第16話 地下遺跡

街に到着したアラタと巴は、役所へと足を伸ばす。


「なかなか疲れたが、終わってみれば一瞬じゃったのう。街も混乱せず済んで良かったわい。」


「そうね、普通じゃ有り得ないスピードでいろいろ起こって解決したから、何が起きたかも民達は気付いてないわね。」


フフッと嬉しそうに巴は返す。


勝利の後【全能力向上】を使った早馬を出し、役所へ防衛勝利の報せは既に送ってあった。


「でも、街中に守備兵が目立つわね。警戒解除してないのかしら?」


巴が言うように皮鎧を着た守備兵が目立つ。


「救国の英雄、アラタ様直々に役所に報告しなきゃね!」


悪戯っぽく笑う巴は役所のドアをあける。


中は相変わらず人でごった返し、職員達は何やらバタバタとしている。


「何か嫌な予感するんだけど…?」

「そうじゃのう…」


巴の予言と相槌をうつアラタに、2人に気付いた職員がかけよってくる。


「巴様!!大変です!!」


予感が的中した巴とアラタはため息をつきながら職員の話しを聞いた。


「それで、その僧兵は東の地下遺跡の中に入ったって訳ね。」


巴は頭を抱えながら事実を確認する。

職員の話しを聞いた所、聖天堂に送られてきた英雄らしき僧兵は、守備兵を斬りそのまま街から出て、東の地下遺跡へと逃げて行ったらしい。


巴や職員曰く、送られてきた時の状況ー つまりは死に方によっては英雄が混乱する事もあるそうだ。

中には送られてきた際、何かに影響されるのか、生前より苛烈な性格になる英雄もいるらしい。


巴と職員の話しを横で聞きながら、異世界で聞きなれた言葉が出た事に、アラタは反応した。


「地下遺跡じゃと?地下遺跡とはいわゆるかの?」


「そうそう!その。東の方に地下に降りる大きな遺跡があって、そこから魔物が出てくるのよ。

誰も好き好んで降りて行かないから分からないけど、 噂によると深層にはものすごい武器があるらしいよ。 関所で話した心当たりっていうのは、その地下遺跡の事。」


「ほう!そんな遺跡があるとはのう!話しを聞く限りその地下遺跡は未攻略か!異世界では冒険者と言ったらダンジョンじゃからな。手をつけられてないとは珍しいのう。」


ウキウキしながら反応するアラタに巴は答える。


「昔は英雄が行ったりしてたみたいだけど、帰って来ない人もいたりして、誰も行かなくなっちゃったんだよね。地上に現れるモンスターの討伐でも命がけだからね。私も普通は逆に近付かないように注意するよ。」


巴は続ける。


「ちょうど良かったね!アラタは武器探さなきゃだし、もしかしたらその僧兵の英雄さんも地下遺跡でやられてるかもしれないけど、普通じゃない誰かさんなら地下遺跡だろうがダンジョンだろうが大丈夫でしょ。」


「そうじゃのう、『普通じゃない』が引っかかるがせっかくダンジョンもあって、良い武器がある可能性があるなら行ってみる事にするかのう。」


軽口を叩き合う2人に心配そうに顔をしかめる職員に、巴は諭す。


「早馬で関所防衛の件は知ってると思うけど、みんなで撃退したわけじゃなくて、この救国の英雄 アラタがほとんど1人で撃退したのよ。

遺跡に神様でも出ない限り、大丈夫よ。ということでこの英雄様の人別帳と討伐者登録をよろしくね。」


普通では信じられない話しだが、話しているのが巴と言う事もあり、職員は返事をして登録の準備に戻っていく。


すぐに動き出した職員を眺めながら巴はつぶやいた。


「それより最近の、英雄が送られてくる頻度もおかしいわね。ジパングだけじゃなく華国も短期間で董卓にチンギスが現れたし、アレキサンダーも……何か変な事起こってなきゃいいけど…。」

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