三章

王へ

「さあ、我が主アラタよ。いつ民に宣言するのだ。城なども作らねばならん。」


銀に近い純白の髪をたなびかせ、同じく白いドレスを着たリーズは役所の中でアラタに問いかける。


あのロキとの戦いで、アラタが攻めてくる者がいるならば帝王として守る と放った独り言をリーズがみみざとく聴いていたらしい。


被害があった場所を修復したり、上村祐介アレキサンダーを埋葬したり、ばたばたとした戦後処理をほとんど終わらせ、皆で役所に集まった際、待ってましたとばかりにリーズが迫ってきたのだ。


「困ったのう、あれは気持ちの表れみたいなもので、本当に王や帝王になるつもりは無かったんじゃが。」


「何を言う!やはり帝王は我が主のみなのだから、全ての民の幸せの為にもアラタが上に立つ義務がある!」


意見を引くつもりが無いリーズが、鼻息あらく意見を述べる。


「だが、このジパングは既に信長殿と半兵衛殿がいる。まさに英雄とも言うべき二人に任せた方が、良いじゃろ。」


あの戦いの後、残った兵をまとめジパングに一緒に帰って来た信長を、ちらりと見て助けを求める。


「ククク。俺は一度終わった天下布武など興味は無い。お前が王になるのならそれもまた一興。」


確かに、日本史でも信長は最初は室町幕府の将軍を庇護しようとしていた。勿論その上の帝も。本来は王や帝に興味無く、ただ自分の力を試したい性質なのかもしれん。

アラタは信長からの助け舟を諦め半兵衛を見る。


「信長様は私の主人の主人。その方がそう仰るのであれば異論などありません。」


やはり期待していた答えと違い、ため息をつく。


「我が主は義経様ですので臣下にはなれませぬが、拙僧も国民として身を挺して働きます。」


弁慶も続き、一連の流れを聞いていた巴が口を開いた。


「誰かが、為政者としてジパングを引っ張らないといけないんだし、敵は神々なんだよね?アラタしか無理じゃない?諦めなよ。ねー?ベルガ。」


「うむ、巴が言う通り妾も勇者アラタしかおらんと思うぞ。自分のデタラメな強さのせいだからな!潔く王になるのだ!」


いつの間にか仲良くなってる二人からも突き放され、アラタは肩を落としながら諦める。


「分かったわい。わしが頑張るしかないようじゃな。やれやれ、100はとうに超えたじじいがまた王とは…」


アラタの発言に周りがうんうんと頷く。

それを見たリーズが嬉しそうに口を開く。


「よし!決まったな!では我が主アラタの帝王就任の宣下の準備をしないといけないな。巴よ、王の秘書である我に出来る事があれば言うがいい。」


「ジパングのみの為政者じゃから、正確には王じゃな。…と言うか、リーズよ。いつの間に秘書に就任したのじゃ。お主は向こうの世界は良いのか?」


しれっと秘書という役職を名乗ったリーズにアラタは質問を投げかけた。


「うむ、我が主アラタよ。龍族は基本的に自由で、知っての通り龍王と言っても何かあった際のまとめ役みたいなものだ。主のスキルが進化したおかげで魔力の問題も解決した。だから我はずっとこの世界に居る事にした。」


ニコニコと話すリーズに、進化したスキルの説明をした事をアラタは後悔した。


「それとレオルも獣王を配下に譲り、準備が出来しだいこちらに来ると言っていたぞ。……魔族の小娘もな。」


「なんと!妾の可愛いベルゼも来るのか!こうしてはおれん、魔力を扱う訓練をしなければ!」


リーズの話しに反応したベルガが役所から飛び出して行った。


「何にせよ、やると決めたからには今までのように何もしらないままじゃ不味いのう。この世界は地図などはあるのか?」


「簡易的ですが、ジパングを中心とした物はこちらにあります。」


半兵衛が役所の机に、地図を広げる。


「ふむ、ジパングの南に華国、今は新狼帝国じゃな。それで北のこの国からアレキサンダーが来たのじゃな。名前はガリアか。知らなかったのう。」


「アレキサンダー大王が現れてからはもしかしたら名前が変わったかも知れませんが、以前はそう呼んでおりました。さらに西に聖オルドという国があります。こちらの国とは国交が無い為詳しくは分かりません。」


「名前からして、宗教国家かの?敵か味方か分からんが、ロキとは別の神がいるんじゃろうのう。」


アラタの答えに半兵衛は頷き、続ける。


「今回の戦で、神々が存在するという事が分かりました。各国と国交を開くにしろ、争うにしろ、後ろに神が控えている事を考えながら動かねばなりません。ですが、今一番懸念されるのは…」


「新狼帝国か。あそこにいる神がどんなものかも気になるが、何よりチンギスじゃな。どう考えても戦う未来しか見えん。」


アラタと半兵衛の話しに巴が重々しく頷く。


三人とはうらはらに軽い調子でリーズが口を挟んだ。


「チンギス…ああ、あの帝王を僭称したネズミの国か。身の程知らずにまた来たら今度こそ本体を燃やし尽くしたらいいだろう。」


「そうじゃな。リーズのおかげで懲りてるかも知れんし、わざわざこちらから仕掛ける事も無い。南の関所の守備を厚くして様子を見るとしよう。」


アラタの発言に信長が反応する。


「ククク…それなら俺が行くとしよう。かのチンギス・ハーンがどれ程のものか可能なら味わいたいものよ。」


「信長殿、そうしてくれると助かるのう。守備をしている紫殿にはこちらに通信するすべを授けている。何かあれば連絡頂けたら直ぐに向かうからのう。」


信長は頷き、役所から出ていった。


「さて、我が主アラタよ。とりあえずの方針は決まった。次はアラタ王の戴冠式の話しだ。」


わくわくとしながら、リーズが次の話題に移った。





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