第28話 救出
合流した3人は孤児院へと続く道を堂々と歩いている。アラタの指示に従っていたが、巴はたまらず疑問を口にする。
「二人とも、何でそのままなのよ。アラタに至っては少し派手になってるし。」
上下とも黒の服をまとっている巴は怪訝な顔をしている。
夜なので闇にまぎれる服を選んだのだろう。
だがリーズはいつもの純白のドレス。アラタに至ってはリーズに併せたかのような白の皮鎧を購入して着ていた。
「南の関所や弁慶の件で貰った報奨金で買ったのじゃよ。」
「我が主アラタよ。凄く、もの凄く似合っているぞ。我とお揃いの色というのがまた良い。」
横からリーズが褒め、巴は怪訝な顔を続けている。
「今回は悪所の組織の壊滅も目的だからの。目立つ人間が孤児院を尋ねれば、組織にも連絡がいくじゃろ。
それと上手く壊滅したとて、また似たような組織は出てくる。その時の為の警告も兼ねておるのじゃよ。無法が過ぎると潰されるぞ。とな」
アラタの説明に納得したのか巴はなるほど。と手で表した。
「巴お嬢ちゃんは役所の遣いとして、堂々とドアを叩き大声で宣言してくれ。その後はわしらに任せてくれたらよい。」
「分かったわ、任せて。あそこに見えるのが孤児院よ。二人とも充分に気をつけてね。」
巴が指し示す方、街の中心部から離れた場所に大きな建物が佇んでいた。
…
…
ドアを叩く巴。大きな声で告げる。
「役所の者よ!ドアを開けなさい!!」
ドアの向こうからバタバタと音がし、返答がある。
「困りますよ、こんな夜更けに。子供達も寝ています。日を改めて貰えませんか?」
ぬけぬけと言い放つ孤児院の者に、巴がさらに何か言いかけた時
「どけ、小娘。」
リーズがドアを蹴破った。
驚く人相の悪い孤児院の男をアラタが手で押し退け、ずかずかと中に入る。
「夜分すまんのう。中を改めさせてもらう。子供達はどこじゃ?」
「お前ら!!何者だ!今、人を呼んでるからな!ただで済むと思うなよ!!」
押し退けられ、尻餅をついた男が叫ぶ。
「孤児院の人間とは思えん口調じゃの。まあよい、こっちで勝手に探すからお主も、後ろについてるもの達を呼んでこい。」
「後悔するなよ!!」
男は言いながら後ずさりして街に走っていった。
「やれやれ、ではベルガを探すかの。そんなに広くない建物じゃ、すぐ見つかるじゃろ。」
そう言いながら次々に部屋を確認して回るが、ベルガどころか子供達の姿も見えない。
「どういう事?もしかして既に違う場所に?」
首を
「我が主。隠し扉を見つけた。仕掛けがあるようだが壊すぞ。」
仕掛けを無視し壁板を、見かけからは想像もつかない腕力でべりべり とはがしながらリーズが告げた。
…
…
…
地下の小部屋でベルガはすやすやと寝ている子供達を撫でる。
「しばらくアラタや龍王とは会えんな。」
つぶやくベルガの右頬は酷く腫れていた。
この世界に来てから、孤児院へと送られたベルガは、酷い状況を目の当たりにした。
裏にいる組織が飼っているのか、ここにいる魔物の世話を子供達がさせられていた。
ここでは、男の孤児は魔物より価値が低いらしい。
食べ物も満足に貰えず、やせ細っていた。
弱ると、そのまま魔物のエサにされる。
女は食事は貰えるが言う事を聞かないと殴られた。成長すれば花街に連れていかれるらしい
ベルガは自身の食料を男児に分け与えながら1年をここで過ごしていた。
幸いまだ欲情の対象になる年齢では無く、買い出しや他の子供達の世話を殴られながら行っていた。
今日は買い出しに行った先でアラタとリーズを見かけ話し込んでしまった。
一瞬、昔に戻った気分になったが帰宅するなり遅い、と殴られ自分の現状を再確認した。
「妾はまだ良いが、他の子供達をアラタに頼めないかの。」
前の世で魔族として転生し生きる為とはいえたくさんの人を殺した。
自分の現状はその罰と思えば我慢出来る。
だが、他の子供達はどうにかして助けてやりたい。
「元魔王の癖に勇者に甘えすぎだの。」
アラタなら他の子供達をどうにかしてくれそうな気もしたが、彼らにも今の生活があるはず。
昼間の事を思い出しながら横になったベルガは、扉を蹴破る音といつも暴力を奮う男が、誰かと言い争っている声で起き上がった。
数人が建物の中を歩く音。
いつもと違う雰囲気に、ベルガは何が起こったか頭を回転させる。
魔物を取りに来た?いや、その場合は見張りの男と言い争う事は無い。
まさか、裏稼業同士の揉め事か?
孤児院の裏にいる組織は魔物を使い、方々に恨みを買っていると聞く。
それならば、見張りと争う事もある。敵対組織だとしたら最悪なケースとして皆殺しにされる恐れもある。
隠し扉が見つかない事を祈り、息を潜める。
ベルガの予想を裏切り
隠し扉の先の壁をベリベリと壊す音。
ギィッと隠し扉が開かれ
ベルガの心拍数が跳ね上がる。
子供達を後ろに隠し、構えるベルガ。
「ここにおったか。大丈夫か?ベルガ」
出てきた顔にベルガは安堵しつぶやいた。
「なぜ来た…?お節介なやつらめ…」
言葉とは裏腹に、気付いて助けに来てくれた勇者にベルガは涙した。
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