リーズの考え

南の関所はドワル達ドワーフのおかげで、まさに防衛門と言うべき建築物となった。

高さはゆうに15メートルはあり、峡谷を利用したそれは大軍勢が攻めて来てもすぐには落ちないだろう。


「陛下!完成したこの門に名前をつけてくれい!」


ドワルが誇らしげに命名をねだる。


「うーむ、張飛が虎牢関ころうかんのようだと言っておったし、新狼帝国を防ぐ意味合いもある。なれば音を合わせて南狼関なんろうかんでどうじゃ?」


「南狼関!いい名前だな!」


満足気なドワル、皆も賛成してくれた。


「流石は、我が主。そのセンスまでまさに王だ。」


リーズがいつものように大袈裟に褒め称える。今回ばかりはかなり恥ずかしくなり、アラタは咳払いをした。


「とにかく、わしはドワルとドワーフ達と共にこのまま北の関所に向かい同じように防壁をつくる。その後は猶予があればジパングじゃな。仮に新狼帝国がせめてきてもこの南狼関であればなかなか抜けぬじゃろう。」


「任せよ、我が主アラタ王。もしネズミ軍が攻めて来たら主の手を煩わす事無く葬り去ってくれる。」


リーズの頼もしい言葉にアラタは頷くと一時の別れを告げ北に向かった。


「では、皆の者。我が主アラタ王の名に恥じぬようにせねばならん。」


アラタを見送り、振り返ったリーズが鼻息荒く言う。


「名に恥じぬって言っても、その新狼帝国とやらが攻めてこないと何もする事ないぜ。」


嫌な予感がしたレオルが口を出すが、リーズはレオルを一喝する


「馬鹿者!我が主アラタ王を悩ませる種をそのままにすると言うのか?我が主は優しいゆえ、守りに徹せよと言ったが本当ははらわたが煮えくり返っているはず。」


「そんな風には見えねーけどなぁ。まあ、いいぜ。リーズ殿、じゃあどうする?」


レオルの問いにリーズはにやりと笑った。




左将軍、項羽は新狼帝国の兵士達の練兵をここ数日行っていた。


右将軍の呂布はほとんど練兵を行わず、馬上で腕を組んでいる。


行動は対極的な二人だが、どちらも個としての武力に信を置き内面は近いものがあった。


「項羽様。伝令でございます。」


伝令用の珍しい人間兵が魑魅魍魎の軍の中を通って来たのか顔を恐怖にこわばらせ告げる。


「チンギス様より、そのまま左右将軍でジパングを攻めよ。との事です。」


伝令を聞き項羽が呂布の方を見ると馬上で腕を組んだまま、進軍をはじめていた。


「チッ。連携も取らずに行かねばならんか。まあいい。俺一人で攻めると思えばたやすい。全軍!!進め!!」


いらいらしながら、独り言をつぶやき呂布と同じように進軍する。


大軍勢が一つの塊となり、動き出したその時。


遠くに馬の影が見えた。


その数匹の馬はどんどんとこちらに近付いてくる。


漆黒の鎧の男を先頭に、大男二人とそれに輪をかけた巨躯の獅子の戦士の姿が、さらに一番後ろに白装束の女が見えた。


「全軍!止まれ! !」


大地に轟く大声で軍を停止し、そのままの勢いで現れた一団に叫ぶ。


「何者だ?俺が項羽と知ってその歩みを邪魔するか!」


ビリビリと空気が揺れるほどの声を受けるが、平然とした装いで漆黒の鎧の男が静かに、だが良く通る声で口を開いた。


「くくく…覇王項羽か。俺もまた覇王と呼ばれた織田信長。様子を見に来てみれば面白い事になっているな。」


項羽の知識には無い織田信長という男の余裕がある態度を見て項羽はますます頭に血が上る。


「俺と同じ覇王を僭称するとは!!命が要らんと見える!」


項羽の怒声が響くと、一番後ろに居た白装束の女がその小さな体型からは想像もつかないような大声で応えた。


「命が要らんのかとはこちらの言葉だ!!ネズミに付き従う虫め!!我が主アラタ王がいるジパングへ兵を進めるなど、万死に値する!!」


余りの迫力に新狼帝国の物の怪の兵士が怯えだす。

山抜気勢さんばつきせい


項羽は自分が持つスキルを使った。

山抜気勢は自分の能力を数段あげるものだが、その真価は兵を率いた時に表れる。

自分が率いた兵士を項羽の能力に近付ける、まさに中華を統一しかけた覇王にふさわしいスキルであり、個人の武力も凄まじい項羽の能力を全軍に分け与える。侵略される国は為す術が無い程のスキルなのだ。


ーー本来ならば。


スキルにより、恐怖から解放されそのまま進もうとした魑魅魍魎の頭上に大きな火縄銃が何百丁も出現する。


雷のような爆音を鳴らし、その銃は魑魅魍魎達に穴をあけていく。


項羽の力を分け与えられていた新狼兵と言えども致命傷や手足が吹き飛ぶ程のダメージを受け、その場で倒れていく。


「くくく…。中華の覇王よ。どうした?まだまだこの日ノ本の覇王を楽しませよ。」


織田信長と名乗った男が笑いながら進んでくる。


「この覇王項羽を舐めるな!!」


怒りのまま、項羽は手に持つ戦斧を高く掲げ飛び出そうとした。


その刹那、ジパングの一団に大きな影が横から踊りかかった。


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