第40話 絶望の一手

「貫け!グングニル。」


ロキの言葉と、一刀斎の左腕に刺さる槍を見て、アラタはあれが北欧神話の神と言われるオーディンが、持つ神槍だと認識した。


グングニル、狙いすまして放てば必ず必中する聖なる槍。

聖なる槍と言うには禍々しいオーラと装飾が施されている。


だが今はそんな事よりそのの槍が、一刀斎の腕に突き刺さっている。


「いかん!一刀斎殿が危ない!お嬢ちゃん、上村裕介アレキサンダーの様子はどうじゃ?」


上村裕介の治療を頼まれていた巴は、投げかけられた質問に首を振る。


「血を流しすぎているわ。それに身体中の神経がボロボロよ。今は痛みを取ったから眠ってるわ。」


「そうか…助からんか…。わかった!とりあえずわしは、一刀斎殿の助けに入る!信長殿は巴お嬢ちゃんの元で警戒してくれ!何が起こるか分からんが、もはや勝負は決まった!これ以上ロキに日本人を殺されたくないからのう!」


言いながらアラタとベルゼは駆け出していく。


その時、またロキが槍を構え叫ぶ。


「させないよ! 貫け!グングニル!」


言葉と共に槍が一刀斎に向かい飛ぶ。


また身をよじらせ、避けてくれる事を願うアラタに反して、一刀斎は身体を開きリーズに向かい構える。


グングニルの槍が一刀斎の胸を貫くその刹那、構えから放たれた斬撃はリーズを縛り付ける神器グレイプニルを斬り裂いた。


はらはらと神の縄が落ち、封じられていた龍の王は吼える。


怒り狂っている龍王を横目に刀を構えたままの一刀斎に駆けつけるが、既に絶命していた。


「すまぬ…言わんでも気付いてくれたんじゃな。果たし合い、見事であったぞ。」


手で一刀斎の目を閉ざしベルゼに渡すと、ベルゼは魔法で上村裕介アレキサンダーと共にいる巴に送った。


「あーあ、龍王が自由になっちゃった。」


飄々ひょうひょうと言ってのけるロキにリーズの振り回された尾が当たる。


「ぐっ…!!」


鈍器で殴ったような鈍い音が辺りに響き、龍王リーズが怒りのまま叫ぶ。


「貴様!!我が主アラタと周りに対する対応、全て見ていたぞ!!我が解放されたからには死から逃れられぬと思え!!」


赫赫とした口を開き、今にも喰らいつきそうな勢いで純白の龍が宣言する。


「ふふふ…もういいよ。面倒だ!!」


いらいらとしながら白髪で褐色の神が叫ぶ。


「もう、ゲームは終わりだ!死に損ないの覇王に死ぬ間際に足掻く刀使い。異世界の魔王に、神に近い龍。そして勇者アラタ!!!」


「最初からこうすれば良かったんだ!!」


両手を掲げ、魔法陣を出現させる。


その魔法陣はロキの後方に更に増えていく。


数万に増えた魔法陣から、異形の怪物が出現した。


鎧を付けた巨人、山羊や馬や牛の頭を持つ巨人。巨大な蛇に、翼竜ワイバーン


数万の怪物の軍勢が現れる。


「もはや、残っているのは龍王の魔力のみだよね!こいつらは神である僕の兵士達だ!君一人で何処まで戦えるか見物だね!」


「面白い!この龍王の力試すがいい!」


言うなり、口から炎を撒き散らすリーズ。


その炎は数匹の怪物を燃え上がらせ、絶命させる。

だが、知性が無いのか気にもとめず襲いかかる怪物達。


「そんな攻撃じゃ僕の仲間であるこいつらは止まらないよ!」


嬉しそうにロキが告げる。


リーズも炎や魔法で対抗するがじりじりと押されていく。


「わしとベルゼが上村裕介アレキサンダー軍と戦った時と同じ様相じゃな。」


顔に手を当て考えるアラタにリーズが提案する。


「我が主アラタよ、どうする?【龍王の黒炎】で一掃するか?」


「いや、ロキの狙いはそれじゃろう。リーズまで魔力が無くなればヤツの思うつぼじゃ。」


「ならばどうする我が主。」


炎を吐き、次々と襲いかかる怪物を燃やしながらアラタに問うリーズ。


リーズはアラタがどんな選択をしようと、後悔をしない。全幅の信頼と忠誠心があった。


「ふむ、リーズよ。お主の魔力をわしに渡してくれ。ベルゼもな。賭けじゃがもしかしたらこの状況を変えれるかもしれん。」


「了解だ、我が主。」


魔力を渡す為、人間形態に戻るリーズ。


「かしこまりました。陛下。」


話を聞いていたベルゼも傍に寄る。


なにも迷わず、二人はアラタに手をかざした。


二人の魔力がアラタに渡るー


「何?いまさら勇者に力を渡してどうするの?状況が今より悪くなるだけだよ。」


ロキがにやにやと口を挟む。


アラタは二人に渡された魔力で【異界召喚】の上位進化に挑む。


だが、魔力が足りず何も起こらない。


「くそ、失敗じゃ。魔力が足りん。すまん、二人とも。」


その言葉を聞き、ロキは勝ち誇ったように嗤う。


「アハハハハ!スキルの上位進化か!!魔力が足りなかったと見える!!無駄な事をしたようだね!このまま三人とも死ぬがいい!」


「黙れ、茶ネズミ。我が主が選んだ事は全て正解だ!…我が主よ、気にせずその魔力でここより離脱し生きてくれ!」


リーズがアラタを優しい目で見つめながら言う。


「あら、蛇女。たまにはいい事を言うわね。陛下。後は私達に任せ言う通り離脱して下さい。」


ベルゼも笑顔でアラタに言う。


「魔族の娘よ。我が主アラタを守って死ねるなどこんな幸せな事は無いな!共に死にゆくのがお前と言うのも面白い!!さらばだ!我が主!いつかまた会おう!」


言うなり、リーズはアラタの唇に口付けをして怪物の群れに向き合う。


「陛下。お慕いしておりました。蛇女が言う通り、陛下を守り死ねるのはこの上ない幸せ。必ずお逃げ下さいませ。ではいつかまた。」


ベルゼもアラタの唇に口付けをして、怪物の方に向き合う。


アラタは怪物の方に今にも飛び込みそうな二人を抱き寄せた。


「お主ら二人だけを死なせる訳がなかろう!!

どうせなら、魔力尽きるまで暴れてやるわい!」


魔力を練るアラタ、決死の三人を見てロキは嗤う。


「感動的だね!!だけどそう簡単に現実は覆らない!神に逆らった事を後悔しながら、死ぬんだね!!」


右手を掲げ、怪物兵に突撃の合図を出す。


ロキが高く掲げた右手を振り降ろした。







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