第26話 散策と再会

ドラゴンの王、リーズは上機嫌で歩く。


きらびやかさとは無縁の、何て事ない街でも主と歩くだけで輝いてみえる。


このジパングという街は向こうの世界の帝国ほどでは無いが、なかなかに広い。役所の前の北と南に続く大通りは聖天堂が見え、大通りを境に商家と市場、武器屋などが点在している。出来れば隅々まで周り、この散策が永遠に終わらないように願う。


龍王は街並みよりアラタの一挙手一動に関心が行っていた。


みすぼらしい民と会話する我が主。


みすぼらしい食べ物を買う我が主。


みすぼらしい子供達にお菓子を与える我が主。


右足から歩く我が主。


左足で着地する我が主。


やはり我が主アラタは素晴らしい。この偉大なる帝王の素晴らしさを、帰ったら皆に自慢してやろう。


魔族の小娘など顔を真っ赤に悔しがるに違いない。


幸せだ。後ろから着いてくる、さえいなければ。



にこにこと、横を歩くリーズにアラタは振り返り語りかける。


「リーズ、気付いておるかのう?」


もちろん気付いている。後を付け回しこちらを見ている事は、随分前から。

だが、リーズはあえて何も言わなかった。


「我が主、アラタよ。気にするな。帝王の威光を一目見ようと後を追い回してる民だろう。」


にこにことしながら、アラタの気を散らす。


「わし、ここじゃ帝王でも何でもないんだがのう。巴お嬢ちゃんが言っていた、魔物の気配でもない。ふーむ、追い回しがあるとしたらリーズかのう。目立っているからのう。」


白いドレス、美しい銀に近い白髪。赤い瞳。人間離れした美貌。

歩いてるだけで目を引くリーズを追っているのか、とアラタは納得した。


「我が主アラタよ、気にするでない。そのうち馬にでも蹴られていなくなるだろう。

さあ!街巡りを再開しよーー」


「勇者アラタ!!龍王リーズ!!」


言いかけたリーズの声を遮るように、追跡者が声をかける。


「チィッ!!!」


鳴り響くリーズの舌打ち。


「我が主アラタよ。が聞こえるな。疲れが出たかもしれぬ、何処か店でも入ってお茶でも飲もう。」


「いや、でもあれ…」


後ろの方で仁王立ちしている赤髪、金眼の少女を指差すアラタ。


だ。我が主。」


リーズは振り返りもせずににこにことしている。


「誰が幻覚じゃ!!とうとうボケたか、龍王リーズ!」


「チィィッッ!!!」


先程より大きな舌打ちをして振り返るリーズ。


「誰が痴呆だ!!この淫乱魔王!!」


咄嗟に言ってしまったリーズは、ハッとアラタを見る。


「魔王…?お主まさか!!魔王ベルガ=スタークか!!」


魔王と呼ばれた娘は腰に手をあてながら言った。


「そうだ!!久しいな!勇者アラタよ!!」


「なるほどのう、あの魔王ベルガ=スタークが実は立花ベルガという、ハーフではあるが元日本人とはのう…ではお互い転生者と気付かずに戦っておったのか。」


イライラしながらそっぽを向くリーズを気にかけながらアラタが言う。


「わっはっは!まさかあの世界で妾の他に転生者がいるとは考えもしなかったな!それも勇者アラタとは!」


場所を食堂に移し、頼んだお菓子を頬張りながらベルガは朗らかに笑った。


「それにしても、わしが覚えてる姿と違うのう。魔王ベルガはもっとこう…」


魔王時代のベルガは色香に溢れ、人を扇情せんじょうするような衣装を着て傾国けいこくの魔王とも呼ばれていた。


「お前らに倒されて、気付いたら若返ってここに居たのだ。髪と目はそのままだったが。

それより勇者アラタ!!その喋り方はなんだ!?約束はどうなっている!妾はお前に魔族の未来を託し、倒されたのだ!!あれから1年で解決したと言うのか!!」


思い出したかのようにベルガは詰め寄る。


近づいたベルガにアラタは告げた。


「実はのう、あちらの世界はあれから70年近く経っておる。巴お嬢ちゃん曰く、ここに集まる人間が死んだ時間軸はバラバラらしいんじゃ。

それとお主との約束じゃが、瘴気を発生する魔法を作ったから、魔族の皆も元気に暮らしておるよ。もちろんもな。安心してよいぞ。」


アラタの話しを聞いたベルガは目の前の、自分と戦った時の姿そのままの勇者が話す内容を信じられないとリーズを見る。

リーズは不機嫌に眉をしかめながらもコクコクと頷き肯定した。


「なんと!妾が倒されて70年とは…信じられんが龍王リーズがそんな嘘をつくはずが無い。

お主は妾以上に若返ったんだな。

それにベルゼも皆も元気なのか…ありがとう勇者アラタ。本当に感謝してるぞ。」


頭を下げながら礼を言うベルガ。


「今の妾には何の礼もできん…だが後10年もすれば、お主の知るあの豊満な妾になる!!その時は妾を抱かせてやろう!!」


お茶を吹き出しむせるアラタ。

リーズが顔を真っ赤にして横から入る。


「な、な、何を言う!この淫乱魔王!!これだからお前と我が主を会わせたくなかったのだ!魔族の小娘ベルゼといい母親のお前といい、我が主の貞操を狙いおって!!我が主アラタの貞操は我のものだ!」


「ほう…養子とは言え流石は妾の娘…男を見る目がある。ならば親子ともども…」


「ど、ど、どこからそんな破廉恥な発想が…!!」


アラタはギャーギャーと騒ぐ二人を横目に、お茶を拭きながら頭痛の種が増えた、とため息をついていた。


取っ組み合いながら、リーズから頬を抓られているベルガにアラタは問いかける。


「それで、ベルガよ。日本人に戻って何をしておる?今何処で暮らしておるのじゃ?」


アラタの質問にベルガが焦りながら唐突に席を立つ。


「いかん!!もうこんな時間だ!!買い物を済まさねば!ではまた会おう、アラタとリーズよ!会えて嬉しかったぞ!」


ベルガは挨拶もおろそかに、走り去っていった。



「我が主…姿を見るまでは気付かなかった。許せ。」


「分かっておる…」


ベルガがそでを伸ばし必死に隠していたあざ


痩せた小さな身体、何日も食べてないかのように菓子を頬張る姿。


「巴お嬢ちゃんに直ぐに調べてもらおう。」



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