第36話 更なる試練

辺りを見回したリーズはふんーと鼻で息を吐き、得意気に言った。


「我が主、アラタよ。苦戦しているようだな。まだこの世界にずっと居る方法は分からぬが、ここは我にまかせよ。」


「控えなさいトカゲ女。救世帝、アラタ様の御前よ。」


魔法で敵兵を吹き飛ばしながらリーズの方を見て苛立ちながら言うベルゼ。


「ふん、いたのか魔族の小娘。その非力な魔法じゃどうも出来ないだろう。後ろに下がり物陰からみておれ。」


言うやいなや両手を上に掲げ魔法陣を出現させる。


「吹き飛べ!!」


リーズの言葉と共に魔法陣から巨大な火の塊が出現し、アレキサンダーの兵士に大きな音を立てながら落ちていく。


着地と共に火柱があがり、兵士を燃やしながら押し上げた。


跡には巨大なクレーターが残り、そこに居たはずの数万の兵士は跡形も残っていなかった。


「流石じゃのう、リーズよ。」


「ふふふ、我にかかれば一瞬よ。どうだ?我が主アラタよ。そこにいる魔族の娘より役立つだろう。」


得意気に胸を張るリーズ。


「何をいいますか!私も魔力を使えばそれぐらい可能です。陛下も私も魔力を温存させてるのに状況が把握出来てないのですか?全く。」


リーズに食ってかかるベルゼ。今にも始まりそうなケンカの仲裁にアラタが割ってはいる。


「ベルゼは魔法攻撃。それとアンデッドの解呪をしてくれてのう。リーズでも永遠に蘇る兵士などは、魔力をほとんど使うあの【龍王の黒炎】じゃないと厳しいじゃろ。それぞれ役割があるから、喧嘩せずにわしに協力してくれ。

さらにわしが気にしておるのは、どうやら地下遺跡で会った例の神が後ろに控えておりそうなんじゃよ。このまま魔力消費を抑えながら兵士を削るぞ。」


「分かった、我が主。」

「失礼致しました、陛下。」


状況を把握したのか2人はアラタと共に大軍勢に向かって構えた。


「今代魔王ベルゼ=スタークが命じる!悪霊よ、攻撃せよ!」


ベルゼの魔法で現れた数多の骸骨が大きな口を開け、兵士に襲いかかる。


「吹き飛べ!!」


更に魔法陣を出現させたリーズが同じように火の塊を落とし、爆散させる。


一刃皆斬いちじんかいざん


アラタが数多持つスキルの中の剣術スキル。斬撃が巨大化して敵兵が数百人、袈裟斬りにされ、倒れる。


「まだまだ終わりが見えない数がいるが、どうにか出来るかもしれんのう。」


10万余りは減った敵兵を見据え希望が見えてきた、とアラタは考えた。


警戒していた大王のスキルも兵士に不死性を持たせるもので解呪さえ出来れば倒せるのは運が良かった。


あのチンギスのように燃やし尽くし消し去るしか効果の無さそうなものであれば、もっと魔力消費が激しかったはず。


後は削りきり、どうにか大王を倒せれば…


そう思いながら兵士を倒し進んでいく三人。


その勢いを止めるように、魔力がこもった槍が空から降ってくる。


その見た目が普通の槍は、地面に刺さると爆発を引き起こし


三人の出鼻を挫いた。


「すごいね、君たち。」


ゆっくりと姿を表した馬上に佇む青年。


ロキと同じ褐色の肌だが、金髪に青色の目。


胸まである金色の首飾りをつけ、同じ素材で手足を装飾した、まさに大王と言うべき姿をしている。


「お主がアレキサンダー大王か。出来ればもう退いて欲しいんじゃがのう。」


「…悪いけど、止まれないんだよ。俺にも叶えるべき望みがあるからね。」


「そうか、なら仕方ないのう。」


ゆらり、と姿が揺れ次の瞬間アレキサンダー大王の真横に現れたアラタは横なぎの一閃を放つ。


ーキィィン!


その神速の斬撃を剣で受け止めるアレキサンダー。


返す刀でアラタは火花を散らせながら刀の角度を変え、受け止めている腕を狙う。


ーキィィン!


その変則的な一撃をも軽々と受けたアレキサンダーは、そのまま持つ剣をアラタの頭に目掛け唐竹割りに振り落とす。


さっと避けたアラタはさらに打ち込むがそれは全て阻まれ、同じような鋭い斬撃で返ってくる。


真空が生まれるかのように2人の間に、斬り合いの空間が円をえがき、お互い一撃も貰わない。


「合わせるぞ、小娘!!」「はい!陛下、後ろへ!!」


声と共にアラタは後ろへ跳ぶ。その動きに合わせるかのように、リーズとベルゼが合わせた爆撃魔法がアレキサンダーを襲う。


一瞬の閃光を放ち、大王を中心に景色が縮んだと思ったら大きな音をたて大爆発を引き起こした。


周りの兵士が吹き飛び、もうもうと煙が上がる。


だが煙が晴れると両腕を前で交差したアレキサンダーは平然と立っていた。


「強いのう。」


ため息をつくアラタにアレキサンダーは笑う。


「俺が強いのは、君たちが強いからだよ。俺のもう1つのスキル【大王神罰だいおうしんばつ】は相手の身体能力や力を模倣するスキルだよ。まあ、自分の力を超えた模倣は出来ないけどね。」


「力の範囲内って事は充分な化け物じゃな。模倣スキルとは大王らしくは無いがこんなにも脅威とはのう。」


「褒めてくれて嬉しいけど、俺らしいスキルだよ。マケドニアに産まれて、最初は父王の模倣。その後も脅威的な大軍勢相手に勝つためには敵の戦術を模倣してそれを上回ってきたんだからね。この不思議な力は初めて使うけど。」


言いながら、手を振りかざし魔法陣を出現させ、火柱をあげる。


「これは、難儀じゃな。魔法や魔力まで模倣するか。魔力温存とか言ってられないかのう。」


リーズがつかつかと前に出る。


「我が主、アラタよ。我が行こう。こやつの持つ力を超えれば良い事だ。」


言うなり、リーズは元の姿に戻る。


純白の鱗に角。赤い目に死を連想させる大きな口をあけ、神々しい龍の王はアレキサンダーに向かい吼える。


ビリビリと空気が震える中で、大王は笑った。


「これは流石に、模倣出来ないね。なるべくなら自分の力で勝ちたかったけど……縛れ!!グレイプニル!!」


大王の叫びと共に、液体の様な金属で編まれた縄はリーズへと巻き付く。


縄の表面のルーン文字が光り、リーズをたちまちに縛り上げた。


身体を抑えられ、目しか動かせないリーズは自分の身体が微動だにしない事実に驚愕している。


「神の狼や神の龍、いわゆる神獣にしか効かない封印具らしいけど効いて良かったよ。

さあ!!!君達の主力は封じた!!せめて苦しまないようにしてあげよう!!全軍、進撃せよ!!」


油断などしない大王は龍王を封じてなお、全力で敵と相対する。





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