第35話 恐るべき作戦
アラタは平原で一人佇む。
地平線の彼方にこちらへと進む大軍勢が見える。
「さあ、頑張らねばな。」
40万余りの大軍勢とはいえ、並々ならぬ力をもつアラタにとっては、普通ならば相手をするのは難しいものではない。
だが後ろにあのロキが控えている。
アラタが使える【異界召喚】は召喚してる間は魔力を消費するし、広域殲滅魔法などは多数にも有効だろうが、少なくない魔力消費を伴う。
「どう考えても40万の相手をさせて魔力を枯渇させるのが狙いじゃのう。」
アラタはロキの狙いを読んでいた。40万とアレキサンダーを生贄にし、こちらを削る作戦。
まさに人では無い何者かにしか思いつかない一手。
その後に控えているのが何かは分からない為、魔力が枯渇すれば敗北が確定される。
だが、40万の兵士とスキル持ちのアレキサンダー大王を相手に魔力を温存しながら勝てるとは思ない。
「うーむ、詰みかもしれんな。」
いつもの軽い調子では無く、策が思いつかないアラタは真剣な表情で呟く。
40万余りの糧食などジパングの街には無く、ジパングを守るのならば魔力を温存の為にアレキサンダー軍と戦わないという選択は出来ない。
半兵衛が言う通りアレキサンダー軍と戦った後、北から集めた兵や英雄に託すしかない。
アラタは深いため息を吐いた。
昔の魔王や邪神と戦った時のような絶望的な状況。
遠くに見えた軍勢は徐々に距離を縮めて来ている。
「仕方ない。やれるだけやるかのう。」
スキル使用【剣聖】
スキル使用【全能力向上】
スキル使用【魔力解放】
スキル使用【縮地】
恐るべき強さとなったアラタは軍勢に向かって跳んだ。
魔剣レーヴァティンを振り回し、アレキサンダー軍をなで斬りにするアラタ。
致命傷を与えバタバタと敵兵は倒れていくが、終わりが全く見えない。
ものともせず、敵兵から突き出される槍
紙一重で避けながら斬る。
終わりの見えない後続の兵士が、倒れた兵士の頭を踏みつけ踊りかかってくる。
「爆ぜよ。」
魔力消費の比較的少ない爆発魔法を唱える。
魔法陣が出現し、足元から多数の敵兵を吹き飛ばす。
穴が空いたその場所を、まるで再生力の強い生き物のように敵兵が即座に埋める。
アラタは様々な角度から襲ってくる、槍や剣を避け縦横無尽に切り捨てていく。
4000、5000ほど斬っただろうか、突如何処からか声が響く。
【
その声と共に、斬り倒したはずの敵兵が立ち上がり再度アラタに斬りかかってくる。
「魔力を温存しながら数を減らしたかったが…嫌らしいスキルだのう。」
焼け焦げた身体で突いてくる兵士や、腕を切られても襲いかかってくる兵士。
さらに能力が向上してるのか、先刻とは段違いの動きで雪崩の如く襲いかかってくる。
「アンデッドか。これはやはり出し惜しみしながら勝てる相手じゃないのう。」
アラタは上空に飛び上がり回転しながら後ろへと距離を置く。
「アンデッドなどは、殲滅魔法を使っても、呪縛に縛られてる限り蘇ってくるのが定石じゃな。ならばあやつに来てもらおう。」
【異界召喚】
眩い光が戦場を照らし出す。
光が収まると、そこには赤い髪と金色の瞳。黒い羊のような角を持つ魔族の王が胸に手を当て、片膝をついていた。
「今代魔王、ベルゼ=スターク。陛下の元に馳せ参じました。」
「久しぶりじゃな。ベルゼ。元気そうで何よりじゃ。リーズやレオルに聞いておると思う。早速じゃがわしと共に戦ってくれるか?」
ベルゼは片膝をついたまま応える。
「もちろんでございます。陛下。全てトカゲ女とレオル様に聞いております。お母様の件、御礼申し上げます。何よりまた陛下の手となり戦える事に心から喜び打ち震えております。」
「うむ、ベルゼはあのアンデッド達を呪縛より解放し、そのまま死ねるようにしあげてくれ。
この世界の呪縛を解呪できそうかの?」
「お任せください。先程から感じてる魔の力。原理は同じでございます。」
スっと立ち上がり、振り返ったベルゼは、襲いかかろうとするアレキサンダー軍に向かって呪文を唱えた。
「今代魔王 ベルゼ=スタークの名によって命じる。魔の者よ解放されよ!」
バタバタと糸が切れた操り人形の様に不死の軍勢が倒れていく。
敵兵達は一瞬だけ戸惑い立ち止まったが、すぐに倒れた不死兵を踏みつけ進んでくる。
その兵士達を魔法で燃やすベルゼ、押し込まれないように剣で斬るアラタ。
「陛下、止まりません。奴らは不死を拠り所にしていないようです。」
やはりか、アラタは考える。死した後も使役されるのを望む者はおらず、通常なら脱走兵が出てこの大軍勢を維持出来ないはず。
付き従ってる全ての兵は死してなお、大王の為に戦う事を喜びとしている。
「まさに偉大なる、アレキサンダー大王じゃの。魔力をまた使ってしまうが仕方ない。」
そう呟いたアラタは更なる【異界召喚】を唱えた。
眩い光と共に龍王リーズが顕現する。
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