第3話 役所と騒動

目の前に光がひろがり、眩しくてつい眉をしかめる

眼前に広がった光景は記憶の中にあるビルが立ち並ぶ日本と違い、どこか異世界を思い浮かばせる街並みだった。


「活気があり、いい街じゃな。それはそうとお嬢ちゃんの名前も聞いてなかったのう。わしはアラタと言う。小佐々新こざさあらたじゃ。親切なお嬢ちゃんの名前をお伺いしてもいいかのう?」


「よろしくね。アラタ!私はともえだよ。送られてきた人のチェックや、あの建物の掃除が私の仕事だから気にしなくていいよ。それにしても見た目は私と同じぐらいのアラタに、お嬢ちゃんとか言われると違和感あるなぁ。」


こっちだよ、と先導しながら巴は答える


見た目は同じくらい、と言う事は思ったより若返っておるのかもな。鏡も無いから確認のしようも無い。

苗字が無いのか、教えたくないのか下の名前だけ教えてくれた少女はへへっとはにかんでいる。


「ちなみにアラタが現れた部屋以外にもいくつかあって、一般人が出てくる部屋もあるんだ。

私はずっと昔からここに居るから自然と建物の管理人みたいな役割だけど。信長様も私が案内したんだよ。」


巴の話しにうなずきながら、行き交う人々の様子を見る。町人のような服装の者や、上下が繋がったような着物の者、 色々な人間がいるが、その中で皮鎧を着込み 刀のような武器を携えている者に注視する。


「あやつは武器を持っているが兵士か何かかの?」


巴は思い出したかのように口を開く


「そうそう、忘れてた。もちろんアレキサンダーのような軍勢に対する備えの意味もあるんだけど、この世界はいわゆるモンスター、魔物と呼ばれる怪物も出るんだよね。

何か噂によるとロキって神様とかヘルって神様が使役してるらしいんだけど。

仕方ないから自衛の為に帯剣が許されてて、討伐依頼とかも役所に張り出されたりするんだよね。」


またもアラタにとっては聞き覚えがある名前が出てきた。


「ロキにヘルじゃと…?それは北欧神話ほくおうしんわに出てくる神の名前じゃないのか…?聞けば聞くほど良く分からん世界じゃのう。」


「まあ、昔からモンスターや魔物はいるし、その噂ってのが、モンスターを見た誰かが勝手に言ってるのか、本当にそんな神様達がいるのかは分かんないんだけどね。

モンスターの素材や倒した時に落とす宝石なんかは役所が買取してくれるから 腕に覚えがある人は、この役所で人別帳と一緒に討伐者登録すれば、生活に不自由はしないよ。」


いつの間にか役所の前についたらしい。


なるほど、異世界でいう冒険者の役割が討伐者にあたるのか。


「とりあえず生きねばならんし、まだまだ良く分からん事も多いから討伐者になるかのぅ。」


言いながら周りの建物より一回り大きな建築物を見上げる。


周りが和風の建築物が多い中、役所は西洋風の建物で初めて訪れる人間にも分かりやすくなっているようだ。

中に入ると役所と言うより異世界でいうギルドのようなつくりになっていた。


人がバタバタと動いており、多分同じ制服を着ているものが職員だろう。


それにしても、人でごった返している。


「慌ただしいのう。いつもこの調子なのか?」


「うーん、様子がおかしいね。何かあったのかな?」


巴に気付いた職員がこちらに駆け寄ってくる。


「巴様!!大変です!南の関所から軍勢が来ていると報告が入りました!」


職員からの報告を受け、巴の顔色も変わる。


「どういう事?今は信長様が英雄を連れて北でアレキサンダー軍を抑えてるはずだよ。

それに南からって南は不可侵条約を結んでいる華国かこくがあるじゃない!?」


「それが…その華国が不可侵条約を破り挙兵したようです。

軍勢を率いてる者が華国という国など最早無い…と。

我々は新狼帝国しんろうていこくだと言っているようです。」


「新狼帝国……アレキサンダーといい、何が起こってるのよ、この世界は…

それで?軍勢の数と率いてる将の名前は?」


神妙な面持ちで職員の女性が答える


「どうやってかは分かりませんが狼型モンスターとの混合軍。兵数およそ6万。

敵将は…『董卓とうたく』と名乗っています!!」



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