、それは杞憂のようであった。


「ならば勝機はあるな。」


もはや、リーズしか自分に並ぶ者は居ないと自負するチンギスは拳を握りしめる。


負けた項羽も何処かに逃げた呂布もどうでもいい。


魑魅魍魎の軍勢もまた作れば良い。


「持てる全てを使って侵略してくれる…!!」


最初の借りをようやく返す時が来た。


蒼き狼の王は顔を歪ませて嗤った。


「ただの女傑では無いと思っていたが、凄まじい力だな。」


関羽が呟く。


「あれは化け物だろ。無茶苦茶すぎるぜ。あのお嬢ちゃん一人で良かったんじゃねーか?」


南狼関への帰路の途中、関羽と張飛がレオルに話しかける。


「ガハハハ、リーズ殿の正体は龍の王だからな。凄まじい力を持ってるんだよ。ただ力加減があまり出来ないからな。ああいう平原じゃないと力を本気で出せないという縛りはあるな。だから陛下も本気を制限してるんだろうな。」


「なるほどな、何にせよチンギスの軍を退けた事は幸先がいい。そのまま攻めても良かったんじゃねーか?」


張飛の言葉にレオルが答える。


「俺もそう思うが、陛下は守りに徹せよと言ってたからな。何か考えがあるんだろう。それにー」


言いかけて途中で止めるレオルに関羽が反応する。


「我ら義兄弟は食客。言い難い事があるなら言わずとも構わん。」


それを聞き、首を横に振ったレオルは声を小さくしながら耳打ちするように話した。


「いや、チンギスは一回リーズ殿と戦ってるらしいんだよ。関羽殿と張飛殿ならあのリーズ殿を一度見た後に戦おうと思えるか?」


「御免こうむる。」


「冗談じゃねーよ。」


ほぼ同時に答える二人、その答えを聞きレオルは続ける。


「そうだろ?あんなもん見た後に戦おうとしないよな。だけどチンギスってやつは戦う気なんだよな。何か秘策があるのかー」


話しを聞いていたのか信長がレオルの会話を遮り口を挟む。


「くくく…龍王より力を付けた…かだな。」


レオルは頷き、肯定する。


「まあ、そう簡単にあんな化け物みたいな力は持てないと思うけどな。」


四人はうんうん、と頷いた。


「張飛とレオル。我を化け物呼ばわりした事覚えておく。」


油断していた二人はあまりの地獄耳にため息をついた。


「それよりも、アラタの王様はあのリーズ姐より強いって事なのか?」


「難しい所だな。魔力や破壊力はリーズ殿の方が大きいんだが、陛下が負ける所は想像つかないぜ。」


会話を相変わらず聞いてたらしいリーズが口を挟む。


「我が主アラタ王に決まってる。昔はまだ勝てたかもしれんが今じゃ、何をやっても上手く対処されよう。」


「そんなに強いのか!ガキとか言っちまったが良く命があったもんだぜ。」


張飛が青ざめた顔でため息を吐く。


「とにかく、新狼帝国の出鼻を挫けたのは大きいな。問題は守備を命じられてたのに奇襲した事だけか。」


レオルの言葉にリーズは何を言われたか分かってない。


「ん?リーズ殿、分かってて命令違反したんだろ?」


「いや、でも我が主アラタ王の敵、新狼帝国に打撃を与えたぞ?」


呆れたようにレオルが窘める。


「それは結果論だって。防壁まで作ってたんだから怒られると思うぜ?」


「ククク…俺なら打首だな。」


レオルの言葉と信長の追い討ちにリーズの顔はみるみる青ざめた。



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