第21話 拗ねる龍王


「ふふふ…我が主…待ちわびたー…

何故、レオルがいる?? どういう事だ、我が主!!」


光の収束とともに出てきたリーズは憤慨している。


「見ての通り、ダンジョンなのでな。前衛として来て貰ったのじゃよ。」


アラタの言い分に納得いかないリーズは食ってかかる。


「この間、我が主がすぐにまた呼ぶ、と言うか ら我は片付けを頑張った! なのにレオルを先 に呼ぶとは…納得がいかん!!」


言葉通り納得のいかないリーズは、レオルを睨みつけながら、ぷんぷんと激怒している。


あまりにも緊迫感の欠けたやりとりに、巴と弁慶は、ぽかんと口をあけ立ちすくんでいた。


「睨まないでくれよ、リーズ殿。そんな場合じ ゃないだろ。後ろ見ろよ、危ないぞ。」


レオルが呆れながら告げる。


その言葉通り、溶岩の海から這い出した八又大蛇ヤマタノオロチはその首の1つの大口を開け、後ろからリーズに襲いかかった。


だがリーズと八又大蛇の間には、見えない壁が展開されてるかのように、大蛇の頭を弾く。

何故弾かれたのか理解できない大蛇は数多あまたの頭を叩きつけているが、全てはね返されている。


リーズは首だけ振り返り、ちらりと八又大蛇を確認し、アラタの方を向き直すと口を開いた。


「まさか、この龍の亜種の相手をさせる為に呼 び出したのか?我が主、アラタよ。」


「そうじゃな。一応龍のようじゃし、お主を呼 ぶ約束してたからのう。どうにかしてくれんかのう。」


こんな事ならもっと早く呼んでやれば良かった。と思いながらリーズにお願いするアラタ。


「我が主はレオルとは長時間一緒に居たのに我 にはこの亜種を倒せ、と。ふーん。へー。ほー。」


あからさまに拗ねているリーズに観念したのか、アラタが告げる。


「わかった、わかった。これが終わったら、わしと街でも回ろう!わしも色々起こりすぎて、まだ見て回ってないからのう。それでどうじゃ?」


アラタの提案にリーズは目を輝かせた。


「約束だぞ!我が主!! そうと決まればこんな所、さっさと出て、街に行こう!!」


嬉しそうに振り返ると、八又大蛇ヤマタノオロチと対面する。


「いくら亜種と言え、龍。 ドラゴンの王の我が命令すればこいつも退くだろう。」


リーズはヤマタノオロチを見つめながら呟く。


「亜種よ、龍ならば分かるだろう。我とお前の差が。ここは退け。」


だがヤマタノオロチは変わらず見えない壁に向かい炎を吐き、頭で殴り、壊そうとしている。


「?おかしいな。我が語りかけても反応がない。」


首を傾げるリーズ。


「龍言語じゃないのかのう?」


「いや、我が主。龍同士は脳内で会話できる。

さらに向こうが言っている事は我には分かる…

ずっと、呪詛の言葉を繰り返している、

何かあるな。探ってみよう。」


そう言うとリーズは右手をヤマタノオロチにかざした。


「ああ、なにやら尾の方に剣のようなものがあるな。それがこの龍に悪影響を与えているようだ。」


その言葉を聞き、弁慶が応じる。


「まさか、草薙乃太刀くさなぎのたちか!!」


草薙乃太刀くさなぎのたち草薙剣くさなぎのけん、八又大蛇を倒したスサノオが、手に入れたという聖なる刀じゃな。」


アラタと弁慶の二人の会話にリーズが口を挟む


「いや、我が主アラタ、これは刀じゃなくどちらかというとソードだな。それに禍々しい気をはなっている。」


「ふむ、分からんのう。どうじゃリーズ、どうにか出来るか?」



「任せよ、我が主。まがりなりにも同族ゆえ殺す気は無いが、取り出してやろう。」


アラタの問いにリーズは答えながら左手から魔法陣を出現させる。


次の瞬間、ヤマタノオロチの巨大な身体が浮き上がった。


「これっ!暴れるな!暴れると痛いぞ!」


じたばたと身をよじるヤマタノオロチに子供を叱る母親のような口調で怒鳴るリーズ。


空いている右手をかざし魔法陣を出現させると、そのまま手刀のような形で振り下ろす。


手の動きに合うように、ゆっくりとオロチの尾が切り離された。


「うわ…痛そう…」


眉をしかめる巴。


「小娘、我ら龍は軟弱な種族と違い尾ぐらい斬られたとて生えてくる。…少し痛いがな。」


「生えて来るのかよ。トカゲみたいだな。」


リーズがレオルを睨みつけ、獅子頭の戦士は手を上げ、まいったというポーズをしていた。


緊張感の無いやり取りが終わるころ、暴れていたヤマタノオロチは大人しくなり、ゆっくりと地面に降ろされた。


「正気を取り戻したか、亜種よ。これは何だ?」


オロチは無言でリーズを見つめている。


「ふむ、自分でも分からないか。気付いたらここにおったと。」


手を顔にあて考えるリーズは、続ける。


「分かった。ならばこれはこちらで処理しておく。お前はここで待機し、我が主から呼び出された時はかけつけるのだ。」


理解したのか、ヤマタノオロチはくるりと身体の向きを変えザブザブと溶岩の海に潜っていった。







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