第4話 終末機構は愛されてる
オーディン。
それはソリアを縛り続けていたものの正体。
ソリアを覆っていたオーラの根源。
全ての主犯格が今、はるかに巨大な姿と共に、俺たちを天から見下ろしながら現れた。
「”ラグナロク”。貴様の使命を果たせ。それが汝の望みでもあろう。人類を滅ぼし、その死んだ魂で、滅んだ我が同胞を蘇らせる。それが我々が交わした取引だったはずだ。今こそ、その命を遂行しろ」
オーディンは厳格な趣で冷徹に命令する。
「私は……」
ソリアは怯えながらも、言った。
「たしかに私は、この世界を憎んだ。何もかも他人のせいにして、全てを滅ぼそうとした。それが私の弱さ。神の力に誘惑された、愚かな私」
……ソリア。
彼女は今、自分の弱さを受け入れようとしている。
これからを、生きる為に。
「でももう違う! 私にはもう、こんな私に生きろと言った人がいる! 側に居て欲しいと言った人がいる! だから私はあなたの物じゃない! 終末機構じゃなく、私は人として生きる! シン。貴方と共に……」
最後に俺に振り向き、愛おしく見つめる。
それは俺の好意を受け止める意味を表し。
オーディンの決別の宣言だった。
「そうか」
オーディンは持っていた槍のようなものをソリアに向けた。
「ならば消えるがいい。お前の代わりは時間がかかるが、今からでも作れる」
その時。
ソリアの頭上から紫の電撃が走った。
「ああああああああああああああ!!!!!」
ソリアの、果てしなき苦痛の叫びが痛く、鳴り響く。
「ソリア!!!」
これはただ事じゃない……!
まるで拷問だ……!
俺は1秒でも早く、彼女の元へ走った。
瞬間。
俺の脇腹がでかい衝撃と共に、爆発したかのような痛みが一瞬にして走り出した。
「……がっ……!」
気がつけば、俺はソリアから遠いところまで吹き飛ばされ、倒れ込んでいた。立ちあがろうとするも、足が身体を支えきれない。ふと脇腹を見ると、服がじんわりと真っ赤な血に広く染まっていた。
「……くそ……!」
こんな時に……!
怪我してる場合じゃねぇだろ……!
今すぐにでもソリアの元に向かわなければいけないのに……!
「貴様が、シンか」
オーディンは俺に目を向けた。さっきの攻撃は、奴がやったので間違いない。
「よくも我が終末機構を籠絡したな。その罪は万死に値する。黙って死ね」
オーディンの人差し指からばちばちと閃光がほとばしる。
「……その前に、ソリアを解放しろ」
俺は地に伏しながらも、オーディンを威圧する。
「貴様が我に命令する立場だと思うか? これは罰だ。一年間貴様と不毛な戦闘を繰り返した当然の厳罰だ。そして貴様も、ふざけた誘惑で"ラグラロク"を貶めたこと、決して許さん。もはや同情の余地もない。死ね」
くそ……!
もう成すすべはないのか……!
「ソリア……」
俺はソリアの方を見る。
ソリアは今も紫の雷によって、苦痛の絶叫を上げている。
そして、俺たちは目を合わせた。
ソリアは。
俺に向かって歩き始める。
痛みに耐えながら。
俺を助けるためにぼろぼろの体をたたき起こしながら、それでも
「……!」
そうだ。
何をしている……!
俺はこんなところで死ぬわけにはいかない……!
俺たちは共に生きる。
だから……!
「うおおおおおおおおおおお!!!!!!」
俺は両手を地面に置き、体を起こそうとする。
立ち上がろうとするたび、血が噴水のようにあふれ出る。
体が言うことをきかない。
それでも、立たなければならない。
立たなければ、いけないのに……!
こんなところで……。
こんなところで……!!!
「生き汚い。消えろ」
オーディンの指先の閃光が今にも放電するかのように、光を強める。
「シン—————————!!!!」
ソリアの叫びが響く。
自身も電撃を浴びながら。
それでも俺を思い、力を振り絞り叫んだ。
それに応えるように。
オーディンの巨体に爆発がドカンと発生した。
「……なに!?」
突然の出来事に、神すらも驚きを隠さない。
一体何が起きた?
