力試し

「はじめまして、関羽雲長かんううんちょう殿と張飛益徳ちょうひえきとく殿。わしが先程このジパングの王となったアラタじゃ。」


関羽…三国志の英雄。蜀という国の王である、劉備玄徳りゅうびげんとくに張飛と共に付き従い、義兄弟となった礼節正しい武人。

あまり歴史に詳しくない人間でも名前は聞いた事があるだろう。

それに張飛。万人の敵と言われた一騎当千の武人。その武勇は関羽をして自分以上だといわれたと聞いている。


道すがら二人の情報を思い出していたアラタは対面した大男二人を見る。


褐色の肌に長い髭。青龍が彫られた偃月刀えんげつとうを持つ、こやつが関羽か。

そして曲がりくねった蛇矛じゃほこを持つ山嵐のような髭の張飛。

二人とも想像通りの人物じゃな。


「ジパングの王、アラタ殿。俺は関羽雲長。いつの間にかこの世界に来た我らは、新狼帝国のチンギスへの恭順を拒否して、アラタ殿に謁見を願った。良ければ食客として招いて頂きたい。」


関羽が腕を前に突き出し拳を手のひらに当て礼を示しながら言う。

その願いながらも堂々とした態度は流石、関羽と思わせる姿だった。


「ふむ。名高い関羽殿と張飛殿を食客に出来るならこれ程名誉な事はなー」


アラタが受け入れ返事をしようとした時に張飛が横から口を挟む。


「王というからどんな野郎かと思ったら子供じゃねーか。兄者、本気でこのガキの食客になるつもりか?まだそっちの兄ちゃんのが納得できるぜ。」


張飛があごで織田信長を指し示すと、信長はくくくと笑う。


「我が主、アラタよ。何だこの失礼なホフゴブリンは。命が惜しくないと見える。」


「あん?ホフゴブリンとは何の事か分からねーが、次は可愛いお嬢ちゃんかよ。」


殺気を飛ばすリーズを鼻で笑い、張飛は挑発的に続けた。


「やめんか、飛。王に向かって失礼を働くな。」


「いや、雲長兄。俺らの王は玄徳兄ただ一人のはずだ。それにこいつらがチンギスに勝てるとは思えねぇ。時間の無駄だぜ。」


張飛は今にも食い殺しそうな眼差しでアラタ達を見据え言ってのける。


「困ったのう。チンギスとはそのうち戦う運命ではあるから、お主らと目的は一致してるはずじゃが。どうしたら納得するのじゃ?」


アラタの答えに、張飛はにやりと笑い蛇矛をぶん と振り下ろした。


「簡単な事よ。俺ら兄弟に力を見せてくれりゃあいい。王というからには誰か強い部下の一人でもいるだろ。あんたに戦えとは言わねーから用意してくれよ。」


「この失礼なホフゴブリンめ!我が主アラタよ!我に任せよ!灰にしてくれる!!」


いきり立つリーズをアラタは制止する。


「よせよせ、またこの辺りを溶岩地帯にするつもりか。わしがやる。」


「あ?ガキ相手でも手加減出来ねーぞ。王なんだから殺されたく無かったらひっこんでろ。誰か止めてやれよ。」


張飛が促しても誰も止めない。それ所か弛緩した空気が流れてる事に張飛は狼狽する。


「ではやるかの。かかって来い。張飛益徳。」


踏ん切りがつかない張飛に向かってアラタは手招きをした。


「後悔すんじゃねぇぞ!ガキ!」


言うなり張飛は手に持つ蛇矛をくるりと回転させアラタの胸目掛けて突いた。


脅しと分かる速度で繰り出された蛇矛の石突をアラタはひょいと避け、張飛へと近づき胸に手を置く。


本気では無い突きとはいえ、目の前の子供が張飛の突きを避け、あろうことか自分に触れてきた事に張飛は目を開く。


「どうする?止めにするかの?本気で来る気もないようじゃしな。」


飄々ひょうひょうと呟くアラタに張飛の顔がみるみる怒りで赤くなる。


「死んでも恨むんじゃねーぞ!ガキ!」


まるで童話の赤鬼のような張飛が先程とは速度が数段違う、本気の突きを放つ。


