幕間 蒼き狼の王②
「それで、あとどれぐらいかかる?」
後ろから声を掛けられ、小さな悲鳴をあげた張角は答える。
「も、もう少しです!」
圧倒的な力の差を見せつけられ、張角は言われた通りの案内役をかってでた。
それにしても、神か。
蚩尤の情報を思い出しながら、チンギスは期待に胸を膨らませる。
神の力を利用し、己のものにする事が出来れば、あの二人を殺す事が出来るはず。
「着きました、あの建物です。中に蚩尤様がいるはずです。」
張角の声に顔をあげると、大きな建物が見える。英雄が送られてくる場所を巨大にしたような建造物は厳かに佇んでいた。
「止まれ。」
ふいに声をかけられ、声がした方向を見ると崖上に大きな男が立っていた。
「張角。そいつはあのチンギスだな?何故ここに連れてきた?」
「
張角が呼んだ項羽という男をじっとみる。
見るからに常人を超えた体躯、鷲のような鋭い目付き、なるほどこれが前の世界で語り継がれる英雄。漢帝国を作った皇帝と最後まで争ったという覇王、項羽という男か。
得心がいったチンギスは項羽に呼びかけた。
「項羽よ、邪魔をするな。儂は力あるものを好む。道を開き、頭を垂れればハーンとしてやる。」
「フハハ!神に挑むというか!面白い!だが、この項羽はお前如きの下にはつかぬわ!」
呼びかけに面白そうに笑う項羽が崖から飛びおりながら、手に持つ戦斧を振りかざす。
見るからに重量がありそうな戦斧を片手で羽のように扱い、その膂力が常人離れしている事を物語る。
【
チンギスは何とかという名の仙人を名乗る英雄から奪った、身体を縛り付けるスキルを唱える。
途端に見えない鎖が項羽を縛り付け、動きを止めようとした。
【
だが、項羽もスキルを使用し、その見えない鎖を引きちぎり前身する。
「こんな小手先のスキルは俺には効かん。俺の力は山を抜き、俺の気は世を覆う!!武器を持ち戦え!」
見るからに、膂力が数段上がった項羽を見てチンギスは楽しそうに嗤った。
「いいだろう。儂の力の一旦を見せてやろう。」
呟くチンギスを気にかけず、項羽は戦斧を振り下ろした。
チンギスはその戦斧を軽々と右手で受け止め喰い、消失させる。余った左手に蒼い刀を出現させ項羽の身体を削り斬った。
身体の大部分を削られた項羽は前のめりに倒れる。
「ただの武器による攻撃なぞ、儂には効かん。そしてこの刀は全てを喰らう儂のスキルで創り出したものよ。安心せよ。殺しはせん。お前もいつかは神に挑むつもりだったのだろう。ちょうど儂の軍を率いる将が必要と考えていた。そこで見ておれ、終わったら直してやる。」
倒れた項羽に告げ、震える張角に向き直り狼のように嗤う。
「さあ、案内せよ。神を喰いにいくぞ。」
…
…
…
神殿のような建物の奥にある玉座に巨大な何かが座っている。
牛の頭に人間の身体、腕が五本ありそれぞれ違う武器を持ったそれは重重しく口を開いた。
「小さきものよ、ここは神々が争う世界である。無駄な事はせずに向き直り、この蚩尤の尖兵として戦え。」
項羽との戦いをどこからか見ていたであろう蚩尤は、今しがた起こった事を歯牙にもかけず、語りかけた。
「なるほどお前が戦いの神、蚩尤か。儂は大ハーン・チンギス。全てを喰らう蒼き狼の王よ。」
蚩尤はチンギスの名乗りに興味無さそうに、1つの手で持っていた鈴のような物を鳴らした。
途端に蚩尤の周りの地面から物の怪が湧き上がり、
「小さき者よ。もう一度だけ言う。向き直り尖兵として戦え。」
人ならざる軍勢、圧倒的な力を持った神の宣告を聞き、チンギスはにやりと狼のように
「軍勢を呼ぶ能力まで持つか。丁度いいな。平伏し全てを献上せよ。」
チンギスの言葉に後ろに隠れている張角はもとより目の前の蚩尤までもが目を開く。
「狂人の類いか。もうよい。行け。」
蚩尤の合図と共に魑魅魍魎が襲いかかる。
【
チンギスのスキルにより、蒼き狼の軍勢が出現し魑魅魍魎とぶつかる。
接触した瞬間、蒼狼達はアメーバ状になり人ならざる軍勢を溶かし、喰いはじめた。
「前菜としては充分だな。」
蚩尤が出現させた軍勢を喰いながら、チンギスが嗤う。
その光景を目の当たりにし、蚩尤は巨大な身体をのそりと玉座から起き上がらせた。
「面白い。本気でこの蚩尤と戦うつもりのようだな。小さき者よ。神に楯突いた愚かさを後悔しながら死ぬがよい。」
立ち上がった巨大な神を見て、チンギスは舌なめずりをした。
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