呂布という種

襲いかかった影が繰り出した一撃を、関羽が手に持つ青龍偃月刀で弾く。


弾いた時に見えた西洋でいうハルバードのような形をして、水平に二枚の刃がついたげきに関羽は見覚えがあった。


方天画戟ほうてんがげき…!お前もこちらに来ていたか!呂布奉先りょふほうせん!!」


蒼い馬に跨り、堂々とした体躯で並々ならぬ雰囲気を持つ呂布と呼ばれた男は無言で関羽を見つめた。


「チッ!呂布のクソ野郎まで来てんのかよ!相変わらず化け物みたいな雰囲気しやがって!」


張飛も叫びながら蛇矛を振り回す。


「ガハハハ!強そうな野郎だな!」


期待を隠せないレオルが嬉しそうに笑う。


「あんたと戦った時に言ったよな?俺ら義兄弟の攻撃を凌いだのは二人目だと!こいつが例のだよ!!」


叫びながら、関羽に合流し蛇矛を突く張飛。

関羽もレオルの時とは違い最初から本気で青龍偃月刀を振り回す。


その鋭い義兄弟の攻撃を方天画戟と呼ばれた武器で全て弾いていく。


「おいおい…俺らはお前が死んだ後も武人として戦場に何度も立ってたんだぜ。なのにまだまだお前のが強いって言うのかよ!!」


張飛が叫びながら、蛇矛を色々な角度から突き出すが呂布は紙一重で避けていく。


「らちがあかんな。張飛!スキルを使うぞ!」


関羽の言葉に張飛が呼応する。


偃月義龍えんげつぎりゅう】!!


虎張撃波こちょうげきは】!!


スキルを唱えた関羽の青龍偃月刀が光輝きその刃から龍のような斬撃を飛ばす。


同時に張飛の身体から力の塊のような虎が表れ人虎一体となり攻めたてる。


およそ、人の手では捌ききれない数の猛攻が呂布を襲った。


一騎当千いっきとうせん


呂布の低い声が響き渡ると、関羽と張飛の猛攻は全て弾き返された。


そこには人の姿を大きく離れたように、六本の腕にそれぞれ方天画戟を持つ呂布奉先が先程と変わらず馬上に立っていた。


「とうとう人間を辞めたか!その姿似合っているぞ!呂布よ!」


関羽の叫びに張飛も冷や汗をかきながら口を開く。


「間違いねぇな!それに一騎当千だと!確かにお前が代名詞みたいなもんだが、気に食わねぇな!!」


言葉を聞いているのか分からない無表情の呂布は二人に向かい歩を進めた。



呂布奉先りょふほうせんは最強であった。


物心ついた時には既に最強であり、武人に教えを請わずともげきを初めて触った時から扱い方が全て分かった。


自分以外の全ての人間は力が無く、自分とは別の種類だと認識していた。


育ての養父を裏切り殺した時も、その後の養父を殺した時も、牛馬を殺す時と同じで何の感情も湧かなかった。


自然にまわりに人間が集まり、上位種である自分を押し上げようとする。


弱い者どもを統治するなど、何の興味も湧かなかったがたまに表れる、虎牢関で戦った関羽と張飛の様な武人との戦いは心踊った。


好きな様に生き、好きなように戦場を駆け回っていたが、呂布は周りの下位種に裏切られ死んだ。


自分を殺した者も裏切った者も、最後まで堂々と戦う事無く、策を使い罠を使った。


この身を縛り上げた上でも、呂布奉先を恐れ震える下位種共への興味は、死ぬ間際までも湧かず、そのまま息絶える事になった。


だが、目が覚めると愛用の方天画戟ほうてんがげきと共にこの国に来ていた。


縛り上げようとしてくる下位種どもをなで斬りにし堂々と建物を出た時、そこには身体は小さいが同じ上位種の男が居た。


その男、チンギスはジパングという国を攻めると言う。そして軍を率い手伝えと言った。


その言葉を聞き、無言で頷いた呂布奉先はチンギスと共に戦う事を承諾する。


嗚呼ああ。全て分かった。俺は孤独だったのだ。

周りを見渡しても下位種しかいない。同じ種とは前の人生で一度も会えなかった。


俺が本当に欲していたのは同じ種だったのだ。


チンギス、我が友よ!


俺の武力を全て捧げよう!


共に天高く登るのだ!



内では雄弁に、最強の男 呂布奉先は誓った。



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