「よう、シン! まさかくたばってねぇよな!」
すると、聴き覚えのある声が聞こえてきた。
「シンさん! 助けに来ました!」
「ブロック……シンドリ……!」
まさかお前らが来てくれるなんて。
全く。
美味しいところ持っていきやがって。
「火剣スルトの鍛治師か! 貴様らなぜ邪魔をする!」
「別にあいつら自身の事情には興味ねえよ」
「私達が興味あるのは———」
「そう! 俺達が作った武器だ!」
武器———。
そうだ。
俺達には、まだ切り札がある。
ブロック達は、その切り札を使えと間接的に言っているのだろう。
いいだろう。
とことんまでやってやろうじゃねぇか!
「この小賢しい蟻どもめ……! "ラグナロク“と人間の男にもはや戦う力はない! 貴様らから殺してやろう!」
オーディンの獲物は完全にブロック達に移った。
あいつらが作ってくれた、絶好のチャンスだ。
「ソリア……」
ブロック達は、自家製のロケットランチャーとかグレネード弾を使い、オーディンの注意を引いてる。
後はソリアの元へ行くだけだ。
「今いくからな……!」
俺は腕を使い体を引きずりながら前へ進む。
ソリアも今にも倒れそうな足を踏み出して歩く。
ソリア。
俺はもっとお前のことが知りたい。
俺の知らない、お前のいろんな表情が知りたい。
生きて戻ったら、二人でデートしたい。
そこで遊園地に行って、ソフトクリームを食べて、色んなアトラクションに乗って、最後は観覧車に乗る。
春になったら桜を見に行こう。
夏になったら海に行こう。
秋になったら色んなものを食べよう。
冬になったら家で暖かく過ごそう。
———そして、誕生日。
俺が盛大に盛り上げてやる。
一年で一番の思い出にしてやる。
なんならブロックとシンドリも呼んで、みんなで楽しもう。
ソリア。
この世界は、お前をきっと受け入れる。
俺が受け入れさせる。
だから———!
「———あ」
後少しまで触れ合えると思ったその時。
ソリアはついに電撃の拷問に耐え切れず、倒れてしまう。
「———ソリア!」
辿り着け。
石で肉が削がれてでも、身体を引きずり出せ。
そこにお前がいるなら。
何度だって迎えに行く——!
そして。
たどり着いた。
だが同時に俺にも電撃が走る。
でも、大丈夫。
この腕の中には、愛しい人がいる。
これからを一緒に過ごす、最愛の少女がいる。
「ソリア」
「シン……」
彼女の顔を見る。
すっかりボロボロで、目には涙の跡がある。
その涙を拭うように。
「俺と結婚してくれ」
そして。
俺はソリアの唇を奪った。
俺達の周りに光が爆発する。
それはオーディンの雷を打ち消し、俺達に無限の力を与える。
これは契約。
火剣スルトと氷剣シンモラを持つ者同士が愛の誓いを果たすと、互いの剣とその使用者達の力が呼応し、最強のエネルギーを生み出す。
この二つの剣は、対を成す物であると同時に、二つで一つの兄妹剣ということになる。
「ソリア」
俺はたった今キスしたばかりのソリアに語りかける。
「これで戦えるな」
だが。
何やらソリアの様子がおかしかった。
「あーソリア?」
「……ずるい」
ソリアはこっちに振り向き、真っ赤な顔をみせた。目は涙で潤い、怒りに満ちた表情をしていた。
「……へ?」
「ずるいずるいずるい!!! き、ききキスをするなんて……! まだ心の準備もしてなかったのに!」
「わ……悪かったって! でも今はそんなことより——」
「そんなことって! ……ああそうね」
俺達は、今倒さなければならない奴と対峙する。
「後で覚えときなさいよ!」
ソリアは、ふと目を逸らし。
「あんたと話したいこと、たくさんあるんだから……」
と、恥ずかしそうに静かに言った。
「おう! まずは——」
俺達は、オーディンに向き合う。
「あいつを倒してからだ!」
終末機構ですが永遠の愛を誓いますか? 水利はる @mizuriharu
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