第41話 顕現される世界

ロキの合図に呼応するかのように、


山羊の巨人が


鎧の巨人が


全ての巨人兵、全ての魔物が


アラタ達三人に襲いかかる。


構えた三人が、死を覚悟して迎撃しようとした、

その時ー


大王神罰だいおうしんばつ


どこからか声が響く。


驚くアラタが声の方を見ると


血を吹き出しながら立つ上村裕介アレキサンダーが居た。


「アラタ…!この魔力を…!魔力を受け取ってくれ!!」


自分の身を顧みず力を模倣した上村裕介は全ての魔力をアラタに渡すと、膝から崩れ落ちた。


「こ…この死に損ないがぁ!!」


ロキの叫び声に、もう目も見えない上村裕介が呟いた。


「へへ…ざまあ…みろ…。一矢…報いたぞ…」


アラタはその姿に、大声で応える。


「お主が…お主こそが勇者じゃ!!お主からもらったこの魔力で…必ずこの神を撃つ!」


身体の内に発生した充分な魔力。反撃の一手を確信しながら叫ぶ。


「上位…!進化…!!」


目も開けられない眩い光が全てを包みこむー


時が止まった光の世界で、アラタは立っていた。

初めてスキルを使った時のように、頭の中に声が鳴り響く。


ー上位進化に必要な魔力を確認しました。【異界召喚いかいしょうかん】は【異界顕現いかいけんげん】へと進化します。


効果対象である『異界で出会った全ての人』から『』へ変更します。

顕現の為、発現に制限が無くなります。


説明を聞き、アラタは叫ぶ


「あのロキを倒せるなら何でもよい!!わしに力を!リーズとベルゼに力を!!」



異界顕現いかいけんげん!!】


「な、なんだ!!何が起きた!」


ロキは驚愕する。眩い光と共に目の前の勇者達が消えたと思ったら、眼前に大軍勢が広がっていた。


全てが魔力を帯びた刀を持ち、同じく魔力を纏った全身鎧を着込んだ人間兵。

凄まじい魔力を持ったエルフ。

狼や虎、獣の顔を持つ巨躯の獣人重兵。

羊の様な角を持ち蝙蝠の羽を持つ悪魔のような見た目の兵士。

そして巨大な龍の群れ。

その他も様々な種族が整然と整列し、龍は空を飛び、ロキ達を威圧する。ロキが率いる怪物兵は怯え、動けない。


何よりこの周辺に漂う魔力が数十倍になっていた。


大軍勢の奥に、天まで届くかのような玉座があり、そこに先程までいた勇者らしき男が座っていた。

アラタは全てを理解した。【異界顕現いかいけんげん】とは自分が過ごした異世界を切り取り顕現させる。

さらに全盛期の身体や魔力など自分が経験した全てをも再現する事が出来る。


「我が主アラタ…これは…?」


「陛下…!私達はどうなったのでしょう?」


自分の魔力が全て回復する所か、魔力の薄いヴァルハラでは有り得無い、本来の力に戻っている事に二人は混乱している。


「スキルの進化が出来たんじゃよ。そしてそのスキルで異世界ごと。」


「陛下!また呼んでくれたんだな!!帝国全体に陛下からばれる事もあるかもしれんと周知してたんだが、まさか軍全部とはな。恐れ入ったぜ。」


レオルが駆け寄り、ガハハと笑う。


養父上ちちうえ!いえ、陛下!お久しぶりです。ヨセフ推参いたしました!」


片膝をつき、懐かしい養子むすこが笑顔を見せる。


「救世帝陛下。いつか呼ばれる事を楽しみにしていましたが、昔のような若々しいお姿。感嘆の思いです。エルフ妖精族両軍、ただ今馳せ参じました!」


メラルドがうやうやしく、しかし喜びを隠しきれず言う。


挨拶を見届けたベルゼが、全てを理解して改めてアラタの横に立つ。


「陛下。魔の民、私以下全て揃っております。何なりとご命令を。」


つかつかとベルゼと反対側のアラタの横に立ったリーズが口を開く。


「やはり我が主は凄まじい。守れるなら死んでも良いと思ったが、永遠に我が主と共に生きる事を望む。龍王軍、空において待機完了だ。」


全ての挨拶を聞きよく通る声で、アラタが告げる。


「皆の者!!良くぞ参った!!7つの軍勢に5人の将!!急にばれても動じぬ忠誠心!見事じゃ!!」


帝王の声に呼応するように大軍勢は地鳴りのような気勢を上げる。


「馬鹿な!何だお前は!!こんな物…!!神を超えているじゃないか!ここはヴァルハラだぞ!僕の、僕達の世界だ!!!」


怯えたような声で遠くロキが叫ぶ。


「控えよ!!」 ベルゼが叫ぶロキを制止する。


「救世の勇者にして、七種族の王!」


「ドラゴンの父!」


「魔族の庇護者!!」


「人民解放の王であり!」


「古代魔法を統べる者!!」


「そして、神々の代弁者!」


ベルゼが、ヨセフが、レオルが、メラルドが口々に叫ぶ。


最後に、リーズが嬉しそうに口を開く。


「ここにおわすは救世帝、アラタなるぞ!!」


「お前の様な下級神が失礼を働いた罪。万死に値する!!こうべを垂れ、ただその時を待て!!」


「ぐっ…!下級神だと…!!」


悔しそうなロキを睥睨へいげいし、全員が揃った懐かしい口上を聞いたアラタは重々しく口を開く。


「全軍、怪物共を討伐せよ。但しその下級神には手を出すな。わしが首を跳ねる。」


その言葉を聞き、龍が、獣人の重戦士が、魔装兵が、魔族が、全ての帝国兵が地鳴りのような雄叫びを上げロキの兵士目掛けて襲いかかる。


エルフと妖精族は魔法陣を展開し全軍に様々な能力向上魔法を掛ける。


数百頭はいる龍が、空から火を吐き飛竜ワイバーンを燃やし尽くす。


虎や狼の頭をもつ重戦士が山羊や馬、牛の頭を持つ巨人を引きずり倒し、潰していく。


魔力を纏った刀、鎧を装備した人間の魔装兵が、ただの鉄の鎧を着た巨人兵を斬り刻んでいく。


悪魔に似た容貌の魔族が次々に攻撃魔法を唱え、巨人な蛇を燃やし、或いは凍らせていく。


まるで神の兵士に殺される人間のように、この世界の神の兵士達は蹂躙されていく。


「馬鹿な…な、なんだこれは…」


力なくへたり込むロキを無視して、帝王の兵士は次々に怪物達をすり潰していく。


ロキにとっては長い、わずかな時間で全ての怪物兵達は帝王の命により処断された。


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