幕間 ベルガの記憶2
「母上をいじめるな!!」
開いた玉座の裏の扉から駆け出してきた、手を広げる小さな魔族に勇者アラタが戸惑う。
ベルガはその子の手を引き抱き寄せ、優しく撫でた。
「これこれ。出てくるなと言っただろう。だが、もう話しは終わった。これからどうなるかは分からんがひとまず一安心だ。」
慈しみ合う母子の姿にアラタは驚く。
「人の心を理解出来ない魔物とは…何だったんだ…。」
肩を落とす勇者を見て、魔王ベルガは可笑しそうに笑う。
「ワッハッハ!!妾も人の事をそう思っていた時期もあったぞ。魔族も心はある。なんなら愛もある。このベルゼは養子だが、勇者と妾で愛を育んでお前の子を産んでもいいぞ。」
「くっ!何をいうこの淫乱魔王!我が主、やはりこいつはここで討伐しよう!」
顔を真っ赤にするリーズを無視して、ベルガは続ける。
「冗談はさておき勇者よ、人族の王と会談を繋いでくれるか?」
「ああ…!!分かっー」
「いけませんねえ!!勇者ともあろう者が、魔族と通ずるとは!!」
頷きかけた勇者の言葉を遮るように、声が響く。
魔王の間のドアが開き、太った人族の兵士長と兵士が10人程何かを構えている。
それが何なのか前世の経験がある魔王ベルガは気付き、養子のベルゼを庇う。
けたたましい音が鳴り響き、構えた道具、『銃』から弾が発射された。
「くくく、これは王国が作った最新式の武器でして…一つ一つの弾という物に魔力封印の魔法陣が書かれています。魔王に勝っても負けても全員殺すように命じられてますので。まさか勇者様が魔王と通ずるとは思っていませんでしたがね。好都合です。」
魔王ベルガは抱きしめたベルゼの無事を確認し、自分の体内で弾が止まってくれた事に安堵する。
魔力封じの銃とは魔法防御をすり抜けるまで知らなかったが、何か嫌な予感はした。
前世の記憶で銃という物を知っていたからどうにか対応できた。だが勇者や龍王は何も出来ず倒れてしまっただろう。
血を吐き、未だに魔族の子供を庇う魔王を兵士長はにやにやと見る
「しぶといですねー。本来なら魔王は私が貰い受けて玩具にしたかったのですが、相打ちと見せかけよ。とのご命令ですので。」
言うなり銃を構えなおす兵士達。
引鉄に指をかける
【剣豪】
その引鉄を引く事は無く兵士全員の腕が落ちた。
「な、なななんで動ける!!」
目の前に立つ勇者アラタとリーズに目を見開く
「馬鹿が。我が主アラタも、この我も魔族と違い魔力のみで強い訳ではない。お前らからしたら超常の力を持つ我らは魔力のおかげと思ったかも知れんがな。」
「まさか、魔王ベルガが言うように王様が僕を騙してたなんてね。」
口をぱくぱくと動かす兵士達は次の瞬間、アラタのスキルにより首を跳ねられる。
刀を鞘に納めたアラタは急いでベルガの元に駆け寄った。
身体中に穴が開き、その穴からどくどくと血を流す魔王ベルガは力無く笑った。
「勇者よ、妾はここまでのようだ。後はお主に全て託す。お主が妾を倒した事にして、どうにかベルゼや他の魔族が、人を傷つけずに生きていけるようにしてくれんか…?そしてああいう奴らは人族にも、もちろん魔族にもいる。どうか今の怒りを人族全体にぶつける事が無いように願う…。妾と同じ間違いはせず人族魔族で解決策を模索して欲しい…。」
今しがた、撃たれたばかりの魔族の王。それでも全てを憂いた願いに勇者アラタは頷く。
「必ず…、必ずみんなが仲良く生きていけるようにするから…!勇者として約束するよ…!」
「本当に頭が良い、勇者だな…。龍王が惚れ込むのも分かる…どれ…いつか…生まれ変わったら…妾を抱かせて…やる………。」
最後まで笑顔で冗談を言う魔王ベルガは、愛娘ベルゼの泣き叫ぶ声の中、静かに息を引き取った。
…
…
…
…
「いやー思い出すと懐かしい!」
「本当に?ちょっと美化しすぎじゃない?」
茶化す巴にぷんぷんとベルガは腹を立てる。
「何を言うか!全て本当だ!妾はそれは良い女だったからな!ワッハッハ!」
腰に手をあて仁王立ちで笑うベルガをみて巴も笑う。
「それより、アラタもリーズも大丈夫かな?私もそろそろ行かなきゃだ。」
昔を思い出し、最初の不安が吹き飛んだベルガが巴に告げる。
「勇者アラタと龍王リーズがいるなら大丈夫だ!あいつらは妾とのとてつもなく難しい約束も守ってみせたからな!!」
赤髪で金眼の人間の少女は、元気に暮らしているであろう愛娘や魔族の民に想いを馳せ、アラタの勝利を確信していた。
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