第24話 アレキサンダーの覚悟

上村裕介ー アレキサンダー大王はロキに言われた事を全うする為、軍勢を編成しジパングへと南下した。


アレキサンダーの名前はこの世界でも有名だったし、ロキの名の元たやすく人は集まる。


ジパングの民をなるべく傷つけないよう、だが刃向かってくる者は徹底的に排除しながら進軍し、恐れをなした為政者は逃げ出したと聞いた。


『ジパング』という名前だけあって、民も兵士もアジア人、とりわけ日本人のような人種だったが上村裕介アレキサンダーは一顧だにしない。


「思ったより、簡単に支配できそうだなー。これで俺は日本に帰れる。」


長いアレキサンダーとしての人生、侵略と支配を繰り返してきた。


いまや上村裕介アレキサンダーは戦争が日常の一部となっていた。



「とりあえず、いつものように支配下に置き信望する神を認め善政を敷けば、向こうから王を懇願してくるでしょ。」


頭の中にこれからの計画を描き、日本に帰れる日を夢想していたアレキサンダーは、急な反撃を受け進軍を止める。


「何だ?あれ…空中に火縄銃??」


馬上から前線をみると、何百丁もの火縄銃が一斉にアレキサンダー兵に火を吹いているのが見える。


そんな信じられない光景よりも、上村裕介アレキサンダーの目を捉えて離さないものがあった。


風になびく旗に、通貨のような物が三つ並んでいる。


「あれは…永楽通宝…?まさか…」


前に出てきた人物を見て、裕介の微かな予感は決定的なものとなった。


黒いマントをたなびかせ、さらに同じ黒い鎧。

その鎧とマントには木瓜の家紋があしらわれていた。


「織田…木瓜…織田信長が何故ここに!?」


遠目で見る人物を見た事はない。

だが上村裕介はアレキサンダーとして、何故か彼が本物である確信を持っていた。


「…一度退却する…。北に防衛戦を引き、膠着こうちゃく状態にするのだ。」


アレキサンダーとしては珍しい指示を部下に出し、上村裕介は考える。


「俺のがあれば、突破は容易い。でも1度ロキに確認しないと。俺は誰と戦ってるんだ?」



「何してるの?」


築き上げた防衛線まで下がった裕介の前にロキが現れ尋ねる。


「神様、あれは一体何?俺は何と戦ってるんだ?」


「何って、見たら分かるように日本の英雄でしょ?戦ってる相手はヴァルハラに召された日本人だよ。」


淡々と答えるロキに上村裕介は食ってかかった。


「日本人!?俺に日本人と争えというのか!!」


激高する上村裕介にロキは怪訝な顔をする。


「君は今、マケドニア人のアレキサンダー大王じゃない。関係ないよね。話したと思うけどここはヴァルハラで戦争中だよ。」


頭を抱えうずくまる上村裕介にロキは続けた。


「それに約束覚えてる?僕の尖兵として戦わないと、君は日本人に戻れないよ。」


「全て終われば君は晴れて日本人だよ?それとも途中でやめる?」


その神の言葉に、上村裕介アレキサンダーは覚悟を決める。


「分かった…。準備して進軍する。せめて一瞬で倒せるように。」


そこにはもはや、全てを塗りつぶす征服者としてのアレキサンダー大王しかいない。


覚悟を決めた大王の表情を見て、ロキは悪魔の様にわらった。

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