レオルの本気

ずしり、ずしりと馬を降りた最強の男 呂布奉先は関羽と張飛に近づく。


最強の自分がこの世界に来て得たスキルでまさに一騎当千が可能な姿になれた。

いや、この姿なら一万でも十万でも屠ってくれよう。


この男達も昔と変わらずなかなか強かった。

だが最強は唯一人…!いや、今はこの呂布とチンギス・ハーンの二人のみ!!


六本の腕を振り上げ、今まさに方天画戟を繰り出そうとしたその時、


「腕が六本あるなら、俺も参加していいよな?」


レオルが突如、呂布の前に現れ剣を放つ。


呂布は繰り出されるレオルの斜め下からの斬撃を一本の方天画戟で弾こうとするが、その鋭い攻撃を抑えきれない。


三本の腕を使い弾いた時には危うく腕を切り落とされる寸前だった。


「ガハハハ!油断していたから腕の一本ぐらい欲しかったがそう上手くはいかなかったな!」


呂布は認識を改め、最大の脅威に向き直る。


西洋の鎧のようなものを着込んだその獅子顔の獣人は手に持つ剣を正中線に構え、油断なくこちらを見ている。


「関羽殿!張飛殿!まだ心は折れておらんだろう!向こうの項羽軍を織田信長殿が一人で抑えている!この男にあまり時間はかけれんぞ!」


「なんの!この青龍偃月刀の本領はまだ発揮していない!」


「この張飛様が心折れるだと!ふざんじゃねえよレオル!呂布が化け物になったからたまげてただけよ!」


呼びかけるレオルに呼応するかのように、二人の義兄弟は目に力を宿した。


繰り出される攻撃を受けながら三人と呂布は戦場に金属がぶつかり合う音を奏でていく。


「ガハハハ!強いな!」


楽しそうに笑うレオルに、同じく楽しそうな張飛が叫ぶ。


「こいつは俺らが居た時代で最強と言われてた奴だからな!認めるつもりは無かったが、ここまで強いと認めるしか無ぇじゃねーか!」


無表情だが、心無しか呂布奉先も楽しそうに見える。


「ガハハハ!お主も楽しそうで何より!だが、そろそろ決着をつけねば、後ろの御仁から我らもろとも殺されかねん!」


いらいらとしたリーズの気配を感じながら、レオルは続けた。


「楽しい時間だったが、そろそろ終わりにしゃう!行くぞ!【獣紫神雷じゅうししんらい!!」


スキルを唱えたレオルの身体が紫に光ったと思った刹那、呂布の左腕が三本とも全て切り落とされる。


何が起こったか理解出来ない呂布。目の前から消え失せたレオルの声が頭上から聞こえる。


「久しぶりで、勢い余ってしまったな!無駄に苦しませるつもりは無かった!許せ!」


全身を紫の雷と化したレオルが音を置き去りにするスピードで呂布の首から心臓目掛けて剣を突き立てる。


遅れてやってきた紫電がバチチチチと鳥の鳴き叫ぶ声にも似た音をたて、呂布の身体を焼き尽くした。


立ったまま焼け焦げた呂布から剣を引き抜くと、レオルは鞘に剣を収める。


一息をついたレオルにリーズが叫ぶ。


「レオル!!この愚か者!まだ死んでおらんぞ!!」


今しがた生気が消えたはずの呂布の目に光がともり方天画戟を高く掲げた。


咄嗟に剣を再度構えるレオル。


だが警戒するレオルの予想を裏切り呂布は後ろに振り返り、蒼い馬に跨ると凄まじいスピードで走り去っていった。


「嘘だろ…あいつ逃げやがった!」


驚愕するレオルに関羽がため息をつく。


「あいつは最強の武人なのだが、なんというか、本能で生きていてな。我らの時代もああやって何度も逃げている。」


「良く分からねーやつなんだよ。俺ら武人の物差しじゃ測れねーんだ。良くも悪くも別種なんだよ。残念だったな、レオル。」


既に遠い点となった呂布を呆然と見るレオルを二人は励ます。


だが、レオルは後ろから感じるリーズの物凄い殺気に振り返れずにいた。



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