第12話 広域殲滅


「この儂を差し置いて何を話している!!」


チンギスから怒声が飛ぶ。


リーズはちらりとチンギスを一瞥し、アラタに視線を戻した。


「さっきからなんだあのネズミは。我が主を前に何やら怒鳴っているぞ。

いかんぞアラタ、我が主よ。優しいのは知っているが不敬な者を放置すると治安が乱れる。帝王として処罰も必要だ。」


「リーズよ、この世界ではわしは帝王でも何でもない1人の転生者なんじゃよ。ひょんな事からわしの元いた世界では有名な、チンギス・ハーンと戦う事になってな。やつは広域殲滅魔法以外で攻撃すると際限なく増える能力を持っているんじゃよ。リーズは知っておるが、わしは広域殲滅魔法が苦手じゃろ?なのでお主を呼んだって訳じゃよ。」


リーズは微笑み楽しそうにしている。


「我が主よ。帝王とは例え一兵もいなくとも、常に帝王なのだ。それはともかく、我が主の広域殲滅魔法は威力は抜群だが、我のように華麗さは無い。そういう事であれば龍族の王である我の出番だろうな。我が主の為に戦うなど久しぶりで腕がなる。そういう事ならあのネズミの相手をしてこよう。」


広域殲滅魔法に華麗も何もないじゃろ、と思ったが、リーズの機嫌を損ねたくないアラタは黙って、振り返ってチンギスに向かっていくリーズを見送る事にした。


「で、猛り狂うネズミよ。名を聞こう。我が主に歯向かう小物でも名を名乗る事を許す。」


目の前で上からものを言う女に、チンギスは額に青筋を立て、叫ぶように口を開く。


「ネズミだと?ゴミ共めが!!あの世でこの偉大なる帝王へ逆らった事を後悔するが良い!

我が名は蒼き狼!大ハーン・チンギスだ!!」


リーズはぴくり、と反応し激怒しながら言い返す


「ネズミよ、何と言った?お前は何と言ったのだ!!帝王だと? 帝王と名乗って良いのは1人だけ!!

あちらにおわす、

救世の勇者にして、七種族の王!ドラゴンの父!魔族の庇護者!人民解放の王!古代魔法を統べる者! 神々の代弁者! 救世帝 アラタ のみよ!!

お前のようなネズミが帝王を名乗るなど片腹痛いわ!!」


後ろで異世界で散々聞いてきた恥ずかしい名乗りを聞き、アラタは頭を抱える。

今はドラゴンのリーズしかおらぬのに意味の無い名乗りじゃろう…


だがリーズは余程腹をたてたのか人間形態から元の姿にもどり、大きく口を開けた


誰が見てもドラゴンの王と分かる 神々しい純白の鱗と角、見るものに畏怖をもたらす紅の目、死の匂いを感じさせる鋭い牙の生えた大顎おおあぎと


猛り狂ったドラゴンの王はうなり声をあげている。


チンギスは巨大なリーズの本当の姿に驚愕している。


「な、なんだその姿は!!龍だと?そんな生物が現実にいてたまるか!!ふざけるな!!」


リーズの口に魔法陣が浮かぶ、赫赫あかあかとした口内へ周りの空気が吸い込まれ漆黒の炎が吐き出される。


その炎は辺り一面に広がり、チンギス達は黒炎に巻かれた。


黒炎はチンギスの身体を貪るように燃え広がる。


「なんだ!?この炎は!!消えぬ!消えぬぞ!!」


ばたばたと転げ回る、狼の王の身体は次々と炭化し燃え尽きていく。


「うぉぉぉ!!!ふざけるな!いつか、いつか!殺してくれるぅ!!」


最後の一体が断末魔とともにブスブスと黒い塊となり、その塊まで黒炎は消し去った。


静かになり、誰も居なくなった辺り一面は、草木も無く地面が溶け、魔力を帯びた漆黒の溶岩地帯となっていた。


リーズは人型に戻り、振り返るとアラタに向かって、申し訳なさそうにつぶやいた。


「我が主…すまん…やり過ぎた…。」

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