第38話 待っていたもの

「で?何?僕を倒すって?」


両手を広げ、大袈裟な動きでロキはわらう。


「どうやって?確かに君の力は思った以上だったよ。正直、龍王を封じればアレキサンダー大王が勝つと思ってたからね。」


ちらりと身動きが取れないリーズを見ながらロキは云う。


未だに目しか動かせないリーズはロキを憎々しく睨んでいた。


「確かに、魔力も枯渇してお主の作戦どうりじゃな。わし自身にも策は思いつかん。じゃが人の心が分からんお主は必ず倒れるよ。わしが負けたとしても、必ずな。」


返しながらアラタには一つだけ策があった。


それはスキルレベルアップ。


剣聖けんせい】が【剣豪けんごう】からレベルアップしたように、全てのスキルは上位がある。

この世界ヴァルハラに来た時に既に持っていたスキルは、全て上位になっている。


だが【異界召喚いかいしょうかん】はこの世界に来た時に得たスキルだ。


南の関所、地下遺跡、そしてこのアレキサンダー大王との戦闘。スキルレベルアップに必要な経験値は充分にクリアしているはず。


【異界召喚】は上位進化の可能性がある。


だがスキルのレベルアップが出来ても上位進化には必ず莫大な魔力消費が必要だ。


今のアラタは魔力が枯渇しているのでスキルを進化させる事ができない。


さらに魔力付与が出来るリーズが封じられている。


…リーズの魔力やベルガの魔力を付与して貰っても、足りるかは賭けじゃがな。


考えを巡らせるアラタに、ロキが勝ち誇って言う。


「ふーん、僕が必ず倒れるだって?魔力も枯渇して、どうしようも無い君達の最後の戯言として聞いておくよ。」


「じゃあそろそろいいかな?君達を殺し、その足でジパングに攻め込むからさ。」


続けて言い放つロキにアラタが口を挟む。


「関節的に介入する方針は辞めたのかの?上村裕介アレキサンダーを捨て駒にせず、最初からお主が来れば良かったのにのう。」


「前に言ったでしょ?これは国盗りだって。最初から僕が行ってもつまらないじゃん。」


「お主のー」


返答をしようとしたアラタへ、手を前に突き出しロキは静止する。


「時間稼ぎはさせないよ。魔力の回復を狙ってるんでしょ?僕には全てお見通しさ。」


「ふむ…」


アラタの困った顔に満足そうなロキは、いつの間にか手元に握っている上村裕介を貫いた、不気味な装飾が施された槍を構える。


「僕を騙そうとしたって無駄だよ。僕には全て見えてる。僕は神なんだからね。じゃあ、寂しいけどお別れだね。」


槍をゆっくりと後ろに引き


「さよなら!!」


ロキは勢いよく前に繰り出した。


凄まじい勢いで装飾が施された槍が回転しながらアラタを襲う。


ギィィィン!!


アラタを貫いたかに見えたその槍は、弾かれ上に跳ね上げられた。


アラタとロキの間の地面には、今しがたロキの槍を静止した、ぎらぎらと輝く刀が刺さっていた。


「全て見えてる…のう。残念じゃがわしは魔力回復の為に時間を稼いでた訳じゃないぞ。」


ロキは慌てて後ろを振り返る。


「わしは、仲間を待っておったのじゃ。ここで頑張っておったら、必ず来てくれるはずの仲間をの。」


ロキは目を見開いた。馬に乗った軍勢がこちらに向かって来ている。


先頭には刀を投げたのだろう、手を前に放り出した漆黒の鎧の男。後ろには旗を持つ巴と半兵衛。その旗には有名な丸い銭のような印。


「織田…信長…!!」


天魔火銃てんまひじゅう


永楽通宝の旗をなびかせ、その男の呟きと共に空に無数の火縄銃が出現する。

弾道を一つに集約した火縄銃は全ての銃口をロキに向け、火を吹いた。


「チッ!死に損ないが!」


天をも裂くような破裂音が鳴り響き、その音すべてに狙われたロキは、忌々しげに姿を消し避ける。


瞬間移動のように位置をずらして現れたロキ。


だがそこには低い姿勢で抜刀術のような構えをした男が既に


剣鬼一刀けんきいっとう


万物を斬るというそのスキルにより鞘から解放された刀は、空気すら斬るように下から斜め上に放たれた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る