第33話 大王の孤独

「いい感じだね!」


宝飾をじゃらじゃらと鳴らし、アレキサンダーに話しかけるロキ。


いつの間にか自分の陣幕に現れた白髪の男を見て、気配すら感じ取れない異様さに、やはり神だな。と上村裕介アレキサンダーは思う。


「ただ、織田信長を逃したのは痛いね。まあ大怪我してたから、もう生きちゃいないだろうけど。」


ロキが言う様に、あの信長との戦いはアレキサンダーの槍が腹を貫き、決着が着いた。


そのまま、刀に持ち替え首を跳ねようとした時に何者かが横から現れ、信長を連れて逃げた。


あまりの剣技に何も出来ず、ただ見送る事になったのだ。


「あれは何者?対集団では無く、対個人を最大限にまで研ぎ澄ましたような人だったね。」


上村裕介の問いに、ロキは興味無さそうに首を捻る。


「さあ?個人としては強いかもしれないけど、戦争には役立たそうな人間は興味無いんだよね。 それより、次はいよいよ勇者が出てくるよ。」


「勇者??」


「そう、個人の武力もそうだけど、周りに龍の王をはべらせる元異世界の勇者。」


「そいつも転生者か。なんでもありだね。また有名な英雄かい?」


呆れながらぼやく上村裕介アレキサンダーにロキは笑いながら続けた。


「ここはだよ。死した者が神々と共に戦う場所。常識では測れないさ。だけど、その勇者は君と同じで、日本人の時は何の英雄でも無いよ。とにかく、龍王の対策にこれを渡しておこうかと。」


そう言って渡された、長いロープのような物。よく見ると表面にルーン文字が浮いており、金属が液体のように流れている。

この世の何処を探しても見つからないような物質で編まれた縄を、受け取りロキを見る。


「これはグレイプニルっていう封印具さ。神狼を縛りつけて動かさなかった道具だよ。決して切れない縄。龍王が出てきたらこれを使えば何も出来ないはずだから。」


「なるほど、こんな道具を渡すほど相手は強大な訳か。なるべく使いたくは無いけど、日本人に戻る為に遠慮なく使わせてもらうよ。」


上村裕介アレキサンダーの言葉に満足そうに頷くとロキは消えて行った。


ロキが消えた虚空を見上げ、上村裕介アレキサンダーは考える。


相手は転生者か。さらに英雄では無く自分と同じ元一般人。

この世界に来たのが転移なのか転生なのかは分からないが、相手は日本人に戻り日本人として民と一緒に戦っている。


それなのに俺は異国の神に使われ、いつか日本に戻る為とは言え、アレキサンダーとして日本人を殺し、侵略している。


「ふふふ。あの時の日本に戻りたいだけなのに、どうしてこうなったんだろう。」


自分が置かれた境遇と、相手の境遇を考え

絶望とも後悔とも嫉妬とも取れない感情が、身の内を支配していく。


一人、孤独に大王は佇んでいた。







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