幕間 蒼き狼の王
クチャクチャ
移動式テントの天幕の中で咀嚼音が鳴り響く。
新狼帝国の帝王、チンギス・ハーンは自分のスキル【
時には丸呑みにし、時にはそのまま齧り付く。
「足りぬ…まだ足りぬぞ。」
たまに一団でこの世界に現れ、兵士の捕縛を振り切り逃げ出す者も居たが、幾度となく現れた英雄を捕縛し全て喰ってきた。
最初に喰った
その後に来た英雄からは相手を縛る念動力を。
次々と現れる英雄を捕食し、既に50を越えるスキルを手に入れた。
だが、狼の王は満足しない。
いや、いくら喰ってもあの二人に勝てる気がしないのだ。
あの日見た、光り輝く白き龍とその主。
神の如き力で儂の分体を屠った。
あれに勝つ為にはまだまだ力が足りぬ。
もっと強い力を…やつらに匹敵する力を手に入れなければ…
暗き道を行くように、先が見えない食事をチンギスはただただ繰り返していた。
そんなある日、天幕の周りがざわつき兵士が飛び込んでくる。
また捕縛を振り切り、逃げ出した英雄がいたのかと思ったがどうやら様子が違う。
「大ハーン!敵襲です!!」
慌てて報告する兵士にチンギスの身体がびくりと跳ね上がる。
まさか…、あの二人が攻めて来たのか?
身体中から脂汗が流れるが、動揺を隠しながら兵士に尋ねる。
「誰が来た?兵士の数は?」
「平原に10万の兵!!敵の将は以前捕縛を振り切り逃亡した英雄。『
あの少年と龍の女の2人組では無い事に胸を撫で下ろし、チンギスはさらに問う。
「張角…前の世界で
「それが…敵将が言うには神の使いだと…。」
あまりに突飛な話しに言いにくそうに兵士がおずおずと報告する。
「よい、続けよ。それで?その神とやらとその使いは何用だ?」
「ハッ!張角曰く、この世界は神々の国でその尖兵として共に他の国と戦わねばならない。と言っております。」
普通なら到底理解出来ない話しだが、チンギスは納得した。この世界に来た理由やスキルという物を手に入れた理由が全て理解できた。
「くくく、神だと…?分かった。会おうではないか。対話を望んでいるならば儂自らが行こう。」
チンギスは嗤う。自分の不安を消してくれる機会が向こうからやって来た事に。
…
…
…
平原に展開する張角と10万の軍の対面に、チンギスは立つ。
何処から10万の兵士を集めたのかと思ったが、そのほとんどが物の怪のたぐいであった。
馬に乗り、張角軍と新狼帝国軍のちょうど中心へと歩を進める。
劉邦軍からも1人の男が馬に乗り中心へやってくる。
向かい合うようにお互いが立ち、相手を認識する。
「我が名は張角。我が神のご命令によりこの地に参った。同胞喰いのチンギスよ。悪戯に貴重な神の兵士を喰ったお前を、神は許すと言っている。頭を垂れ、末席に加わるのだ。」
「くくく…良くぞ参った。張角よ。それで?その神の名は?何処にいる?」
尊大な態度を崩さないチンギスに、眉を
「我が神の名は『
「蚩尤…確か、牛の蹄を持つ人身の戦闘の神だったな。北の山脈に居る…と。それで?この後は如何にする?」
チンギスが神の名を聞いても怯えず、むしろ笑ったかのように見えたが、今後の行動を聞くからには逆らう気はなさそうだ。
そう思った張角は答える。
「そのまま、ジパングに向けて進軍せよ。との事だ。神に罪を許された事に感謝し、粛々と指示に従え。私から蚩尤様には報告しておく。」
その発言を聞いたチンギスは顔を歪ませ、狼の様に
「この場に来ておらんのは残念だが、儂が会いに行くとしよう。張角、お前はその神の元へ案内せよ。褒美としてお前を喰うのは最後にしてやる。」
チンギスの発言が理解出来ず、一瞬の間が出来る。ようやく言葉の意味を理解した張角が顔を真っ赤に激怒し、叫ぶ。
「なんと!神の右手である私を案内役としようとは!この神の軍勢が見えないのか!」
ゆっくりと張角の後ろにいる怪物達を見回すと、チンギスは右手をあげた。
「喰え、【
チンギスのスキル使用と共に巨大な蒼い狼の顔が浮かぶ。さらに小型の蒼狼があらわれ神の軍勢に襲いかかる。
悲鳴をあげ次々に食われる怪物の軍勢。抵抗する者も見受けられるが、切っても叩いても死なない蒼い狼の前では為す術なく蹂躙されていく。
張角は何も出来ず、口を開けてその光景を見続ける事しか出来なかった。
※当作品を読んでいただき誠にありがとうございます。
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