第42話 帝王の決意
「全軍、止まれい。」
天に響く声が聞こえると、帝国の兵士達はぴたりと停止する。
退き下がり、整然と並ぶ。
一挙手一投足同じような、訓練された動きは見るものに美しさをも感じさせる。
ヴァルハラの神、ロキの周りには怪物兵は1人もいなくなっていた。
救世帝が玉座から立つと、大軍勢の真ん中が割れた。
玉座からつかつかと救世帝が降りてくる。
割れた中心に向かい、全ての兵は向き直り
偉大なる救世帝を迎える準備をする。
いつの間にか赤い絨毯が転がるようにロキの目の前までひかれる。
ロキはへたりこみながら、ぼうっとその先を見ていた。
遠く絨毯の先に、この
腰に、魔剣レーヴァティンを差し、巨大な黒い狼の毛皮をマントにしている。
その黒い狼はいつか見た、この
とてつもない存在で拵えたマントを
座り込むロキは恐怖と悔しさで拳を握る。
握りすぎた手から赤黒い血が滴り、ぶるぶると震える。
「あんなモノ、認めれない…」
ボソリとロキが呟く。
徐々に自分に死が近づいてきている気がする。
「何かの間違いだ。そうだよ、神を超えているじゃないか…」
近づく足音が止まり、その存在が自分の目の前に立っている気配を感じる。
「間違いだ、間違いだ、間違いだ!!!」
うわ言のように繰り返し、下を見たまま叫ぶ。
「認めるかァァー!!!」
ロキの右腕が膨れ上がり、巨大になる。
天高く振り上げた、その手を目の前の存在に力任せに振り降ろした。
「それが、お前の本当の姿じゃな。その性根と同じで醜いのう。」
その声で、顔をあげたロキは目の前の超常の存在をまともに見る。
アラタと呼ばれた幼い少年の、面影を残した黒髪の青年。魔力が
その時、既に振り降ろしたはずの自分の腕が消失してる事に気付く。
どくどくと、血がながれ激痛が襲ってくる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「な、何をした!僕の右腕を何処にやった!!」
アラタは表情を変えずに当たり前のように告げた。
「何って。斬り落としたんじゃよ。」
「き!きさま!この…神の腕をよくも!!来い!グングニル!」
ロキは左腕も巨大化させ、その手に神槍グングニルを呼ぶ。
何も無い虚空から、グングニルが現れた。瞬間、持ち主に合わせるように巨大な槍となる。
「いくらお前でも…!このグングニルは避けれない!!」
祈るように握りしめ振りかざす。
「貫け!!グングニル!!!」
至近距離から放たれた神槍は、凄まじい魔力と速度を持ってアラタに迫った。
「吠えよ。魔剣レーヴァティン。」
アラタの呟きと共に、レーヴァティンの表面のルーン文字が深い
ヴォォォォォォ!!
魔剣が吠えてる様な風切り音を立て、グングニルを穂先から石突まで間二つに斬り裂く。
がらん、と音を立てて地面に落ちた神槍。
「馬鹿な!この槍は主神オーディンの神器だぞ!!僕が作った剣である魔剣レーヴァティンなど比べ物にならないはずだ!!」
「それは、オーディンが持つからじゃろ。お主のような者が持とうと、その神槍の力を引き出せる訳が無い。逆にこの魔剣レーヴァティンの本来の力がこれじゃよ。」
叫ぶロキにアラタはさも当然と答える。
「さて、抵抗は終わりか?」
「まだだ!!この左腕に全ての魔力を込めー」
ぼとり。何かをしようとした巨大化した左腕はロキが何かを言う前に落ちた。
「まだ何かあるかのう?」
アラタの圧倒的な力を前に、ロキは何か手は無いかと
両手を失い黙って座り込む、ロキを見てアラタが告げる。
「何も無いようじゃな。」
「では、お主がやった全ての事を悔やみながら逝けい。」
その言葉にロキは顔をあげ、叫ぶ。
「待て!待つんだ!僕は巨神族の末裔!本当なら君たち人間と敵対するものじゃない!!」
「ふむ、それで?」
「本来の敵は、オーディンや他の神と呼ばれる者なんだよ!!だから…そう!これからは力を合わせて戦おうじゃないか!いくら君たちが強くても彼らには敵わないよ!!」
ロキの手前勝手な意見を聞き、アラタは大きなため息を吐く。
「要らん。」
「え?」
「お主の力なぞ要らん。もう黙れ。耳障りじゃ。」
言い捨てたアラタは大声で続ける。
「よいか!皆の者!帝王に仇なす者は帝王自らが処断する!良く見ておけい!!」
帝王の声に呼応するように兵士が足を踏み鳴らし、まるで大合唱のような規則的な音を立てる。
それを聴きながらゆっくりと、魔剣レーヴァティンを高く掲げる
「待て!待て待て待て!」
「待たぬ!人を玩具の様に扱い、争いを楽しんだ罪に対する罰をしかと噛み締めて逝けい!!」
「待っー」
赫く発光した魔剣レーヴァティンが振り下ろされ
ごとり、とロキの首が落ちる。
アラタは物言わぬ首を見つめ叫ぶ。
「もし、オーディンなどという神が攻めてくるのであれば…わしが!帝王として!全ての民を守る!!」
アラタはこの
目線の先では、そこにあったはずのグングニルの槍が消えていた。
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