第29話 機嫌の理由

隠し扉の中の別部屋に居た、檻に入った魔物を討伐してベルガと子供達を保護した。

地下遺跡の浅い階にいるような魔物だった為、時間もかからなかった。


ベルガの腫れた顔や、やせ細った9人の子供達、部屋の中を見て怒りが沸いたが、気配を感じ子供達を建物の中で待機させ外に出る。


そこには人相の悪い数十人のチンピラと熊のような魔物、鷲の頭を持つ四足の魔物が建物を取り囲むように待っていた。


孤児院に来た時に最初に相対した男が口を開く。


「お望み通り呼んできたぞ!!かしら!あいつらです!」


かしらと呼ばれた、痩せた高身長の男が前に出てくる。


「御役人さん、そいつらはうちのペットを世話する商品でな。勝手に連れていかれたら困るんだよな。」


にやにやと、頭と呼ばれた男はリーズと巴を上から下まで舐め回すように見た後に続ける。


「まあ、見られちまったからには男は殺し、女は商品にすれば解決だな。今のこの街はルールなんて無いが、織田信長が戻ってきた時の為に建前はちゃんとしとかないといけないからな。」


「ふむ、果たしてそう上手く出来るかのう。」


笑みを浮かべアラタが応える。


「お前もスキル持ちか?だが俺のスキルは見て分かるように魔物を従わせる事が出来る。いくら強かろうがその人数じゃ、この10人がかりで討伐する魔物達には勝てねーよ。

分かったら女とガキを差し出せ。そして今度からはこの名前を聞いたら隠れるんだな。俺の名前はー」


「興味無いのう。」


口上の途中で熊の魔物が真っ二つに斬られる。


「長い。我が主アラタは退屈している。」


リーズが指を向けると、鷲の魔物は苦しみながら倒れた。


「お主が英雄なのか、たまたまスキルを得た者なのかは知らん。だが名も無きくずとして死んでゆけ。」


淡々と告げるアラタ。死の匂いを嗅ぎとったのか頭と呼ばれた男は建物から覗いてるベルガに対象を変え恫喝する。


「な、なんなんだ!お前らは!!ベルガ!!!お前の差し金か!!許さんぞ!ガキ共々殺されたくなかったらこいつらを止めろ!!」


名前を呼ばれたベルガの身体は条件反射なのか震え、下を向いている。


それを見てさらに怒りが沸いたアラタは魔剣レーヴァティンに手をかけた。


だが


「チッ!!」


予想していない方向から聞こえた舌打ちにアラタはリーズを見る。ベルガも恐る恐るリーズを見上げた。


「ベルガよ、我がお前と会ってから不機嫌なのは、お前のその弱弱しさだ!弱い身体になったからと心折れおって!!」


リーズの言葉に、ベルガはキッと睨みつけ返す。


「仕方ないだろう!妾はもう昔の妾じゃない!!天罰なのか何のスキルも持たない!どうしろと言うのだ!!」


悔しそうなベルガにリーズはつまらなそうに言った。


「たわけかお前は。魔王だった時のお前のスキルも男を魅了する、戦闘に関係ないくだらんスキルだっただろうが。きっかけはそのスキルかも知れんが、お前を魔王たらしめたのは魔力とその扱いだろう。この世界は魔力は薄いが、そこらにある。天罰などと諦めずに修練しておけば、こいつらなぞ相手にもならん。」


ハッとするベルガ。いつの間にか自分の弱い身体を受けいれ、天罰等と腐っていた。


拳を握りしめ、自分自身を奮い立たせる。


「そうだ…そうだな!!礼を言うぞ!龍王リーズ!妾はいつの間にか、全てを受け入れておった!妾はベルガ=スターク!姿が変わろうとも魔族を統べる魔王だったのだ!!どれだけ時間がかかろうとも、力を取り戻してくれる!」


リーズの不器用な激励は、ベルガの心に届き

アラタが見慣れた、昔の尊大なベルガへと変わった。


「我が主アラタよ、主の怒りも分かる。だが自分の始末は自分でつけさせてやって欲しい。」


そうアラタに言ったリーズはベルガの方に手かざした。


「我の魔力をお前に貸してやる。短時間で消えるが、お前なら扱えはするだろう。」


リーズに魔力を借りたベルガの顔の腫れが引き、雰囲気が変わる


借り物の魔力だが、その力は身体の隅々まで行き渡り、かつての記憶を思い出させる。


「そうだ、魔力があるとはこのようなものだった。感謝する!!龍王リーズ!

……だがどうせなら、昔の豊満な妾に戻してくれたら良かったのに。」


「チィッ!魔力を取り上げるぞ!淫乱魔王!」


舌打ちと二人のやり取り。昼間の様な無理をしたベルガでは無く、やっと昔のベルガに戻ったのだ。


ベルガは組織の人間を見据え、口を開いた。


「さて、今まで散々やってくれたな!!

昔の友のおかげで、妾は戻れた。

何か弁明の言葉はあるか?最後の言葉として聞いてやろう。」


雰囲気が変わり、嫌な汗が流れるが

目の前にいるのは普段から殴りつけていた幼い少女。かしらと呼ばれた男とその周りは強がり、口々にののしる。


「なっ何が弁明だ!クソガキが!お前こそ弁明しろ!今なら許してやるぞ!」


ふふふと年齢に見合わない妖艶な笑みを浮かべベルガはつぶやいた。


「ひれ伏せ。魔王の御前だ。」


魔力を載せたベルガの言葉で、べしゃり と音を立て数十人が一斉に這いつくばった。


「弁明などあろうはずもないな。各々、自分で目を潰し、腕を折れ。」


ベルガの金色の瞳が光り、

男達は、ひいぃと言いながらベルガの言葉通り自身の目を潰し腕を折る。


男達の意思とは真逆に動くそれぞれの手


「やめろ!止めてくれ!」


「お前らは妾や子供達が頼んだ時に殴るのをやめてくれた事があったか?」


冷たい目で見据えるベルガ。


一部始終を見届け、ベルガは終わったと息を吐いた。


「殺さんで良いのか?こやつらはそれぐらいの事をしたと思うんじゃが。」


アラタの言葉に、ベルガは返事をする。


「妾は異世界で生きる為に人を殺めてきた。今は人を殺さんでも生きていける。そして、もうこいつらは人に頼らねば生きていけない。充分な罰だよ。」


「ふむ、強いなお主は。」


関心するアラタにベルガが云う。


「わははは!!抱きたくなったか?後10年待つのだ勇者アラタよ!!」


ベルガは日本人から魔族に転生し、悩みながらも生き抜いた。


人を殺さねば瘴気が取り入れれず生きれない魔族。


想像もつかない苦しみだっただろう。


今、人として生きるベルガは心から笑った。







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