目にも止まらぬ速さで繰り出された蛇矛の石突をアラタは人差し指で止めた。


驚く関羽と張飛を横目に液体のようにするりと蛇矛を掻い潜り張飛の腹にアラタの拳が突き刺さる。


肉を柔らかくする為に叩く金槌のような音が鳴り、張飛は膝から崩れ落ちた。


「人を見かけで判断しちゃいかん。じゃが、お主も怒ってても矛の方じゃない石突で突くなど、本当は優しい男と分かって良かったぞ。どうじゃ?力は納得できたかの?」


呻く張飛にしゃがんで優しく語りかけるアラタ。

返事もままならない張飛を見ながら関羽が口を挟む。


「アラタ殿の力充分に分かった。我が愚弟の失礼な態度、謝罪する。だがチンギスと戦うなら王が強くても周りの兵は如何程か。愚弟のように喧嘩腰に挑む予定では無かったが、ついでに俺の相手も誰か願いたい。」


今にも飛び出しそうなリーズを再び手で制し、アラタが答える。


「ふむ、どうやら関羽殿も最初から試すつもりじゃったようだな。良かろう。丁度こちらに呼ぼうと思ってた戦士がおる。相手を頼もうかの。」


異界顕現いかいけんげん


言いながら唱えたスキルにより眩い光の中から、獅子頭の戦士レオルが現れた。


「陛下、呼ばれるのを待ってたぜ!向こうの役職は一族に任せたからーって、何だこの状況?」


怒り心頭のリーズ、青龍偃月刀を構える関羽、うずくまる張飛、笑みを浮かべる信長と紫を見て、ぽかんとした表情に変わったレオルにアラタは経緯を説明した。


「なるほどな。そういう事なら任せてくれよ。リーズ殿に任せるとここら一帯壊滅しちまうからな。ガハハハ!」


全てを把握し、関羽に向き直るレオル。


「異国の武人よ、俺の名はレオル。アラタ陛下の剣と自負している!」


「レオル殿、俺は関羽雲長!いざ参る!」


堂々としたレオルの名乗りに関羽も返し、手に持つ青龍偃月刀を袈裟斬りに放つ。


レオルは手に持つ剣でその偃月刀を受けた。


金属と金属がこすれ合う甲高い音がなりひびき、さらに関羽が凄まじい速さで偃月刀を振り回す。


その全てを剣で受け切り、レオルは口を開いた。


「チンギスってやつの軍勢と渡り合えるかの力試しなんだろ?そこの武人も参加しろよ。俺のスキルじゃ力の調節が難しいから、攻撃じゃなくて防御で判断してくれよ。」


その言葉を聞き、いつの間にか復活していた張飛が戦いに参加した。


豪快に振り回される青龍偃月刀の間を蛇矛がするどく突く。


今まで何度も同時に戦って来たのが見て取れる、阿吽の呼吸で繰り広げられる兄弟の攻撃。


その全てをレオルは剣で捌き、叩き落とす。


「なるほど…凄まじい武力。我ら兄弟が力を合わせても攻撃が通らぬとは、呂布りょふ以来。」


偃月刀を振り回しながら話す関羽に張飛が相槌を打つ。


「いや、雲長兄。あの時より俺たちは数段武力が上がってるはずだ。こいつはあの男以上だぜ。」


納得したのか、二人は攻撃をやめ止まった。


「なるほど、得心しました。我ら義兄弟、食客として如何様にもお使いください。」


関羽の言葉を聞き、レオルも剣を収めガハハと笑う。


「だが、関羽殿と張飛殿だったか?お主らもスキルを使わずに、武技だけだからな。本気で殺し合いしたら全然違う結果になるだろう。」


意気投合したのか三人の武人は笑い合う。


「それと…あそこにいるリーズ殿は俺より全然化け物だからな。正体は龍で、怒らせると喰われるぞ。」


目を白黒させた二人に小さい声でレオルが囁くが、地獄耳のリーズは聞こえたのか憤慨した。


「誰がそんな不味そうな奴らを喰うか!!」




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