第31話 大王と覇王
北の関所は喧騒につつまれてた。
地平線の彼方まで埋め尽くす人の群れは一つの生物のように
「流石は音に聞こえたアレキサンダーよ。退屈はしなさそうである…な。」
日本人なら誰しもが知っている英雄、織田信長はつぶやく。
あの日、キンカン頭の光秀めに裏切られ本能寺で果てたはずの自分は今、こうしてここに在る。
天下布武を唱え日ノ本を統一し、果ては唐、天竺まで攻め進めるつもりだったこの信長の夢はあの日潰えた。
他の英雄と違い一度潰えた夢に、信長はもはや興味なく死者は死者である。と割り切っていた。
一緒に北に来た兵も一度失った生にしがみつかず、信長と考えを同じとしていた。
「死に損なった俺の相手としては悪くない。」
目の前の大軍勢が攻めてくるのを待望し、クククと笑った。
…
…
…
「進軍せよ。」
アレキサンダーの号令により、大軍勢が前に進む。
日本人、
ジパングの北の門は固く閉ざされ、城壁のような物に守られている。
「門をあけよ」
大きな丸太を叩きつけ門を破壊する為の兵器が用意される。
振り子のように丸太が角度をつけ、振り下ろされる。これを繰り返し、門をへしゃげさせ破壊するのだ。
結果が分かっている戦争。アレキサンダーの戦争。
だがその時、上空に数多の火縄銃が現れる。
「来たか。」
アレキサンダーの呟きと時を同じく火縄銃は火を吹いた。
バタバタと倒れる、歩兵。前も見た光景。
だか今回は違かった。
大王は馬上で手をあげる
【
アレキサンダーに転生した時にロキにより授かったスキル。
アレキサンダーがエジプトのファラオに奉じられ、その後歴代のファラオが蘇りを願う事となる理由。
死した兵士を再び立ち上がらせ不死身の兵士とする。
頭が撃たれ即死した者、心臓を撃ち抜かれた者、全てが立ち上がり再度攻め始めるその姿は、まさに黄泉の軍勢であった。
数多の火縄銃が火を吹くがものともせず進む不死兵。
死して脳の制御が外れ、生前の数十倍の筋力をもつ兵士達は、織田木瓜の旗目掛けて城壁を登る。
ジパングの兵も果敢に戦うが、腕がちぎれても進む、剣が刺さったままでも進むその姿は
見る人が祈らずにはいられない、不死の軍勢だった。
あと数度、破城槌の丸太を叩きつければ門が破られる。
門が大きくひしゃげ、破られようとしたその時、内側から門が開く。
開いた門から漆黒の鎧を着た織田信長が姿を表した。
信長を先頭に楔型になったジパングの兵は不死の軍団をなで斬りながら、アレキサンダーの元に一直線に進む。
「そうか。そうだよな。最後は俺自ら決着をつけないと。」
呼応するかのように、アレキサンダーは進む。兵が割れ大王に付き従う兵士が後ろに並び、
奇しくも同じ楔型となった
アレキサンダー軍と織田信長軍は
大きな音を立てぶつかり合う。
鍔迫り合いのような形になったアレキサンダーと織田信長ははじめてお互いの顔を認識する。
「汝がアレキサンダーか。思ったより若い。この信長の刀の元、あの世に行けい。」
ゲームや漫画で見た雰囲気そのままの信長に嬉しくなる上村裕介ことアレキサンダーは剣を押し込みながら返す。
「織田信長、まさに英雄の貴方と剣を交えれるとは。アレキサンダーになってはじめて嬉しいと思ったよ。」
「ははっ意味わかんないよね。気にしなくていいさ。今はただ楽しもう!」
「…そうだな。参ろうぞ。」
切り結ぶ二人、周りの兵士が介入できる隙もない斬撃は永遠に続くかと錯覚する。
アレキサンダーは分かっていた。兵士の数の差や不死のスキル。軍のぶつかり合いではもはや勝敗が見えた信長は、死にに来たのだ。
刀を打ち付けながら、アレキサンダーは上村裕介として言う。
「なあ、引かないか。俺は英雄信長を殺したいと思ってない。二度と軍勢を率いなければそれでいいから。」
「ククク…何故俺の事を知っているか分からんが、天下布武はキンカン頭によって潰えた。死者は所詮、死者よ。お前が知ってる信長はここで引き、生きる男か?」
提案しておいて分かってた。自分が知っている織田信長は死にながら生きる事を良しとしないはずだと。
「失礼な事を言ったね。悪かったよ。せめて俺の全力で相手させてもらう!」
アレキサンダーは剣から槍に持ち替え構えた。
「参れ大王。第六天魔王、覇王信長である。」
堂々とした名乗りに
戦場に一際大きな斬撃音が轟く。
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